29話 停電トラブル
部屋ですやすやと寝ていると、ミズハがドアを勢いよく開けた。
「マスター!」
「レ点喰らい尽くせ……」
「かいりきベアさんの『ルマ』は[×点喰らい尽くせ]です!宇都宮線のアレと被ってますから!……そうじゃなくて!」
僕の上に乗せられていた布団をはぎ取りながらそう言った。
「な、何?」
「電気が通ってないんです!」
「………は?」
家の中は太陽の光が入っていたので明るかったものの、エアコンやテレビなどの家電は動いていなかった。
「あ、かなで君!」
朝食を作っていたおばあちゃんが歩み寄ってきた。
「あの車の電池ってどれだけある?」
「え、見てないよ」
「ほら、非常用で電気を賄えるって言ってたわよね?」
確かに、うちのカローラスポーツはハイブリッド車だから給電システムはある。ガソリンが満タンなら五日ぐらいは持つものの……。
「今、半分ぐらいだったかな」
「ならこれ使いな」
冷蔵庫横の勝手口からおじいちゃんが出てきた。両手には赤いポリタンクがあった。
「ミライ―スから吸い出したった」
「助かる!」
給電システムは最大で1500Wまで使用できるので、IH炊飯器(1200W)、扇風機(30W)、電気スタンド(20W)、スマホの充電(10W)を使っても大丈夫らしい。
そして今、玄関で電子レンジを使っていた。
「あれ、おじいちゃんは?」
「物置で発電機を探すって」
「あったとしても使えるのでしょうかね?」
「ものによるよね……」
そんな時、スマホに着信がかかってきた。
「げっ」
その名前を見て思わずそんな声が出てしまった。
[金石区長]
「はい、もしもし……」
『翫くん!生きているかね!?』
「災害が起きたわけじゃないんで生きてますよ。もちろんミズハもです」
『た、頼む!出社して運転してくれ!』
「え、でも停電で……」
……そうだ。一編成だけ、電気の有無に関係なく動ける521があるじゃないか。
「あれを動かしたのは僕しかいないから、ですか」
『話が早くて助かる!』
「でも、僕の車……給電中ですし」
『大丈夫だ!今……』
すると、家の前に一台のキャンバスが停まった。
「翫さ~ん!迎えに来ましたよ~!」
運転席から加賀谷が降りてきた。
停電していても、元気の多さは変わらないんだな……。
「ミズハ、今日は長くなるよ」
「ばっちこいです……!」
今日はミズハの補助があるとはいえ、かなり集中力が必要となると思う。
【金沢→福井→金沢→富山→金沢】
もちろん、全て各駅停車である。
富山、金沢、福井は直で行ける電車はあるものの、あれは快速。今回は普通列車なのでわけが違う。金沢から福井が一時間二十分、金沢から富山が一時間。
「こりゃキツいな……」
「大丈夫ですよマスター!私がついてますから!」
「私も車掌としていますからね!」
明るいアンドロイドと車掌……こっちまでbright未来になる。
「いつか言おうと思ってたんだが……まさかこんな形で伝えることになるとはな」
「こ、これって……」
521-98の置かれている車庫へ向かうと、全長が長く見えた。錯覚かと思ったけど……。
「わぁ~!中間車両だ!」
「これはこれは……」
「『サハ』って、おま……えぇ??」
中間車両がクモハとクハの間に挟まっていて、三両編成になっていた。
「富山から設計図借りてちょちょいとな」
「そんな軽~く作れるものじゃないでしょこれは!」
「おっと、そろそろ時間だ」
話を逸らされた……。
三両編成なんて運転したことないけど大丈夫かな。
「マスター」
「ん?」
ミズハに呼ばれてそちらを向いた。
むぎゅ
「………!?」
「落ち着きましたか?」
いきなり頬を挟まれ、僕の額にミズハの額が触れた。
「お。落ち着く……か?」
「少しは効果がありそうですね」
そしてミズハは何事もなかったかのように助士側に立った。
やっぱり壊れてるんじゃ?
「押さないでください!」
「ドアに挟まれると遅延の原因になります!」
金沢駅の三番線は人で埋め尽くされていた。大半が通勤・通学者だった。
521は人を限界まで乗せていた。683系の主電動機を使っているとはいえ、ちゃんと動くだろうか。
そんな心配は杞憂に終わった。521は重さなんて関係ないように三番線を発車した。
「1M2Tでも……案外悪くないねこれ」
「他の編成でも採用すればいいのに、と思っているのですか?」
「……思わなくはない」
でも、それだけ人が乗るだろうか?
「よし、俺らは富山な!」
「うす」
作業服姿の金石区長と島は、火が入れられた『D51 522』に歩み寄った。
「修復させておいて良かった……!そのうち822もしてやりてえな」
「そうすね」
「ほ~ら島も明るく!じゃねえと周りも明るくならねえ!」
「……ういっす」
D51の後ろには『クハ520-42』と『クモハ521-42』、『クハ520-43』と『クモハ521-43』が連結されていた。動けない521の代わりに、D51で引っ張る。ドアの開閉は各運転室に置かれた発電機の電力で動かすのだ。
「521は準備できたし……よ~し、おじさん頑張っちゃうぞ!」
「……やるぞ」
島は無口なのでいつもこの調子である。性格は反対でも、案外この二人は上手くやっていけている。




