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3話 富山駅

『まもなく、富山、富山です。お出口は左側です。お忘れ物がないようご注意ください』

 普段通りのアナウンスが響くと、シートから立ち上がって荷物棚から荷物を取る人や、ドアの前に立つ人が増えた。

『五秒後に下降を開始します』

 上昇の時と同じように、緩い角度で降りていく。

 水素の残量を確認するとちょうど四分の三。55キロでこれだから、200キロと少しは走れるのだろう。

 線路に近づくと、少しだけ平行になった後に優しく着地した。それと同時に、ガタンと線路の繋ぎ目を跨ぐ音が戻ってくる。

「やっぱりこの音がないと落ち着かないな...」

『飛行中でも再現しましょうか?』

 ミズハがそう提案してきた。そんな些細なことで集中力を切らさないでもらいたいから...。

「提案ありがとう。でも、しなくても大丈夫だよ」

 僕はやんわりと断った。

 そういえば、AIは集中力が切れることはあるのかな?


 富山駅に入線すると、多くの鉄道ファンが集まっていた。金沢駅のときと同じくらいの人数だ。

 ミズハが操る521は寸分の狂いなく停車した。僕たち運転士でも少しだけずれるから、さすがAIといったところだ。

 ホームの安全を確認した加賀谷がドアのロックを解除した。すると、ボタンを押して記者たちが真っ先に階段へ向かっていく。

『なぜ、あの人たちは急いでいるのですか?』

 ミズハが質問してきた。初めて見る光景だからだろう。

「多分、真っ先に記事を書きたいんじゃないかな?ミズハのことをメインに」

『なるほど。記者とはそういう人々なんですね』

「いや、全員がそうじゃないけど...」


「それでミズハ、反重力装置って何?できれば簡単に説明してほしい」

 作業員たちが車両連結部の近くで燃料タンクに水素を充填している中、僕はミズハに質問した。

 金沢駅を発車して小箱の上を通過した直後、フワリと521は浮いた。あれは反重力装置の働きらしいが、いまいち理屈が分かっていない。

『ざっくりと説明すると、地球というのは磁石のような地質が埋まっており、それはN極とS極を交互に切り替えています。この521にもN極とS極を切り替える装置があります。地質がN極の時は521はN極に、地質がS極の時はS極に切り替わります。これが反重力装置です。本来なら西暦2018年に採用される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響や技術的な問題もあり、先延ばしにされてきました』

 磁石の反発する力を利用しているらしい。僕らには理解できないほどの大きな力が働いているんだろう。

コンコンコン...

 水素の充填が終わったらしく、作業員が乗務員用のドアをノックしてきた。

「充填終わりました。乗り心地はどうですか?」

「そうですね...振動がないので少し違和感はありますけど、乗り心地は良いですね」

「そうですか。いつか機会があれば乗ってみますね」

 そう言って作業員は戻っていった。

『あれが[予約]というものですか?』

「確定したわけじゃないから違うと思うな...」


 記者たちが降りていったことで、車内の乗客数は少し減った。しかし、シートは全て埋まっている。

「ミズハ、次は長岡駅に向かうけど、天気はどうかな?」

『...移動性高気圧のおかげで、天気の崩れはなさそうです』

「了解。安全運転で頼むよ」

『もちろんです、翫さん』

「ちなみに距離はどのくらい?」

『おおよそ150キロです。一時間二十分で到着するでしょう』

「結構な距離を移動するね...。でも、それだけ良い景色が見れるんだろうなぁ」

『今日は雲一つない晴れですからね。期待しましょう』

 発車時刻の八時四十分になり、運転席に座り直した。

ガラガラ...シュー。

 ドアが全部閉まったのを確認した後に、加賀谷からGOサインをもらったので、ミズハはブレーキを解除した。

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