第7話 初デート、
午後13時30分。僕は集合場所に来ていた。ダメ元で楪さんを誘ってまさか了承されるとは。
(早く来すぎてしまった…今日の格好変じゃないかな…?やばい…緊張する…こういうのはじめてだよ…)
服装は無地の白シャツに黒のスレートパンツ、黒のスニーカー。シャツの袖をまくり腕時計。いかにも量産型。
友達に相談してなるべくミスらない無害な格好をチョイスしたつもり。
午後13時50分。彼女姿は見えない。一体彼女はどんな姿で来るのだろう。制服でしか会ったことがないから余計ドキドキ。
午後13時55分。まだ見えない。どうやら集合時間ピッタリとかに来るタイプなのだろう。
午後14時00分。緊張でおかしくなりそうになっていると声がかかる。
「よっ。待たせたか?一応ピッタリだけど。」
「わっ!あ、ゆ、楪さん!こんにちは…全然待ってないです!僕も今来たとこなので…(大嘘)」
楪さんは大きめのワインレッド色のパーカーに黒のショートパンツ。そしてスニーカーにリュックを背負っている。
楪さんらしい、楽そうでゆるい格好だ。ジロジロと見てしまっていたのか、楪さんから話しかけられる。
「なに?なんか私に変なのついてる?」
「い、いや!全然!そんなことないです!普段制服だから私服なの新鮮だなぁって…楪さん普段はそういう感じの服着るんですね…。」
「まぁ、そうだね。あんまり服持ってないし。楽だから。」
楪さんは余裕そうだ。きっと僕みたいに緊張なんか微塵もしてないんだろう。
「じゃ、じゃあ行きましょうか…!こっちです!」
楪さんと共にプラネタリウムの会場へ向かう。
会場に到着。周りは人でにぎわっている。家族連れ、女友達同士、そして恋人同士で来ている者たち。
周りから見たら、僕らは付き合っているように見えるのだろうか。
でもきっと…楪さんはそんなこと考えていないんだろうな。
会話をつなげようと、僕の右を歩く楪さんに話しかける。
「け、結構人いますね…」
楪さんはパーカーのポッケに手を入れたまま目線を動かさずそのまま答えた。
「ね。驚いた。プラネタリウムってこんなに賑わうんだね。」
「最近できたばかりの施設ですからね…あ、あっち入り口です!」
二人でシアターに入り、座席に座る。薄暗い空間と近い距離が僕の顔を紅潮させた。すぐ右を見ると楪さんが隣で座っている。
右腕をひじ掛けに置こうとしたら、楪さんの肘に当たった。
「す、すみません!」
「ん?あぁ、別にいいよ。気にしない。」
薄暗くて助かった。きっと顔が赤くて意識しているのがバレバレになる。
楪さんは余裕そうだ。当然だろう。クラスで対して仲良くもない、最近たまにしゃべる男子と来てるんだ。一緒にいるだけでもほんと奇跡みたいなんだ。
シアターが一気に暗くなり上映が始まる。上を見上げると、満天の星空が映し出される。煌びやかな星たち。そして映し出される星座。星座のルーツや物語を落ち着いた口調でナレーターが語る。
とてもきれいだ。それでも……気になってしまう。楪さんはどんな顔をしているのかな。僕はチラっと右を向いた。
星空が放つ白い光は、楪さんの顔を照らしていた。その大きな瞳に映る星空。きれいな横顔。きっと……恋人はこういう場面で手をつないだりするんだろう。
楪さんとそういう関係に慣れたらな……
星に願いをするように僕は映し出された空を見上げ、三回くらい同じことを想った。
上映が終わり、僕たちは会場の外へ出た。人ごみの中、感想を語り合っていた。楪さんは伸びをしながら感想を言った。
「案外面白かったかも。星座ってあんなにストーリーあるんだね。」
「はい。結構面白いですよ。オリオン座とかはゼウスの妻の怒りを買い、差し向けられたサソリによって命を落とすんです。だからオリオン座はサソリ座が沈まないと出てこないんですよ。」
僕が星座の小話をすると、楪さんは目を輝かせて僕の顔を覗き込んだ。
「おぉ。栗原物知りだね。」
いつものんびりしてそうな楪さん。そんな彼女が少し子供っぽい顔をしているのを見て、僕は愛おしくてたまらなくなった。
「あの、よかったらカフェとか行きませんか?」
「いいよ。喉乾いたし。」
駅前のカフェに行き、窓際の席に二人は座る。楪さんはアイスコーヒー。僕はホットコーヒーを注文。
楪さんはストローでコーヒーをかき混ぜながら今日の感想を話した。
「いやーしかし星座の話たくさんあって面白かったな。夏の大三角とか、七夕とか。」
「はい。あの伝説、結構ロマンチックですよね。一年に一回しか会えないなんて」
「でも、私だったらめんどくさいかも。一年に一回って、待つの疲れるし」
「ふふ。確かに…楪さんらしいですね。」
彼女らしい発言に思わず笑みがこぼれる。
「え?どういう意味?」
かき混ぜてるストローの手を止めて話す。
「いや、その…めんどくさがり屋さんなのかなって」
「あー…否定できないな」
楪さんが苦笑いする。
「でも、今日はめんどくさいと思わなかったですか……?」
僕はが勇気を出して聞いてみる。
「うーん…それが、思わなかったんだよね。あの星空見てたら、なんか…いろいろ忘れちゃった」
「そうですか…よかった」
僕はほっとしたように微笑む。
「栗原って、優しいんだな」
「え?」
「いや、なんとなく。教え方も優しいし、今日も気遣ってくれてるし」
楪さんはストレートに言う。その言葉に、僕の顔が真っ赤になる。
「あ、ありがとうございます…」
「でも、なんで私を誘ったんだっけ? ほかの人でもよかったのに」
またその質問。
僕は少し迷ってから、小声で言った。
「…楪さんと、話してみたかったんです」
「は?」
「いや、その…クラスメイトだけど、あんまり話す機会なくて。でも、数学教えてから、もっと話したいなって…」
うつむきながら言う。
楪さんは少し驚いた顔をして、それから、
「そうか…。まあ、私も別に嫌いじゃないし、また教えてよ」
「はい!」
僕は顔を上げて、満面の笑みになる。
楪さんも心なしか、すこし、口角が上がっているような気がした。
カフェを出て、駅まで歩く。
「今日はありがとな。楽しかった」
「い、いえ! こちらこそ!」
「また何かあったら、教えてね」
「はい! いつでも!」
駅の改札前で別れる。
楪さんが改札を通って、振り返って軽く手を振った。
僕も必死に手を振り返す。
楪さんの姿が見えなくなってから、僕はその場にしゃがみ込んだ。
「…楽しかったって言ってた…」
それだけで、胸がいっぱいになる。
「また教えてって…」
しばらく動けずにいた。
~帰宅後、リンの部屋~
家に帰ったリンは、そのままベッドに倒れ天井を見ていた。
「はぁぁぁ……久しぶりにあんなに外出歩いたな……疲れた……」
まだ…なんとなく余韻が残っている。
カフェでの彼の笑顔を思い出す。
(栗原……あんなに笑うんだな……)
(…………別に、そういうんじゃないしな……また………いや…考えんのめんどくさ……)
リンは気づかないふりをして、ベッドから起き上がり、浴室へと向かった。




