一九九七ペア・1
今日は久々に終電を担当することになった。入社二年目の時以来だと思う。
『ご乗車ありがとうございました。まもなく終点・金沢です』
数人しか乗っていない車内にアナウンスをかけた。ここまでいないとなんか寂しいな……。
運転を終え、終電として走った520-53の様子を確認していると、白いドアが開いているのを見つけた。七番線の線路に被っているので危険だ。
「あれ……あんなドアあったっけ」
そのドアは、金沢駅の構造をある程度知っている僕でもどこに繋がっているのか分からなかった。
ひとまず521をミズハに任せて、僕はそのドアを閉めに行った。深夜でも貨物列車などは通過していくので、こういうチェックは欠かさずにしないといけない。
興味本位で中を覗いてみると、何も見えないほど真っ暗だった。
「㍍⊃……返事はなし。それにしても、地面が見えない暗さって……この先どうなってんの」
そんなとき、地面にボールペンが転がっているのを見つけた。誰のだろう?僕はそのボールペンを拾うために前へ進んだ……進もうとした。
「ふぇ?」
足を踏み込んだ瞬間、地面の感触を感じなかった。そのまま自由落下の体勢へ。
「マキシマイザーかよぉ………!」
声を出しても状況は変わらず、背中を下にして堕ちていく。途中で帽子も脱げてしまったが、そんなことを気にする余裕はなかった。
なんてことだ、死んでしまう…。
「……?」
遠くから、誰かの叫び声がしました。ホームにでも落ちたのでしょうか?
「大丈夫ですか?」
叫び声の主に呼びかけながら、ホームを探しました。しかし、私一人しかいませんでした。
……おかしいです。なぜ私一人『だけ』なのでしょう?マスターはドアを閉めに行きましたが、絶対に同じ金沢駅のホームにいるはずです。
「……!マスター!」
あの叫び声はマスターのものなのでは!?
マスターの視線は七番線に向いていました。ということは、そこにドアがあるはずです。
しかし、私にはドアが見つけられません。マスターにしか見えないのでしょうか?それとも私だけ見えていない……?
そのとき、線路上で帽子を見つけました。サイズはマスターが使っているものと同じでした。
「マスター?マスター!?」
七番線の線路を端から端まで探しましたが、結局何の成果も得られませんでした。
「……一人で逝かないでください」
本気で死を覚悟した五秒後、僕は柔らかい羽毛布団に堕ちた。それと同時に埃も舞い上がった。
「た、助かったけど……参ったな」
上を見上げても、ドアや光は見えなかった。どれだけ堕ちたんだ僕は。
脱出方法を考えながら羽毛布団の周りを歩くと、死角となっていた場所にドアがあった。しかも、隙間から光が漏れ出ていた。
「これ、大丈夫なやつかな……やらないと何も変わらないか!」
どうせここに留まったって何も起きない!かぁ~、行っちゃえ!
ギイッ…!
耳障りな音を出しながらドアが開いた。
「………」
とても広いスペースに、白い電車と布がかけられた車のようなものが鎮座していた。
なにこれ、秘密基地?
白い電車の先頭部には貫通扉があった。ライトや顔をみなくても、これだけで681系か683系と分かる。
「それにしても、錆びが凄いな……」
ところどころでステンレス鋼が見えていて、見るに堪えない状態だった。こりゃ681系かもしれない。
サンダーバードのような青い帯も、しらさぎのような二色の帯もない。ただ白一色だけしか塗られていなかった。
一両だけの中間車両を通り過ぎて反対側の先頭部に向かうと、連結部が出ていない非貫通車があった。やっぱり681系だった。
「あれ、何か見落として……あ」
なぜ僕はここまで歩いてきた?普通なら『車体番号』を気にするじゃないか!
(『普通の人』はそんなことしません)
というわけで、この681系の側面を嘗め回すように見た、が。
「あのさ、君は何番なの!?」
本来なら、電車の側面に『681-〇』のように記されているはずなのに、それがなかった。
もちろん、681系が応えることはなかった。
乗務員用の扉が開くこともなく、車内の様子は見られない。
「はぁ、681系は保留として……これは何なのかな?」
681系の横に置かれている車(?)を忘れてはいけない。
「よっと……何だっけこれ?」
布の下から現れたのは『笑顔』だった。まるで笑っているような顔つきをした、2ドアのスポーツカー……思い出した、スープラだ。
「なんでここに……?」
スマホを取り出してスープラについて検索しようとしたが、圏外の表示があった。こうなると、このスマホはただの板でしかない。
681系は先行試作車が1992年に、量産車が1995年-1997年に生産された。おそらくこのスープラも……。
『スープラって、ものによるけど今年で30歳になるんだよ。GTで収録されてるのは97年式だし』
「……!」
金刀比羅宮で聞いたノアの豆知識がここで役に立つとは!
「ということは、この中に……」
鍵はかかっていないようで、ドアは簡単に開きそうだった。
……見ちゃいますか、スープラの車内を。




