結婚前夜〜ずっと言えなかった王子の本音〜
あ、来てくれたんだ。
もう少し待っても来なかったら迎えに行こうとしてたところだったよ。
準備、おつかれさま。
まぁそこに座って座って!
何飲む?ハーブティー?
OK、最近流行りの紅茶ね、ハイドーゾ。
呼び出したのはさ、どうしても話しておきたいことがあったからなんだよね。
…そんなに身構えなくても別に取って食べたり、いきなり婚約解消なんて言わないって。
え?前科?
いや、あれは…うん…
…まぁ、とりあえず、そのことも踏まえて話したいから、飲みながら聞いてくれる?俺の話。
…うん、ありがとう。
まずは、そうだね…
どこから話そうかな…
…俺はさ、君もよく知ってる通り、この国の第一王子として生まれた。
エレメント王国は王制で、次代の王、王太子として望まれてきた。
最初はさ、この国を良くしたい。
皆に誇れる王になりたいって思ってた。
……意外?
失礼だなぁ…俺だって昔からこんなに捻くれてたわけじゃないってば。
続けるけど、
でも万人に好かれるってのは無理なんだよね。
誰かにとってのいい政策は、誰かにとっては搾取になるから。
結果として今の王政に不満を持つ輩はまだ弱い俺を狙ってきた。
暗殺に怯える毎日だった。
食事には毒が混ざってるかもしれない。
馬車に乗れば夜盗に襲われるかもしれない。
城内ですれ違い様に刺されるかもしれない。
それらは王太子暗殺を企む奴らの手によって実際にあったことだよ。
幸い近衛とかその動きに気付いてた両親の采配で守られたけど。
1番ショックだったのは乳母だと思ってた人がその手引きをしてた犯人だったことかな。
それからは特に人を信じるのが怖くなった。
…臣下達?無理無理。
宰相はどうやって俺を操り人形にしようかとしか考えてないし。
騎士団は筋肉と戦争のことしか考えてない。
メイド達は俺に見そめられようとあの手この手で薬やら夜這いにくる。
親父とお袋…
…え?何?陛下と王妃様と呼べ?って?
表ではちゃんとしてるんだからいいのいいの。
…ボロなんて出ないと思うけど…?
わかった、わかったよ。
わかったからそんなに怒らないで。
はぁ…本当に君って真面目だよね…。
で、もちろんこの国の陛下と王妃にそれを相談したけど、自分の力で解決するのが王の器だとかなんとか言ってさ…。
結局はめんどくせぇだけだろって。
…え?君?
まぁ、親が勝手に決めてきた婚約者…かな?
信じるとか、信じないとかじゃない。
そこに俺の意思は何もなかったし。
ただ、君は生真面目で、俺がどこかで息抜きするたびに見つけて絡んできた。
だらしないとか、
次期国王としての自覚を持てとか。
くどくどくどくど。正直鬱陶しかった。
毎日息が詰まるみたいだった。
俺の人生はこのまま国の奴隷としていいように使われて死ぬのかってさ。
下町に生きる民達の方がよっぽど自由で楽しそうに見えてたよ。
あーもう、話はまだ続くからそんなに唇噛み締めちゃダメ。あーしてあー。
君が知らなかったのは仕方ないことだよ。
王太子が暗殺未遂にあっていたなんて公にできるわけないでしょ。
ほらあーん。このクッキー美味しいでしょ?
…続けていい?
うん。そんな生活を続けて、いつのまにか学校入学する年になった。
寮での暮らしは新鮮だった。
けどそれだけだ。
校則には身分関係なく、なんて文言が入ってたけど、俺相手にフランクに話しかけてくれる奴なんて誰もいなくて。
みんなが俺を第一王子、王太子として見てた。
男子は側近に、女子は即妃を狙って人のことをアクセサリーのように扱うんだから。
困ったものだよね。
そんな時だよ、あのお花ちゃんが現れたのは。
なんだっけ名前?
ほら、ピンクの髪の、無礼な人。
…そうだ!ユーラシア…ちがう?
ユーリシア男爵令嬢?まぁどっちでもいいや。
下町育ちで男爵妾の子。
貴族社会に溶け込めないとか言って俺の周りをちょろちょろちょろちょろと。
ただ俺はハンカチ拾っただけだぜ?
それなのに鬱陶しいったらなかったよ。
そりゃ最初は面白い生き物見つけたって思ったけどさ。
殿下って意外とお茶目なんですねとか
下町育ちだから距離感がよくわからなくてとか
気軽にボディタッチしてくるなんてそんな無礼してくる奴今までいなかったからさ。
あんな風に気軽に話しかけてくれるのが少しだけ嬉しかったのは本当なんだ。
でもさ、結局お花ちゃんも俺を通してこの国の王太子というレッテルを見てた。
俺の隣を歩く時
俺が隣にいない時
全然違うんだよあの子。
…知らなかった?
…そうかもね、実際お花ちゃんはあれでかなり強かだったから。
しっかり俺を分析して俺の弱い部分に甘い言葉で漬け込もうとした。
そして何より学園中を味方につけて婚約者である君とバトルしてたでしょ?
真面目しか取り柄がないから、いいように冤罪なすりつけられてボロ負けしてたじゃん。
君は政戦のつもりなかったかもしれないけど。
もう少し上手く立ち回らないとダメよ?
俺がその時してたことねぇ…
うーん…別に、何も。
どっちが勝ってもよかったし、見てただけ。
…うん?誤解?俺がお花ちゃんを好きだって?
……いやいや、ないない
まさか君そんなこと気にしてたの?かわいいね?
腕を組まれてたのも、なんかやたら近くにいたのもあれ全部彼女の作戦でしょ?
俺は彼女のアイテムとしてそこにあっただけ。
君も使ってくれてよかったんだよ?
実際、君があのまま負けていたらお花ちゃんが王妃だった未来もあったと思うよ。
階級ならお花ちゃんをどこかの貴族の養子に迎えるとかでどうとでもなったわけだし。
君が王妃のままなら即妃にするならお花ちゃんって話は王宮でも出てた。
そこに俺の意思なんてなかった。
勝った相手、決められた相手と結婚するだけ。
でも気になるじゃん、結婚することになる相手かもしれないんだから。
で、俺なりに調べたらさ、なんと、びっくり。
お花ちゃん隣国の間者だったっていうオチ!
いやー…見つけた時は驚いたと同時に人間不信がさらに加速したよ。
なんで俺そんなに狙われてんの?ってさ。
真面目に弟に王太子の座を譲って世捨て人になろうかなって本気で考えた。
それに弟はきみを愛してたからね。
…え?何その反応?
そうそう、あのレオナルド第二王子殿下が。
誰をって、君を、愛してたんだよ。
そう、レオナルドが、君を。
……マジ?
あんなにわかりやすくアピールしてたのにアイツ気づかれてもなかったの?
それはちょっと…ッ…
男として、少しだけ同情するよ。
ほんの少しね。…っ…くっ…
で、弟は俺を毒殺しようとした。
王太子の座と、君を手に入れるためにね。
でも、象でも卒倒する毒を盛ったのに俺がピンピンしてるもんだからさ…
いやー…あの時のアイツの顔は傑作だった。
え?牢?入れない入れない。
別に俺怒ってないし。
まあでも1週間奴隷にはなってもらった。
兄貴にちょっかいかけたんだから、それくらいはね?
…あぁ、肩揉めとか、下町でシュークリーム買ってこいとか…そんなのだけど…
……今何想像したの?やらしー…痛っ
で、その時初めて俺は君を見た。
興味が湧いたんだよね。
弟が人を、俺を殺そうとしてまで手に入れたがる君がどんな子だったっけってさ。
幼少期親が勝手に決めた婚約者で口うるさい生真面目な女。だと思ってた。
実際今もそうだと思う。
でもさ、気付いたんだよね。
君が昔も今も、そして俺に限らず皆に平等だったってことに。
皆が俺を王太子として見てこの甘い蜜を吸おうとする中、君だけは違った。
自分が王妃になる。
王妃のスパルタ教育にめげることなく、
王妃になるためにはこうであるべきだ。
という理想を追いかけて
王太子はこうあるべきだ。でぶつかってきた。
君も俺を王太子として見ていることには変わりはない。
でも、それは俺の肩書きで、変わることのない事実だ。
ただ他のやつとはベクトルが違ったんだよ。
君が俺に求めたのは、自分が美味い思いをするためではなく、王太子としての当然の振る舞いだけだったってことに。
それに気がついた瞬間さ、もう俺たまらなくなっちゃって。
君が可愛くて可愛くて仕方なくなっちゃったんだよね。
あ、照れた。
俺は、君を傷つけたどうしようもない男だ。
謝って許されることじゃないけど。
ごめん。
…君を今まで疎かにしてたこと、
君のことをちゃんと見なかったこと、
もうずっと、それこそ今も後悔してるよ…
うん、そうだね…本当にごめん
…あ、紅茶、おかわりいる?
砂糖とミルクどうする?
…えっと…流石に…唐辛子はここにないかも…
今度は用意しとく…ね?
…いや俺は絶対に飲まないけど。
ゴホンッ…それからさ色々考えた。
そしたら色々見えてなかったものが見えるようになったんだよね。
宰相は相変わらず俺を傀儡にしようとしてる。
でもトップが愚王なら宰相が国を率いるのは当たり前なんだよね。
ただ俺が勝手に警戒しすぎてただけ。
今頃も隣国との事で地盤固めながら将来のために膿出しでもしてるんじゃないかな?
騎士団は相変わらず筋肉集団だ。
筋肉はいざという時のためとはいえ、その時まで遊ばせておくのは勿体無いじゃない?
なら田舎開拓の手伝いさせればいいんじゃないかって思って。
試しに派遣してみたらさ、街に出稼ぎに行って若いのが居なくなった村ではすごい助かってるみたい。
治安もよくなったって聞くし、なんか、そっちで勝手に上手くいって騎士団の既婚率も上がったらしいよ。
気づいたら戦争起きないように奔走してるし、仮に起きても、もう捨て身特攻ではなく、命を大切にするように考えると思うんだよね。
だって奥さんとこれから生まれてくる子供守りたいもんね?その筋肉で。
メイド達は流石にどうしようもないし、君に勘違いされたくなかったから総入れ替えした。
今いるのは全部、子育てにひと段落ついて暇を持て余した気のいい奥さん達だよ。
みんなパワフルでさ、噂話好き。
でも掃除の目も行き届くし、流行には敏感だから、案外快適なんだ。
坊や、ちゃんと寝たの?とか
坊や、顔洗ってらっしゃい!とか
俺のことを坊や扱いする以外はね。
全部君のおかげなんだよ。
君がその立ち振る舞いで教えてくれたんだ。
俺が雑に扱っても、お花ちゃんに虐められても、教育が苦しくても辛くても、逃げない。
いつだって君は変わらず真面目だった。
最初はなんでそこまでできるのか本気でわからなかったけど。
ただ君は民のために頑張ろうとしてるんだってわかった。
気づいてない?下町に降りた時の君は何よりも楽しそうな表情をしてるんだよ?
それを見てたら人間って実は見えてる部分だけが全てじゃないのかもなって。
君は口煩い面もあるけど、その裏では血反吐吐くほどの努力家だ。
宰相は国を良くしようとしてるだけ。
騎士団は戦争以外に筋肉の使い方を知らなかっただけ。
年取って働けなくなったわけじゃない、働く場所がなかっただけだ。
人間不信?いや治るわけないけど。
…でも、いつも真っ直ぐ俺を見てくれる君をもう裏切りたくないんだ。
君が望むなら世界だって取るよ?
親父…はいはい。
陛下と王妃はずっと昔に、一番最初に俺が何より望むものをくれていたんだなって。
それがようやく最近分かった。
感謝もしてるよ。
君という尊い存在を与えてくれたこと。
…ちょっと、泣かないでよ。
君に泣かれたら俺どうしたらいいかわからなくなるんだって。
あーもーほら目擦らない。
ちょっとこっちきて。
隣に座るだけでいいから。
…なんていうと思った?
ちょ、痛い痛い、重くなんてないよ。
むしろ君を近くに感じられて俺は幸せ。
キスしていい?…ダメ?
やっぱり俺のこと許せない…から?
…どうしても?
許すとか許さないじゃないの?
俺わからないよ…キスしたいのに…
そんな顔するなって…
どんな顔?ねぇ、教えて?
…顔真っ赤。かわいい。
…ふふっ破廉恥じゃないでしょ全然。
明日俺たち結婚するんだよ?初夜だよ?
膝に乗せるよりもっとすごいことするのに今からそんなんで大丈夫?
生真面目すぎてチョロすぎて俺ちょっと心配なんだけど。
まぁ何が言いたいかってさ、これまで俺が抱えてたもの全部伝えたかったんだ。
知って欲しかった。
それから君とこれからの未来を考えたかった。
…メイドさん達が最近孫連れてくるんだよね。
王宮に連れてくるなよって思うけどさ。
…うん、そうそう。
君も見かけることあると思うけど、高い高いなんてしたらダメだ。
一度でもあれをしたら最後…
次から次へと群がってくるから。
君も、気をつけるんだよ。腕が、死ぬぞ。
でもあのチビ達が笑って走り回ってるのを見るのは案外悪くない。
…きっと君との間に生まれてくる子のそんな姿を見るのも。
……ん?なに?
え?俺なんか言った?
なんか怒ってる?
………うん。
…ごめんね、何も言わなくて。
思えば俺と君には会話がなかったなって。
俺も思ったから今日呼んだんだよ。
君をずっと不安にさせてたなって。
朝からずっと考え込んでたでしょ?
いつもなら口煩いお小言、何もなかったし。
きっと真面目な君のことだ。
俺が頼りにならなくても自問自答しながら王妃としてやっていくんだと思う。
でもさ
…明日から夫婦になるのにそんなの寂しいなって。
君だけはきっとずっと変わらない。
信じられる存在だと思ったから。
支えたいし、これまで通りにそばにいて欲しい。
君が隣に変わらずいてくれるならなんだってしてみせるよ。
「愛してるよクリスティーナ」
…もう、君を逃がしてあげることはできないけどね。
…ん?何も言ってないよ。
それより明日が楽しみだね。
君のドレス姿はきっと綺麗だろうなぁ…
…そろそろお開きにしようか
END3 真綿に包まれて
「おやすみクリスティーナ」
CONTINUE?
▶ YES
NO
ーーーーーーーーーーブツン
クリアおめでとうございます。
END3「真綿に包まれて」を達成しました。
隠し要素が解放されました。




