22. 大好きな気持ち
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彼は誰の目から見てもスーパーヒーローだった。
その上で、一人の悩み多き少年だった。
『ヤマトー! タケルー! 遊びに来たぞ!!』
そういって、朗らかな笑みと共にお隣を訪ねてくる彼とトーコが出会ったのは、11年前。
トーコが4歳、サクヤが14歳の時だった。
タケル達の叔父とはいえ、おじさんと呼ぶには若すぎる彼を、皆サクヤ兄ちゃんと呼んではじゃれつく。
そして、そんな甥っこ達を屈託のない笑みで構い倒し、遊んでくれた。
そんな彼に好意を抱かない人などいない。
勿論、トーコもその一人だ。
タケルとワンセット扱いの多かったトーコもまた、サクヤにとってはもう一人の親戚、姪のようなものだったのだろう。
同じようなレベルで、一緒になって遊んでくれるサクヤが大好きだった。
それでも出会った当初の『好き』には恋愛感情など付随していなかったと思う。
その感情が変化したのは、5歳の時の火災だ。
ショッピングセンターに取り残されたトーコを、我が身の危険も顧みず救い出してくれたのはサクヤ。
彼はまるで正義のヒーローのようだった。
痛む喉で、それでもたどたどしいながらも感謝を伝えようとしたトーコに向けた、あのすがすがしい笑顔。
見た瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。
それが、早すぎる初恋だった。
大好きだと惜しげもなく伝えてじゃれつき始めたトーコを、サクヤは、はにかみながらも可愛がってくれた。
嬉しくて、楽しくて、幸せで。
だけど、気付いてしまう。
十も年下の少女が、至ってノーマルなサクヤの恋愛対象に成るはずがないのだと。
一緒にいても、兄弟と思われるのが関の山。
勿論、それで正しいのだ。
それが、正しいのだ。
そんな幼い少女を対象にする方がおかしい。
自分の思いはかなわない。
――――それに傷つくトーコの方が、可笑しい。
どうすれば、この距離はなくなるんだろう。
どうすれば。
小学校に上がり、低学年、中学年と年を重ねても色褪せない思いに、心の中がぐちゃぐちゃになって、サクヤを遠ざけたこともある。
(だって、サクヤさんはどんどんカッコよく成っていく)
(いくら年を取ったってそれ以上の速さで遠くなる)
(彼にはいつだって綺麗な女の子が傍に行きたそうにうずうずしてる)
だから、もう無理だよ、と自分に言い聞かせる。
だけど。
ああ、だけど。
そんなトーコの相談相手になってくれたのは、コノハナだった。
タケル達の母で、サクヤの実姉。
『トーコちゃん』
目を細めて、愛おしげに。
頭を撫でながら名前を呼ぶ。
『サクヤはね、トーコちゃんが思ってるような人間じゃないかもしれないよ?』
トーコの想いを否定するような言葉を口にしながら、それでも声は慈しみに溢れていた。
『もっとサクヤのことを見つめてみて?』
『そして、サクヤが欲しがっているものは何なのか、考えてみて』
歌うような涼やかな声で、トーコの心を揺さぶる。
『サクヤがどんなことを喜ぶか、どんなことに傷ついているのか、どんなことに幸せを感じているのか』
私は、そうしたの、と幸せそうに言う。
コノハナも又年の差カップルだったのだ。
実は7つ年上の男性にアタックし、見事射止めたつわものである。
コノハナが彼とであったのは15歳の時、すぐに好きになった。
そこから3年かけて恋仲になり、18歳の時、高校卒業と同時に駆け落ち同然で家を出て、同棲を始めた。
その為、父からは勘当されている身である。
年を経てもまだ夫に恋し続ける、云わばトーコの先輩の『恋する乙女』だった。
そのアドバイスを胸にサクヤを見つめた数カ月。
サクヤは他の女性にもすごくモテること。
一方的な恋情、好意にはひどく冷たいこと。
自分は一応特別扱いを許されていること。
コノハナ勘当後、締め付けを厳しくし、神経質になった父に反発していること。
普通の家族愛に飢えていて、コノハナ宅に来る時はそれを求めていること。
辺りにありふれた恋愛なんかより、家族が欲しい、サミシイサミシイ人。
『コノハナさんのばかぁーーー!』
そう言ってトーコがコノハナの元に怒鳴り込んだのは9歳の時。
『もっと好きになっちゃったじゃないぃぃ』
ぐじぐじと鼻をすすりながら、抱きついてきたトーコを、コノハナが笑いながら抱きとめた。
知れば知るほど好きになって。
そうしたらもう腹をくくるしかなかった。
彼の隣に相応しくあるように。
似合う女性に成れるように。
努力すること。
それしかなかった。
その日から、トーコは大人の女性への道を駆け足で走り始めた。
だた、彼の為に――――。
当然のことながら、この話はロリコンを推奨したものではありません。
趣味嗜好は否定いたしませんが、ダメ、犯罪。
9/1 誤字訂正