表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

第1話


(何故だ……、何故こうなった……)


 後ろ手を魔封錠で繋がれた最強の帝国軍人、グライス・ランズデーは法廷の中央に立たされていた。


(牢で目を覚ましたと思ったら、次は法廷だと?)

 状況がまるで理解できない。昨夜までの記憶を必死に辿ろうとするが、途中から霧がかかったように抜け落ちている。

(何が……起こっている?)

 思考の渦に沈みかけたその時――


 バタン、と重々しい音を立てて法廷の扉が開いた。

 黒いローブに身を包んだ数名の裁判官が入廷する。その背後に続く人物が見えた瞬間、グライスの胸に微かな安堵が灯った。

――ネイマン少佐。

 幾多の死線を共に越えてきた部下であり、戦友。

 しかし、その安堵はすぐに凍りつく。

 全身を包帯に覆われ、重苦しい気配を纏ったネイマンの姿は、明らかに異常だった。

「ネイマン! どうしたその傷! 何があった⁉︎」

 問いかけに対し、ネイマンは冷たく鋭い視線を向ける。

 それは上官に、戦友に向ける目ではなかった。

「白々しいな、ランズデー大佐。いや……大罪人ランズデー」

「ネイマン……? 何を言って――」

 

 カンッ。


 乾いた音が法廷に響き、グライスの言葉を遮った。


「静粛に。――これより、被告人グライス・ランズデーにかけられた容疑について、審理を開始する」

「被告人……? 俺が……? 何を言っている、俺は――」

 

 カンッカンッ


「静粛に」

 裁判官の冷然とした声が突き刺さる。

「ネイマン少佐。証言を」

「……はい」

 ネイマンは証言台へと進み、淡々と語り始めた。

「私は昨夜、ランズデー大佐の名誉賞授賞式の後、個人的に祝いの席を設けよう思い、ワインを持参してランズデー大佐の屋敷を訪れました」

(そうだ…………。授賞式後に声をかけられてそのまま屋敷で飲み直した。そこまでは覚えている。しかし、そこからが思い出せない)

「酒が進むにつれ、大佐は気を良くされ……ある衝撃的な提案を私に持ちかけました」

「その内容とは?」


 「――”皇帝陛下の殺害。”すなわち、クーデターです」


 ざわめきが法廷を満たす。


「待て! そんなこと考えたことも口にしたこともない!」

「被告人は静粛に」

 歯噛みをしながら、グライスは黙るしかなかった。

「当然、私は帝国軍人として大佐の発言は到底看過出来ませんでした。そして激しい口論となり……大佐は口封じの為、私を殺害しようとしました」

 ネイマンは拳を強く握り締め、言葉を続ける。

「そしてあろうことか大佐は……それを止めに入った奥方様とご子息を…………」

 声が震え、しかし次の言葉ははっきりと告げられた。


「大佐が自らの手で切り伏せたのです」


 ざわめきが悲鳴に変わり法廷を包む。


(フィーとアレンを…………俺が?)

「ま、待ってくれ! フィーとアレン……妻と子供は無事なのか?本当に――」

「大佐! 見苦しいですよ!」

 鋭く遮るネイマン。

「あなたが……あなた自身が……2人の心臓に刃を突き立てたではありませんか!」

「本当に死んだのか……?」

「えぇ。あなたが牢にいる間に埋葬したところですよ」


 世界が揺れた。

 激しい眩暈に襲われ、グライスは膝を折りかけるが、歯を食いしばって耐えた。


(フィーとアレンが死んだ? 殺した? 俺が?)

 

「判決を言い渡す」

 裁判官の声が法廷に沈黙をもたらす。

「被告人グライス・ランズデーは、被告人の妻、実子の殺害、ネイマン少佐殺害未遂及び国家転覆を企図した罪により、帝国軍人の名誉の剥奪並びに、所定の拷問の後公開斬首の刑に処す」

「違う……! 俺はやっていない!」

 グライスの必死の訴えも、近くの兵士に取り押さえられかき消される。

 地面に押し付けられながらも証人台上のネイマンを見上げた。

「ネイマン何故だ! 真実を話してくれ! 一体、何が――」

 俯いたまま沈黙するネイマン。

 だが、その口元が――ほんの一瞬歪んだ。

 その瞬間、グライスは悟った。

 全てがネイマンの謀略であることを――


「ネイマン・・・・・・、貴様ぁぁぁあああ!!!」


 取り押さえる兵士を振り解き、飛びかかろうとするも更なる大勢の兵士に無力化される。

「よくも・・・・・・よくもフィーとアレンを・・・・・・!!!」

 憎悪に燃えた鬼の形相でネイマンを睨みつけるグライス。一方、ネイマンは冷ややかな表情で見下ろしていた。

「さすがは"不死身の戦鬼"ですね。魔力を封じられても、なおその力」

「何故だ! 何故2人を殺した⁉︎ 何故こんなことをする! 何故だ!」

「何を仰る。2人を殺したのは間違いなく()()()ですよ」

 ネイマンの瞳の奥には卑しい笑みが浮かんでいた。

「貴様だけは……絶対に殺す」

「それはそれは……。怯えながら処刑の日を待つことにしましょう」

 そう口にするが恐怖の色は微塵もない。


「衛兵! 大罪人ランズデーを早く連れて行け!」

 元帝国の英雄は引き立てられ、死よりも残酷な拷問室へと歩かされる。

 蔑みの視線と罵声が、雨のように降り注いだ。

(帝国の繁栄の為、命を投げ打った結果がこれか・・・・・・)


 

「――以上をもって、閉廷!」



 裁判官の声を背にし、グライスは歩く。

 憤怒の炎を瞳に宿し、心臓に刻むのは……



 復讐

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ