6話 長岡駅→長野駅
それは唐突に起きた。
『ソナーに反応あり。警戒してください』
まもなく長野県へ入ろうかというところで、ミズハが警告音を出した。
すぐに無線を手に取り、加賀谷へ状況を確認した。
「加賀谷、何か見える?ミズハが警告してきたんだけど」
『戦闘機が一機見えます。日本のものかは不明です』
「......せ、戦闘機!?」
『おそらく横並びしてくるかと』
僕は後ろを振り向いた。背後には六十人もの乗客が乗っている。二両編成だから、およそ百二十人もの命を預かっていることになる。
死なせてたまるか。
程なくして、戦闘機は521の真横へやってきた。
『メッセージが送られてきました。...解読完了。読み上げますか?』
「...一応聞いておく」
ミズハは戦闘機からのメッセージを読み上げ始めた。
『この機体についてこい。抵抗するというのなら、即座に撃ち落とす』
「ガチの脅し!?」
『あのパイロット、何かのボタンに指を置いてますね』
「...『五分だけ待って』って送って。アイデアを捻り出すから」
『了解です』
さて、どうする。
加賀谷も呼び、作戦会議となった。
「翫さんは、ここがどの辺りか分かりますか?」
「長野と新潟の県境ってことしか...」
『下には飯山線の線路があります』
ミズハの言葉で、僕は思いついた。
「ミズハ、その線路に飯山線の車両は?」
『いません』
「よし、じゃあそこに降りよう。飯山線の方には僕が通達しておく。ついでに外務省にも。加賀谷は乗客に声をかけてやってくれ」
「了解です」
指示を出すと、加賀谷はすぐに運転室から出ていった。
「ミズハ、僕が運転台を叩いたら下降を始めてくれ」
『分かりました』
冷や汗を垂らす中、僕はパイロットに睨まれていた。僕ら何も悪いことしてないんだけど?
数分後、木々の間から線路が見えた。
トンッ。
強すぎない力で、運転台を叩いた。それと同時に、521はゆるやかに下降し始めた。
「後は任せた。各方面へ通達しないといけないんでね」
『お任せください』
今、あのパイロットはどんな間抜け面をしているだろうか?
数分後、521は森宮野原駅に入線し停車した。
そこにはメガネをかけた、いかにも『お偉いさん』のような人たちが立っていた。
「領空侵犯を犯している時点で、既に国際問題ですからね」
と、彼らは言っていた。それに気づけなかったことに責任感を感じているのかも。
「ミズハ、空を飛ぶにはスターターが必須なの?」
お偉いさん方が車内で話し込んでいる中、僕はミズハに聞いてみた。
金沢駅でも富山駅でも、小さな小箱の上を通り過ぎるタイミングで浮かび上がっていた。けれど、ここにはそんなものはない。
『その通りです。降りる際には必要ないですが』
となると、飯山線のレールを走っていくしかないのか...時間がかかってしまう。
乗客たちにどう説明するか悩んでいると、運転室に加賀谷が入ってきた。
「なんか、飯山線の司令員さんが呼んでます」
...着地の時にレールを歪ませてしまったかな?
「どうか、各駅停車で運行してくれませんか!」
ホームに降り立つと、司令員の『山ノ内』さんがすぐに駆け寄ってきた。そしてさっきの言葉を発した。
なんでも、使用予定だったキハ110系に不具合が出たらしく、代行として運行してもらいたいとのこと。
「分かりました。ここだと空を飛ぶことができないので、どのみちそうする予定でしたし」
「ありがとうございますっ!」
山ノ内さんはガッチリと手を握って泣き出した。
「ただ、あそこの人たちから許可が下りれば、ですけどね...」
僕は今も車内で話しているお偉いさん方を見た。彼らの顔は段々と険しくなっていく。
これは、ダメかもしれないな...。
戦闘機の画像を見せてから一時間後、運転を再開する許可が下りた。それでいいのかお偉いさん方。
「私たち四人が、東京駅まで付き添わせてもらいます」
なるほど、だから許可が下りたのか...。どこから突っ込めばいいのか。
「翫さん、もうすぐ発車時間ですよ」
というわけで、山ノ内さんに言われた通りに臨時の各駅停車として521は走ることに。
『腕が鳴りますね!』
ミズハはやる気満々だ。
「あ、安全運転でね?」
『もちろんです』
駅の待合室で待っていた乗客とお偉いさん方四人を乗せた521は森宮野原駅を発車した。
森宮野原駅よりも西にある西大滝駅では、とある登山サークルが電車を待っていた。
「富士見さん、ほんとに元気ですよね...」
最近このサークルに入った大学生の王滝は呟いた。富士見とは、サークルリーダーのおじいさんだ。
「名前通り、『不死身』なんじゃね?」
隣で同い年の木祖は冗談っぽく言った。しかし、半分は本当じゃないかとも思っていた。
ちなみに富士見は今、桜の木の下で水分補給をしていた。
「富士ちゃんは昔からああだから」
二人の話を聞いていた筑北は苦笑いをした。富士見とは古くからの付き合いで、家が隣同士だ。
「お〜い、電車が来たぞ」
ホームを走って身体を温めていた富士見が言った。
その言葉通り、電車が来ていた。
「ん、なんか...」
「で、でけぇ」
「こんなことあるんだなぁ...」
「たまにはいいじゃないか」
いつものキハ110系ではなく、521だった。
富士見は気にせずに乗り込もうとした。
「あ、ドアが開かんぞ?」
「これじゃないですか?」
王滝がボタンを押すと、521のドアが開いた。
「ほぉ、変わってるなぁ」
「いや、電車自体が変わってっから...」
木祖は少し苦笑いをした。
「ほら、ぼけっとしてないで豊野まで行くぞ〜!」
「富士ちゃん、あんまり電車で騒ぐと降ろされちまう!」
「す、すまん」
こんなやりとりは、このサークルにとっては日常だ。
そうこうしている内に、521は西大滝駅を発車した。




