一九九七ペア・4
森本駅の二番線に、681系は停車していた。貫通車が金沢駅の方向を向いていたので7号車だろうか。ホームの上から見ると、前には見えなかった天井が少し見えた。
「どうやってここに来たんだ……?」
「中に誰かおるのかもしれんな」
「ダァッ!?」
いつの間にか隣にあの女狐さんがいた。
「名乗るのを忘れとったわ。我はラナドール。今は隠しておるが狐じゃ」
「ど、どうも。翫かなでです」
女狐さん……ラナドールさんは着物をたなびかせながら681系へ近づいた。そして力任せにドアをスライドさせた。
「運転士殿、中を探索せんのか?」
「馬鹿力……もちろん探索しますよ」
開閉用モーターが壊れていた、と思うことにしよう。
中は照明が点いておらず、ブラインドが下がっていて少し暗かった。床には小さな紙くずや埃があったが、そこを気にしなければ綺麗だ。
「磁気……というよりは邪気じゃな」
「え、じゃあ僕」
「安心せい。さっき結界をかけておいたからの」
心配した僕の横をラナドールさんは突き進み、8号車に繋がるドアを開けた。
連結部に、誰かの衣服が落ちていた。
「男物か……運転士殿は脱出のときに誰かと会わんかったか?」
「窃盗団が二人……」
「なるほど。そのバカ二人はこれの中に入ってしまったのかもしれんな」
言い方ぁ。
8号車の様子は7号車と変わらない。ループしている錯覚に陥りそうだ。
「さっさと突き進むぞ」
シートや表示板には目を向けずに通路を歩いた。そして9号車へ。
と思ったら、誰かの視線を感じた。
「気付いたか?見られておるな」
「ですよね……!」
あの窃盗団か、それとも別の人物か?
「あれ…?」
9号車の車内に入る前、何号車か表すネームプレートの数字が『8』だった。目を擦っても、目を五秒くらい瞑っても変化はなかった。
「何をしとるんじゃ?」
「あ、何でもないです」
気のせいだと思って9号車へ入った。
「「………」」
床に工具が散らばっていた。窃盗団のやつだろう。
「戻るぞ」
「え、なんでですか?」
「『異変』じゃ」
「……まさか」
「ここでゲームみたいになるとはな」
異変探さないとじゃないですかヤダー!
引き返した先にあった車両へ入ると、電光掲示板に『1/10』と表示された。本家よりも数は少ないようだ。
「全て見つければ、9号車に行けるというわけじゃな。運転士殿は間違い探しは得意か?」
「521なら探せるんですけど、681系はどうかな……」
「我は暗記は得意じゃ。気になったら声をかけるのじゃぞ?」
「了解です」
と、言ったそばから異変が見つかった。
「カフェテリアじゃな」
「これ、本来なら撤去済みなんですよ」
681系に設置されていたカフェテリアは2014年か2015年くらいに撤去されたはずだ。
「確かに、さっきはなかったの」
そうして戻ってみると、『2/10』と表示された。
「じゃんじゃん見つけていこう」
ラナドールさんの声はどこか楽しげだった。
『3/10』シートが一つ消えていて、店員が67人になっていた。
『4/10』冷房が作動していた。結界に守られていたので寒さは感じなかった。
『5/10』貫通扉があった。向かう9号車は非貫通車なので異変である。
『6/10』公衆電話が黒電話になっていた。そんな古いものは置かれていない。
『7/10』シートが富山方面を向いていた。ついさっきまでは金沢方面だったのに。
『8/10』黒い影が現れた。ラナドールさんがぶっ飛ばして何事もなかったかのように引き返した。
『9/10』グリーン車になっていた。ラナドールさんに言われなかったらそのまま進んでいた。
『10/10』シートが一回り小さくなっていた。一目見ただけでは気付かない。
異変がなかったのは三回だけだった。
「いよいよ9号車じゃな」
「大変でしたよ、特に三つ目の異変……」
一席ずつ数えていたからよかったが、それをしていなかったら多分スルーしていた。
ネームプレートの数字は『9』。ようやく最後の車両だ。
「心の準備はよいか?」
「いつでもどうぞ」
ラナドールさんは9号車のドアを開けた。
床で、男たちが折り重なって倒れていた。あの場所で見た窃盗団の二人だった。
「こやつらで間違いないんじゃな?」
「この人たちです」
「先に出口を開けてくるから見ておいてくれんか?」
「だ、大丈夫なんですか?何か襲ってきたら」
「案ずるな。結界は敵意のある攻撃は防ぐ。死ぬことはない」
そう言ってラナドールさんは先へ進んだ。
そういえば、さっきラナドールさんがぶっ飛ばしたあの影はなんだったのだろうか。白いお面をつけたら『窓ねぇぞぉ!!』とか叫びそうだった。いや、681系は窓はあるけどね?
「……ぁ」
「お、目覚めた」
窃盗団の一人が目覚めた。ラナドールさんが縛っておいてくれたから暴れることはないだろう。
「こ、ここは……」
「681系、いわくつき」
「お、お前は……!」
「人の思い出を解体して売ろうとしたのは……お前だよな?」
「ひぃぁっ」
男は情けない声を上げて失禁し始めた。ただ(ドスの効いた声で)尋ねただけなのに。
「準備できたぞ……なんじゃ、この状況は」
「681系を汚したコイツは許さない……」
「…?」




