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1. おかえんなさい

見切り発車です。

 

 黄色い救急車ってどうやって呼ぶんだっけ?



 そんな疑問が頭をよぎったあたり、私も相当動揺していたようだ。

「げ、げぇ!? トーコ!」

 平和な日常。

 よくある住宅街の一画。

 隣接する我が家と、幼馴染タケルの家は同じく二階建てで、手を伸ばせば触れるくらい近い。

 二人の部屋は偶然にも窓が向きあう場所にあり、お互い屋根越しに行き来できるという、定番青春ドラマのような仕様になっていた。


 お隣の三兄弟のうち、二男のタケルは同い年。

 ヘタレでお人よし、成績は中の下、運動神経も平凡。

 実は顔立ちは悪くないのだが、やぼったい眼鏡と、生来の積極性のなさのせいで、イケてない男子の一員だ。

 長男である二つ上のヤマトがイケメンで、成績優秀、運動神経抜群。

 その兄が比較対象として有る為、更に冴えなさが際立っている。

 ちなみに末っ子はミコトちゃんという女の子でこれまた美少女である。

 とはいえ、性根はいいヤツで、現在良好な友情関係を築いている。


 わけだが。



 夕方、窓の向こうが眩しい輝きに包まれ、何事かと思ってみると、その光の中心にタケルがいた。


 まるでファンタジーの勇者のような格好をしたタケルが。



「コスプレイヤーデビューおめでとう?」

 手にしていた着替えが手から零れ落ちるのにも気づかずにそういうと、タケルの顔が真っ赤に染まった。

「ちちち違っていうか早く服着ろ!! カーテン閉めずに着替えんなってあれほど言ったじゃねーかよっ!」


 夕暮れ時の住宅街に 思春期の少年の悲鳴じみた声が響き渡った。





「あー……トーコ?」

「……いやあの」

「うん?」

「やっぱり黄色い救急車いる?」

「俺は正気だ!」


 一時間後、場所はタケルの部屋。

 叫びに集まった家族を誤魔化し、それぞれに着替えと夕食を終え、トーコはタケルの部屋に窓越しにお邪魔していた。

「信じられないよなぁ……」

「うん。学校帰りに光に包まれ、異世界っぽいところに行って、勇者してきました、なんて言われてもなぁ……」

 しょんぼりと肩を落とすタケルを見て、ため息。

 目の前にはさっきタケルが来ていた防具やらマント。

 そして、どう見ても銃刀法違反な聖剣とやらがある。

「よっと」

「あ、危ないから気をつけろ」

「お、重っ!?」

 何気に手にとってその重さに驚く。

 タケルはこんなに力が強くなかったはずだが。

「ソレ、神聖武器で俺だけが使いこなせるらしい」

「持ってみて」

「こうか?」

 促すのに立ちあがって、剣を手に取る。

 すっと簡単に持ちあがるそれに、トーコは微妙な顔になった。

「切れる?」

「まぁな……。斬れるよ」

「……」

 自分が言った『きる』と発音が違う気がした。

 一瞬黙ったタケルの顔を見てため息が零れる。

(何を斬らされるハメになったんだか……)

 タケルは、気弱と紙一重なくらい優しい少年だ。

 聞いたところによる異世界で二ヶ月余りを過ごし、魔王軍とやらを撃退したらしい。

 今まで生き物を傷つけたこともなかったタケルがどう過ごしたのかはわからない。

 辛いことも多かっただろう。

 よく見れば、少し印象も変わったように思える。

 容姿が変わったわけではないが、どことなく浮かべる表情が違う。

「まぁ、なんていうかさ」

 言葉に困ってタケルを見る。

 タケルは少し緊張しているように見えた。

 久しぶりに帰ってこれた故郷。

 だけど、いきなり誤魔化しようのない姿を見られ、全て説明する羽目になった。

 自分がおかしなことを言っている自覚はあるだろうし、変わった自分をどう捕らえているのか分からないが、今までと違う自分がどう見られるか不安もあるだろう。


 どうしよう、態度が変わったら。

 どうしよう、嫌われたら。


 そう思っているのが手に取るようにわかった。

 腐っても幼馴染だ。

 恋愛感情は互いに皆無なれど、大事な友達……否、手のかかる弟のようで、時には背伸びしたがりな兄のようだと思っていた。


 それは今も変わらない。

 だったら、取る態度はたった一つだ。


「お疲れさん」

「え」

「うん。だからご苦労さま」

 へらっと笑って答えて。

 茫然とするタケルにいつものように言う。

 それにタケルの顔が泣きそうに歪んだ。

「んで、おかえんなさい」

「うん…………うん、ただいま」

 必死で涙をこらえて答えたタケルに満面の笑みを送る。

 そして。


「それよりさ、二ヶ月まきもどして元の時間軸に返してもらったとかって話だったけど、明日提出の宿題とか覚えてる?」

「え゛!?」

 一瞬でタケルの顔がひきつった。

「ト、トーコさま!?」

「ふはは、仕方ない。パティスリーMINTのガトーショコラで手を打とう」

「こっちの金はいつだって金欠だってのに鬼ぃぃぃ!!」



 勇者サマとやらの怨嗟は、割と心地よかった。

 

 


Q.タケルくんはトーコちゃんの着替えをどのタイミングで見たんでしょうか?

A.トーコちゃんはパンツ一丁でした。ちなみに胸はCカップ。同様のどっきりイベントはすでに3回目です。


恥じらえよ主人公


7/10 調整、改訂

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