あぶれた者達は
冒険者組合。
領主、商人、あらゆる一般人より公的対応の難しい問題を広く受注し、
所属する冒険者達に依頼として斡旋、解決してもらう組織である。
冒険者達は登録時に身元調査をされており、一定の信頼が置ける者である。
不心得者も残念ながら存在するが、そうした者に対する処罰も行っており、
全体としての評価はそれなりに高い。
また、依頼者に対しても調査はあり、後ろ暗いものは極力排除されている。
組合を通せば割に合わない仕事や、犯罪への巻き込まれなどは避けられる。
冒険者と依頼者、双方の安全を保つ、それが冒険者組合の存在理由である。
では、日の当たる場所には出せない非合法な依頼は成立しないのだろうか。
実はいる。非合法なものに積極的に取り組み、報酬を得る連中が。
冒険者として不心得者とされ、資格剥奪されたにも拘らず、
冒険者組合や憲兵の目を潜り抜けて活動を続ける者達がいるのだ。
技量がありながらも倫理観は欠けている、法を破ることを厭わない、
そうした者達は冒険者組合から嫌悪感を込めてこう呼ばれていた。
「冒険者もどき」と。
◆
とある町の貧民街の一角にある、一見民家に見える酒場。
安酒と薬物の不快な匂いが漂うそこで、数人の人物が会話をしている。
彼らは「もどき」だった。ほとんどは元一つ星や二つ星である。
「最近、王都のほうはどうよ?」
「かなり『仕事』はやりづらくなったな。
何せ夜、どこもかなり明るいんだ。建物の近くに身を隠す場所がねぇ」
「王都だけじゃねえって。それ。
主だった領都はほぼ夜間照明が行き届いちまったってよ」
「街道もそうだよな。夜になるとご丁寧に道沿いに明るくなりやがる」
「んじゃ、よその国にでも行ってみっか?大公国とか」
「どうだろうな。あちこち輸出してるらしいぞ。あの夜間照明」
「うわ、まじか」
この数年で、昼間太陽の光を蓄積し、夜間に放出、周囲を照らすという、
安価な夜間照明が魔道具として開発され、瞬く間に世間に広まった。
街灯だけでなく一般家庭でも複数購入され、使用されている。
それまでの夜間照明と言えば、蝋燭や松明である。
夜通し火を使うのはさすがに危険で、消えた場合の補充も手間だったが、
この魔道具は一晩中持続し、火を使わないので火事の心配がない。
魔道具は通常、非常に高額だ。大抵遺跡や迷宮から発掘されるもので、
失われた過去文明の、本来ならば現代技術で再現不可能な代物なのだ。
それが、一般家庭数日分の食費で買えてしまう。しかも物持ちが良い。
そんなものに世間が飛びつかない訳がなかった。
これを作り上げたのは、当時九歳だった王立中央学院の少年なのだが、
「もどき」の中に知る者はいなかった。聞いても信じなかっただろう。
少年が「夜中に本を読みたかったから、出来るだけ安く作った」おかげで、
こうも彼らの『仕事』がやりづらくなるとは。
少年は他にも、夏場に熱を蓄積し、冬場に熱を放出する魔道具も作り、
農作物の大幅増産を達成し、それに伴って餓死者や凍死者、病人が激減し、
夜間照明での治安改善の件と合わせて一代騎士、準男爵の位を賜っている。
彼ら「もどき」が夜間照明に文句を言いながら今飲んでいる安酒も、
魔道具による穀物増産のお陰で安く出回るようになったのだが、
それを知ったところでその少年に感謝したりはしないだろう。
「もどき」達に窃盗、強盗、密輸、殺人を依頼していた連中の中でも、
耳聡い者は少年の功績を知っていたし、苦々しさも感じていたが、
国が後ろ盾になっている為、うかつに手を出す訳にもいかなかった。
故に「もどき」達には情報を伝えなかったのである。
知った「もどき」達が暴発して動き、下手を打って捕らえられでもすれば、
こちらとの繋がりが明るみに出て巻き添えを喰らいかねない。
裁かれないまま、まだまだ旨い汁をすすりたいのだ。
「もどき」達の愚痴大会は夜通し続いたが、特に解決策はない。
依頼者からの連絡もあるので、安易に町を出る訳にもいかない。
今更ここから足を洗う事も、憲兵へ自首する事もしたくない。
訪れない幸運が訪れるのを願いつつ、この場で燻ぶるだけである。
夏場に熱を蓄積し、冬場に熱を放出する魔道具、今欲しい(切実)




