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25. 絶対境界ライン

大変お待たせしました。




 高校にほど近い場所にある住宅街。

 その傍にある一つの川を越えた先にタケルの家はある。

 さほど大きくない、よくある川。

 しかしその川は『絶対境界ライン』と言われている。



 リツカはその川に架かる橋を前に緊張した様子でごくりと唾を呑んだ。

「だ、大丈夫。大丈夫。正当な理由があるんだから」

 そう自分に言い聞かせるように呟いて、正面を見据える。

 

 ヤマトが手ずから作り上げた親衛隊にはいくつかの厳しい掟がある。

 例えば、『ヤマトの周囲の人間に危害を加えないこと』

 『上下関係を維持し、相互の利益を与え、損失を発生させた者にはペナルティを課すこと』

 そうした掟の中の一つに、『ヤマトの実家への接近を禁ずる』というものがあるのだ。

 その接近限界ラインがこの川。

 通称『絶対境界ライン』。

 ライン川に掛けているとも言われるこの名称通り、ここを超えて接近する者にはペナルティが発生する。

 それはヤマトへの接近を人海戦術により排除し当分は姿を眺めることすらできなくなるだの、ある種の奉仕活動だのと色々あるらしい。

 その違反者を見つける為、川周囲の家にいる親衛隊員が橋を渡る者を見張っているという噂がまことしやかに流れている。


 リツカの今回の訪問の理由はヤマトである。

 密かな目当てはタケルであるが、このことで後に面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ。

 そして、その件ともう一つ。

 リツカの緊張の理由があった。

 それは、ミコトの件だ。

 さっきは条件反射のように請け負ってしまったが、ミコトがいればまた何かしらの問題が発生するのではという危機感。

(だ、だけど、絶好の機会! こんなこと滅多にないんだもの!)

 腕の中の書類をぎゅっと抱きしめる。意を決して歩き出した。

 その足取りは非常にぎこちないものだったが、誰に呼びとめられるでも、視線を感じるでもなくあっさりと渡り切ってしまう。

 すぐに発見した家は塀で囲まれた一軒家。

 どうやら小さめながら庭があるらしく、塀の向こうに何本かの木が見えた。

(こ、ここだ)

 その家の玄関前に立ち、深呼吸を三回。

 そして、震える指先でチャイムを押した。

 しばしして室内で誰かが反応する気配があり、チャイムから聞きなれた声がした。

「はい?」

「あ、ヤマト先輩!」

 聞きなれたとはいえ、ここしばらくは会っていなかった相手だった。

「あれ? リツカちゃん」

「は、はい!」

「ええと、タケル、かな?」

「い、いえ!そのヤマト先輩へ道場からの届け物を……」

「届け物? ああ、ちょっと待って」

 不思議そうな声は気負うところがない。

 穏やかな声に、緊張していたリツカの気持ちが少し解れた。

 時を置かず、がちゃりと開けられた扉の向こうには私服姿のヤマトがいた。

「こんにちは、ヤマト先輩」

「うん、こんにちは。お使いお疲れ様。届け物って、ソレ?」

「はい」

 にっこりとほほ笑むヤマトに釣られるようにリツカも笑う。

 そして、書類を差し出した。

「他流試合の申し込みがあって、打診したいそうです」

「打診?」

「一応、受験生だから、って」

「ああ……んー……どうしようかな」

 早速中身を出して、パラパラとめくり始めるヤマト。

 その傍で、リツカはもじもじと挙動不審になる。

 初めて訪ねた、初恋の相手の自宅。

 あれ、これタケルがいつも履いてる靴だ。

 二階がタケルの部屋かな?

 そんな思考で目線がうろうろする。

 その様子を見て、ヤマトが苦笑する。

「やっぱりお目当てはタケル、かな?」

 ちょっと悪戯っぽく笑う顔で、自分がタケルを好きなことがばれているのが分かる。

 勿論、今更のことだが。

 あれだけ他の二人と一緒に騒ぎを起こしているのだから、ばれていないはずがないのだが、長年憧れ、敬愛していた人物にばれているいうこの状況は恥ずかしすぎる。

「いやあのっ! ……その、あうぅ」

 軽いパニック状態になって、慌てて下を向く。

 だから、リツカは気付かなかったし、聞こえなかった。

「んー……。ちょっと複雑かな」

 そう呟いたヤマトが苦笑と共に、僅かな警戒を見せていたことに。

 だから察することができない。

(今のところ、トーコに危険を及ぼしかねない三人の内一人が、昔から見てきた後輩っていうのも、ちょっと厄介だな。元々悪い子じゃないのが更に、ねぇ)

 ヤマトがそんなことを内心で呟いていることに。

「で、あのタケル、君は?」

 からかわれながらもそう問いかけたリツカに、表情をのんびりしたものに切り替えて頷く。

「ああ。いるよ。呼ぼうか?」

「え! いいんですか?」

 ヤマトの申し出に声が喜色に跳ねたリツカに苦笑。

 本当に分かりやす過ぎる。

 素直な反応のリツカを笑いながらも、ヤマトが階段を見上げるように身をよじりタケルを呼ぼうとした。

 その瞬間だった。

「ちょっと待って。……タケ」


「ちょっ!! おま!? トーコどうした!! 待て落ちつけ馬鹿っ!」


 悲鳴じみたタケルの声が家に響いたのは。

 

 

 

 


私のモチベーションと、軽いスランプのせいで長らくお待たせして申し訳ない。

早くこのスランプと低迷するモチベーションを戻して、元のペースで更新したです。

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