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4話 富山駅→長岡駅

 富山駅を出発後、あの時と同じように空へ浮かんだ。

 ある程度まで高くなると、日本海が見えてきた。その遠くには洋上風力発電機が見えている。

「一度は挫折したけど、また再開されたんだよねぇ…」

『現在の日本には必要不可欠な装置ですね』

 僕がまだ高校生になりたての頃、とある大手企業が洋上風力発電から撤退することを発表した。

 その頃は「へぇ」と無関心だったが、こうやって電気のありがたみを感じられる仕事に就くと、考え方は変わった。

 この電車は水素で動いているけどね。

『あの地震以来、日本は原子力発電をあまりしなくなりましたからね』

「だからああやって、再生可能エネルギーを使って発電する。いかにも日本らしいよ」


 翫とミズハが会話していた頃、加賀谷は乗客から落とし物を預かっていた。

「...うさぎのぬいぐるみ?」

「この荷物棚に置かれてました」

 乗客の男性によると、富山駅を発車後に荷物を載せようとしたところで発見したらしい。

 そのうさぎのぬいぐるみの毛色は茶色で、青いリボンを首につけていた。

「分かりました。各駅に尋ねてみます」


 富山駅では、一人の幼い少女が泣いていた。

「うぅ...」

「ほら、泣かないで。新しいのを買ってあげるから」

「やだ……」

「…ごめんなさい。どうしてもあのぬいぐるみじゃないと嫌なみたいで」

 少女の母親は駅員に謝っていた。

「あの521、今頃どこを飛んでますかねぇ...?」

「この時間だと...糸魚川辺りか?」

 駅員の口から出た「糸魚川を飛んでいる」という言葉に、少女はさらに泣き出した。

「......ぅわあああっ...!やだ、やだっ」

「ご、ごめんね!本当はまだそんなに遠くに行っていないから!」

 駅員が慰めても、少女はまだ泣いていた。

 そんなとき、無線が入った。

『...こちら加賀谷。応答願います』

 

 翫がいる運転台とは反対側の運転台、つまりは520にて。

「こちら加賀谷。応答願います」

 腕にぬいぐるみを抱えた加賀谷は富山駅の駅員と無線を通して会話していた。

「そちらにぬいぐるみの持ち主はいらっしゃいますか?」

『は、はい!丁度目の前にいらっしゃいます!』

「では、持ち主に無線を渡してください。私が直接説明したいので」

『わ、分かりました!』

 ガサガサと音がした後、無線から少女の声が響いた。

『...私の[つき]はそこにあるの?』

 [つき]とは今抱えているぬいぐるみの名前なのだろう、と加賀谷は感じ取った。

「ええ。『怪我』などはしていませんよ」

『...ちゃんと私のところに帰ってくるの?』

「もちろん。必ずあなたのもとへ帰ります」

『……分かった。私、信じてるからね』

 またガサガサと音がして、不安そうな駅員の声が届いた。

『大丈夫なんですか?そんなこと言って...』

「...不可能なことは認めなければ不可能ではないので。それに、ああでも言わないと安心してくれないでしょう?」

『...そうですね』

 そうして、加賀谷の方から無線を切った。

「さて、本当にどうしましょうか........とりあえず翫さんに連絡を入れないと」


ツー...ツー...

 静かだった運転台に、無線の呼び出し音が鳴った。

「はい、翫です」

『実は今、乗客から落とし物を預かっています。持ち主は富山駅で見つかったのですが、ここまで来るともう引き返せませんよね?』

 ミズハに現在地を示してもらうと、妙高市の辺りを飛んでいるようだ。

「さすがに無理かな...」

『ですよね...。持ち主に必ず返すって伝えたので、今更出来ないとは言えないですね』

 ...あれ、次って長岡駅だよね?

「加賀谷。その忘れ物、返せるよ」

『本当ですかっ!?』

 仕事中にしては珍しく、加賀谷が声を上げた。

「長岡駅から上越妙高駅へ向かう電車にその落とし物を乗せて、上越妙高駅から敦賀方面行きの新幹線に乗せる。これなら二時間はかかってしまうけど、持ち主に返せると思うよ」

 趣味でローカル鉄道のこと覚えておいてよかったなぁ。まさかこんな形で役に立つとは。

『翫さんが示す上越妙高行きの電車は十一時十七分に長岡駅発です』

「え゛っ゛」

 長岡駅には十時に到着予定で、十時台の電車があるだろうと思っていた。そこから二時間だから...。

「一時半くらいに富山駅に到着ってところか...仕方ないか」

『でも、しっかり返せるのですね?』

「返せるね、確実に」

『良かった...!』

 無線から加賀谷の安堵した声が返ってきた。

 それにしても、仕事中にこんなに取り乱すとは...。

「なんか今日、いつもと違うね?」

『そ、そうでしょうか?これでもいつも通りだと思っているのですが』

「...まあいいや。それじゃあ引き続きよろしく」

『ええ。そちらこそ』

 こうして、僕が知らない間に起きていた落とし物の騒動は解決した。

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