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18. 美少女来襲


 大きくてつぶらな瞳。

 さらさらの長い髪は艶を帯びた漆黒。

 肌の色は白く、細く華奢な肢体はしなやかに動く。

 頭脳明晰、スポーツ万能。

 街を歩けばモデルや芸能プロダクションからスカウトされる。

 その少女こそが、お隣の三兄弟、最後の一人。

 末っ子のミコトちゃんだ。

 

 

 

「ねぇ、校門前にすんごい美少女がいるよ」

「え、何々?」

「あれ、近くの中学の制服だよね」

「うわぁ、ホント可愛い~~」

 ある日の放課後。

 下校前の賑やかな教室内でその声は響いた。

 窓際にいた女生徒の声に次々と人が窓に集まる。

(聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする)

「…………中学生?」

「…………美少女?」

 同じだけ沈黙して呟いたのはタケルとトーコだった。

「どうしたんですの?タケル?」

「ねぇ、トーコちゃん、もしかして」

 そして、ミナコがタケルに、チカがトーコに声をかけたのも同時。

 それに二人は揃って『あちゃーしまった』と言いたげに額に手を当てた。

「あー……悪い。俺ちょっと」

「いや、いいよ。タケル。私が行く」

「それで済むはずないだろ」

「それはそうなんだけど、ここは時間差で行こう」

「ああ。そういうことか。了解」

 少し離れた位置から、軽く打ち合わせると、手早く帰り支度を整える。

「じゃ、また明日ね。チカ」

「うん。バイバイ。頑張ってね」

「頑張る」

 チカと軽く別れを済ませて、トーコは急ぎ足で校門に向かった。

「何なんだ?」

「タケル、中学生の美少女とは何者なんですの?」

 ?マークを浮かべつつ、新しい女の登場かと不審げな顔になる二人に、タケルが困ったような顔面になった。

「うん……多分あいつだ」

「あいつ?」

「あ、もしかして」

 はっきりしない物言いのタケルに何か思いだしたスミレが小首を傾げて問いかけた。

「妹さん?」

 その単語に、タケルが渋面になる。

 それは肯定の証で。

「い……」

「「「いもうとぉぉ~~~!?」」」

 驚愕の声はミナコやリツカだけでなく、窓際に張り付いていたクラスメイトのものも含まれていた。

 その反応に。

「もしかして、俺の兄貴がヤマト兄だって忘れてる?」

「あ」

「ごめん、そういやそうだった」

「最近お前の情けない表情しか見てなかったから」

「その納得感が納得できない」

 残念なイケメンの面目躍如だった。




 校門前には、ざわざわとした空気が漂っていた。

 凛とした表情の美少女は服装からも年下とわかっていても、侮ることを許さない何かがあった。

 御世辞にも穏やかと言えない表情は、ある種のバリアとなって人を寄せ付けない。

 通り過ぎる生徒達は気になって仕方ないのに、声をかけることができないようだ。

 そんな彼女にトーコは躊躇いなく早足で近づいた。

「ミコトちゃん」

 呼び掛ける声に振り向いた少女の表情が激変する。

 冬の険しさから、春の陽だまりに。

 表情は柔らかくほころび、瞳は嬉しそうに輝き、鈴を転がしたような声がはじける。

「トーコちゃん!」

 小走りにトーコに近づいた少女こそが、三兄弟の末っ子、ミコト、中学一年生である。

 近くまでくると、両腕を伸ばしてぴょんっと飛びつく。

 トーコは小柄な彼女をしっかりと抱きとめながら、いつも通りの反応に微笑んだ。

「トーコちゃん! トーコちゃんだ!」

「うん。なんか久しぶり。最近登校も早いし、帰りも遅かったみたいだもんね。部活、どう?」

「ぼちぼちかな」

「楽しい?」

「うん。でもトーコちゃんと遊ぶ時間がないのが寂しい」

 ぴったりと張り付いたまま答えるミコトに笑みが深まる。

「いつでもうちにきたらいいのに。今度泊り来る?」

「いいの?」

「勿論」

「やったぁ!」

 際限なく甘やかすように背中をぽんぽんと叩いてあげると、嬉しそうに頭をぐりぐりすりつけた。

「でもどうしたの?学校まで来るなんて」

「あ、そうだ! ソレ!」

「ドレ?」

 トーコの切り出した疑問にミコトががばっと顔を上げた。

 それにすっとぼけて聞いてみる。

(本当は見当がついているんだけどね)

 勢いをそぐために。

 そのつもりで問いかけた質問に、ミコトは表情を真剣なものにした。

 

「トーコちゃんをいじめてる人ってどの人?」


 ぎゅっと眉間に皺を寄せて、真っ直ぐにトーコを見て聞く。

「……うん?」

 予想以上に情報伝達が歪んでいた件について。

「いじめられてる? 私が?」

「違うの? タケル兄のストーカーに苛められてるって」

「ストーカー……これはまた」

 誰だ。

 伝言ゲームの途中で内容を過激に改変したのは。

 空を仰いでため息を零して、改めてミコトを見下ろす。

「いやそれは…」

 そんな事実はない、と説明しようとしたトーコの後ろで、怒りに震える声が響いた。

「苛められているのはコチラの方ですわ!」

 振り返ると、顔を真っ赤にしているミナコと硬い表情のリツカ、困惑した表情のスミレがいた。

 そしてその後ろで肩を落とすタケル。

(あのバカ。せっかく時間稼いで怒れるミコトちゃんの鎮火に取り掛かろうとしていたのに)

 ごめん、と手を合わせている様子から、なんとか止めようとしたのだろう。

 自分が退室したあとの反応など知れている。


 ①ミコトちゃんが妹だとバレる。

 ②タケルの妹に挨拶を。

 ③トーコと親しいことで色々吹きこまれてはたまらないので一刻も早く。

 ④制止するタケルを振り切って到着。


 おそらくはこんなところだろうとトーコは推測する。

 そして、それは誤りのない事実だった。




三兄弟最後の刺客、とかついうっかり書きそうになりました。

四天王最後の刺客、的な。

となるとタケルは「ふ、あいつは三兄弟の中での最弱の男。ヤツを倒したところで調子にのらないことだ!」なポジションにな、うわ何をするやめry

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