一人で焼肉へ
ただの焼肉回です。
「じゃあ、少しの間だけ預かりますね~」
「行ってらっしゃ~い」
加賀谷は軽の助手席にミズハを乗せて帰っていった。自宅で女子会(?)をするらしい。
というわけで、久々に一人である。さて、何をしようか……。
「あ、そういえば、最近焼肉行ってない」
ミズハと過ごすようになると、外食はせずに家へ直帰していた。思いついてしまったので久々に外食しよう。
「カローラスポーツでも、あの駐車場に入れる……よね?」
大人の男性一人が腕を広げると通行止めに出来てしまいそうな駐車場の入り口……それもまたご愛嬌ってことで。
この後めちゃくちゃ後悔した。
今日は並ばずに入店することができた。一人で来ていたし、何より二、三人で来ているお客さんが多い。そうなると座敷席が空くまで待つしかなくなる。なんか罪悪感を感じてしまう。
注文は牛の中落ちカルビ、牛上カルビ角切り、牛タン、豚バラ、烏龍茶……ひとまずはこれくらいにして、食べ切ったときに追加注文するようにしよう。おっと、白米も忘れずに。
テレビではプロ野球の試合が行われていた。前に来た時も野球が生放送でやっていた。
「お待たせしました」
カウンターに注文した品が次々に置かれていった。焼かれていなくても『おいしい』と分かるのはなぜだろう……。
さて、僕が注文した肉の中で最初に焼くべきものは何か?
それは『牛タン』だ。カルビなどを先に焼いてしまうと、網に油がついてせっかくのタンが台無しになってしまう。『それがいいんだろ』という人もいるかもしれないが、これは僕のこだわりなのだよ。
焼けた牛タンにレモンを一滴垂らし、口に放り込む。久々に食べる焼肉はいいなぁ……泣きそうになるよ。
そうして黙々と肉を焼いていると、一際店内がざわつくタイミングがあった。
それは9回裏、4-3で打つ側のチームがサヨナラ勝ちをするか、というタイミングだった。2アウト2,3塁という状況も相まって、店内は盛り上がっていた。
テレビにこれから打席に出る選手が映った瞬間、隣のおじさんたちが呟き始めた。
「ここで川本かぁ……こりゃサヨナラはないな」
「どうせスライダー、しかも外に投げ込まれてゲームセットだろ」
……あんまり期待されていないようだ。
打率の数字も表示されたが、僕には高いのか低いのかよく分からなかった。
まぁいいや、ラストスパートかけよ……とトングで豚バラを掴んだ瞬間だった。
『川本打った~!打球は伸びる!伸びて……入ったぁ~!逆転サヨナラホームラン!』
「……外スラ打ちやがった」
「マジかよ」
突然のホームランで店内が凍り付いた。ただ肉が焼ける音だけが響いた。
「大将さん、お会計お願いしま~す」
僕がお会計のために動き出した瞬間、周りのお客さんも動き始めた。時間停止の能力でもかかっていたのかね?
それだけ……川本選手がホームランを打ったことに衝撃を受けたのだろう。
カローラスポーツを駐車場から出すのに苦労しながら、僕は帰路についた。
どうしても『ホルモン系』はだめなんですよ……!




