一九九七ペア・5
「そうじゃ、ドアの隙間にこんなものが落ちてたんじゃった。運転士殿なら何か分かると思ったが」
救急隊によって窃盗団が運ばれていった後、ラナドールさんから鍵を手渡された。錆のない、綺麗な銀色の鍵だった。
「あ~……たぶん681系の鍵です。これで動かせるはず」
「ここに放置すると、またあやつらみたいなバカがホイホイ来てしまうからな…移動させるのが一番じゃろう」
放置されているものは大抵イタズラされる。『処分に金がかかるから』と言ってずっと放置はダメだと思うけどなぁ。
「ただ、またあんな影とか出てきたら……」
「我も付き添ってやるぞ」
「ありがとうございます!」
ラナドールさんがいるのなら心強い。さっきの異変のこともあったから、安心して681系を動かせる。
先ほど、森本駅の駅員から伝言があった。邪気(区長たちは『磁気』と思っている)によって電話がかけられないのだとか。
『動かせるのなら車両所へ持ってきてくれ』
と、区長が言ったらしい。
この場にいる運転士は僕一人だけだ。
「頼む、動いてくれよ…!」
「こちら翫、聞こえますか?」
『ザッ……金石だ。どうだ、進捗は』
マイクで通信を試みると、ちゃんと機能してくれた。
「中を歩きましたが故障はなく、警告灯も点いていません」
『分かった。念のためゆっくり走ってくれ』
「了解です」
区長との会話を終えると、ラナドールさんが話しかけてきた。
「運転士殿は、こやつを運転したことがあるのか?」
「運転士になって数ヶ月くらいでいなくなったので、触ったことはないんですよ。シミュレーターで動かしたぐらいで」
「つまりはド素人と?」
「そうですよ、ド素人ですよ」
富山の521が先行した後、ポイントが切り替わったのを目視で確認した。マスコンを操作すると681系はすんなりと動き始めた。
「せ、背中は頼みましたよ」
「分かっておるわい」
東金沢駅を通過し、ポイントの切り替えによって車両所へ誘導されていく。その度に車輪とレールがこすれ合う音が聞こえてきた。
スピードが速いと脱線してしまうから、なるべく速度を抑えて……。
「何奴っ!」
背後でラナドールさんが声をあげた。何かが現れたのだろうけど、僕は前方に集中してないと。
「jq"fdlqe」
「…なんじゃ、それを言うために現れたのか?」
「5t"6t"nqe」
「笑顔か?我のではダメなのか?」
「q"/」
ヤバい、ラナドールさんの言葉は分かるのに、もう一人が何言ってるのかさっぱりだ。
「6g7hxy6kpqe」
「……分かった。運転士殿を経由して頼み込んでやろう」
「3lt"s4」
……僕?
「運転士殿」
「は、はい」
「こやつ、まだ走りたいそうなんじゃ」
「分かったんですか、あの謎言語……?」
「お客の笑顔がまだ見たい、とも言っておったわ」
「……引退したくない、ということですか」
僕はそのように解釈できた。
「そうかもしれんな。そこで、運転士殿に頼みがある」
「何でしょうか?」
「お偉いさんに、こやつがまだ走れるように頼み込んではくれんか?」
「……できるかは分かりませんよ?」
正直、可能性は五分五分だろう。どこかに経年劣化でダメな部分があったら廃車まっしぐらだと思う。
でも、僕は運転して気付いたのだが……この681系はまだ走れる。まるで新品のような感覚が、手の中にある。
「やれるだけやって、ダメって言われたら諦めますよ」
「それで構わん」
そうこう話しているうちに、車両所内の線路にたどり着いた。
約束通り、無事に帰ってきた。フラグなんてものはなかった。
謎言語はパソコンで見ている人なら分かると思います。




