サンライズ・6
「今日は奢るからじゃんじゃん食べて」
ゲームセンターでたいたつやらドラム式洗濯機もプレイしていたら、あっという間に四時半になった。
今は高松駅近くにある居酒屋で夕食を取っていた。ノアの奢りなら、遠慮せずに食べよう。
一通り注文すると、ノアが質問してきた。
「かなではさ、から揚げって何かける?」
「一つ目は素の味を楽しんで、二つ目はレモンをかける。三つ目以降は気分次第で」
「へえ、俺ね、マヨネーズ」
「……うぇ?」
僕の回りではから揚げにマヨネーズをかける人なんていない。そもそも見たことがない。
「ほら、ここに小袋でマヨ入ってる」
「マヨネーズ常備っ!?」
ノアはズボンのポケットから6グラムサイズのマヨネーズを取り出した。
「参拝中もレース中もずっと……?」
「そだよ」
とんでもない変人すぎる。レビンだけでなく、マヨネーズにも取りつかれている。
「あ、一人だけだけどポン酢をかける人ならいるよ」
「論外」
「SORENA」
僕は茶髪の車掌を思い浮かべた。そう、間違えて出雲に向かってしまった彼女である。
「世の中いろんな人がいるよね……」
ノアの言うとおりだ。
「他にもベジマイトかける人がいたり……」
「何それ」
「世界一まずいジャム」
「……まじでそんなのかけるヤツいるの?」
「めちゃくちゃ定番な嘘」
「コノヤローw」
僕たちは笑い合いながら串焼きやから揚げを食べた。
味?普通に美味しかったです。
ちなみに、今はミズハは店にいない。レビンの中にいてもらっている。
『私がいても、食事はしないので邪魔になってしまいます』
という理由だ。まだ水素の缶もあるし大丈夫だろう。
「正直、ありがたいよ。ほら、トレノだけじゃなくてレビンも盗まれやすいからさ」
年に一回くらいはJDM(Japanese Domestic Market)車が盗まれたというニュースが報道される。それくらい、80~90年代の日本車は人気になっている、とノアは教えてくれた。
「ミズハなら窃盗団が来ても返り討ちにすると思う……」
「え、そんなに強いの?」
僕は東京・大手町の車両所であったことを伝えた。
「……すご」
「僕も制するのに一苦労だったよ……」
僕は苦笑し、ノアは唖然としていた。誰だってそんな反応はする。
あんなスピードでカッ飛んでくるのは……正直勘弁してほしいところだ。
「………」
先ほどから不審なセダンがうろついています。
右から左へ通り過ぎて行ったと思ったら、今度は左から右へ通り過ぎて行くのです。明らかに挙動不審すぎます。
さらに、車内から運転手以外の男三人が私やレビンをジロジロと見つめていたのを確認しました。
「マスターに言うべきか……でもその間に盗まれることも……」
そこで私は思いつきました。
「私が、やるしかないですね……!」
レビンを降り、道から見えないように陰に隠れました。無防備で置かれているように見せかけるのです。
一分後、そのセダンは現れました。
「さっさとやるぞ」
「このレビンを、でしょうか?」
私が陰から出てくると、覆面姿の男たちは狼狽え始めました。手にはマイナスドライバーが握られていました。鍵穴に差し込んで無理矢理開けるつもりだったのでしょう。
「に、逃げるぞ!」
男たちは私と争うよりも、逃げることを優先しました。
私が取るべき方法は一つ。『逃げられないようにする』ことです。
「オールロック」
ガチャ…!
男たちが乗り込んだ瞬間にセダンのコンピュータを乗っ取り、あらゆるシステムをロックしました。電子式パーキングブレーキも、ドアのロックも。
「あ、開かねえ!」
「くそったれが!」
「終わりです。すぐそこに防犯カメラ、そしてドライブレコーダーがあるので証拠は残っています」
まだ逃げようとする男たちに向かって、最後に一言言い放ちました。
「恥を知りなさい」
「いや~、ごちそうさま」
「いいっていいって」
代金は二人で四千円だった。だいぶ安く収めることができたよ。
「もう帰らないとかぁ……ふぇ?」
「名残惜しいな……あ?」
店のドアを開けると、目の前には複数のパトカーが停まっていた。事件か?
「ち、ちょっと、俺のレビンに何してるんですか!?」
ノアの声がした方向を向くと、警察官たちがレビンの車内で何かを調べていた。
歩いて行って近くで見てみると、ドライブレコーダーを調べているようだった。
「あなたがオーナーさんですか?」
「そうですけど」
「実はさっき、盗まれそうになったんですよ。ほら」
メモリーカードを読み込んだパソコンには、覆面姿の窃盗団が映っていた。その後にはミズハも映り込んできた。
「ホントだ……」
「あ、マスター!」
「ミズハ……」
事情聴取を終えたミズハが駆け寄ってきた。
「窃盗団、捕まえました!」
「あ、うん、すごいね……」
なんというか、もうツッコミを入れるのに疲れた。今日はもう何があっても驚かないと思う。
「かなで、こっちも話が纏まったし、そろそろ高松駅に行こうか」
既に時刻は午後六時。空は塩化銅水溶液のように青くなっていた。
「分かった~今行く~。ミズハ、最後に一つ」
「何でしょう?」
「楽しかった?」
「もちろん!楽しかったです!」
風が吹くと、ミズハの蒼い髪が一気になびいた。
「……そっか。ならよかった」
居酒屋を出る頃にはパトカーも撤収していった。こんなハチャメチャな旅でも悪くはない。
空を見上げればそこは星の巴。僕はレビンのドアポケットを掴んで離さない。
今は二人と目を合わせずに、ガラス越しに空を眺め続けていた。




