一九九七ペア・6
「これか……錆がひどいな」
金石区長や整備士が集まる車庫に681系を運び入れた。その681系を見て区長が呟いた。
「こんなの、よく動いたな」
「見上さんの言う通り……幽霊とか出てきそう」
「………」
あの影は幽霊に当てはまるのだろうか?いや、ラナドールさんの話では『681系の感情みたいなもの』と言っていたし、幽霊ではないだろう。
ちなみにラナドールさんは運転士の制服を着て人混みに紛れていた。
「よ~し、一応点検するぞ。翫くんは話があるから」
「分かりました」
ミズハが今にも突っ込んできそうだったが気にせず、少し離れたところで区長と話を始めた。
「で、あの681系を走らせてほしいんだよな?」
「そうです」
「でもなぁ……サンダーバードもしらさぎも敦賀止まりだしな」
北陸新幹線は敦賀まで開業してしまったため、どちらも敦賀駅までしか走らなくなった。
もしも521のように各駅停車として走らせたとしても、ドアの数が少ないし、設備が通勤・通学者に対して過剰だ。中には『一駅分しか乗らない』という人もいるから。
「でも、『能登かがり火』としては使えるんじゃないですか?」
サンダーバードとして使われていた三両編成の683系は、今でも七尾駅・和倉温泉駅を結んでいる。運行開始当初は681系も使われていたからありだと思う。
「確かに使ってたけど……2024年のダイヤ改正で運用を取りやめたしなぁ……」
「まぁ、検査の結果次第ですね」
「それもそうだな。こっちでもいろいろ話し合ってみるから」
これで首の皮一枚繋がった。あとは異常がないことを祈るしかない。
車庫の裏手に来るように、とラナドールさんは言ってきた。
「運転士殿、お疲れ様じゃ」
「本当に、ありがとうございました」
「礼なんぞいらんわ。これであやつの願いが叶うかもしれんな」
「……引退する車両の声を聞けたらな、ってたまに思うんですよ」
あの影みたいに、運転士に話しかけてくれたら。
「列車に感情を持たせると、運行に支障をきたしてしまうぞ。『走りたくない』と駄々をこね始めたり、運転士に対して反抗してくる可能性だってあり得る」
「分かってます。あくまでも願望ですよ」
叶わない願いだとしても、どうしても願ってしまう。それは僕だけじゃないのかもしれない。
「あのアンドロイドガールは別じゃがな」
「………」
「ところで運転士殿、何か聞きたいことがあったりはせんか?」
「……あ、そうでした」
僕は西金沢駅で聞きそびれたことを聞くことにした。
「PUPAさんとは、どんな関係なんですか?」
あの時、一回だけPUPAさんの名前が出た。ということは彼女を知っているということだ。
「ああ、そんなことか。簡単じゃ。PUPAは……『相棒』みたいなものじゃな」
「相棒……」
「腑に落ちんか?」
「あんまり、想像できなくて」
「別にそれでもよい。……我はそろそろお暇するとしようかの」
「もう、ですか」
「またすぐに会えるぞ。こうやって知り合ったからの」
そう言い残すと、僕が瞬きをした間にラナドールさんは消えた。
本当に、ありがとうございました。
一週間後、681系の検査結果が出た。
「検査の結果は……問題なし」
「よかった……!」
「それどころかまるで新品だったぞ!台車もパンタグラフも消耗がなかった!」
「え、僕が運転したから消耗くらいはしてるんじゃないんですか?」
「そう思ったんだけどよ、本当に消耗してなかったんだ!」
どうなっているんだ?
その日のうちに、681系は『能登かがり火』として運用されることが決まった。もちろん、塗装を塗りなおしてからだけど。
一九九七ペア・終
ちょっと頑張りすぎたんで投稿頻度落ちます。




