サンライズ・5
「ここが、『大物主神』が祀られている御本宮だよ」
「つ、着いた……」
二百段以上の階段を上ると、神社に相応しい見た目の建物が見えた。
「大物主神は農業・殖産・医薬・海上守護の神様として信仰されています」
ミズハがその神様について解説してくれた。でも、運転士って運輸業なんだけど?
「他にも、病気平癒や厄除けなどのご利益があるそうです」
「ちゃんとかなでのことも承知の上でここに来たんだよ」
ノアとミズハのおかげで、また一つ賢くなった。
外に出されている賽銭箱に向けて、僕たちは五円玉を投げた。
「………」
「………」
「………」
全員黙り込んで願掛けをした。ミズハが願掛けをして効果があるのかは分からないけど。
「で、どうする?ここで高松駅に戻ったとしても十一時前だけど」
参拝客の邪魔にならない場所で、僕たち三人は話し合っていた。
「どうするって言われても……レビンの運転手はノアだから任せるよ」
「え、かなで、マニュアル免許持ってないの?」
ノアが若干ドヤ顔で言ってきた。マウントがウザい……!
「あるけど、僕にはあんな文化遺産みたいな車は怖くて動かせないんだよ!」
「まあモノによっては五百万円だし、しゃあないか」
「やっす」
「かなでの金銭感覚はどうなってんのさ……」
こっちは常に521という、自動車よりも高額な車両を動かしているからね。
「よし、じゃあさっき通り過ぎたショッピングモールで時間潰すか」
と、ノアは提案してきた。僕とミズハは反対する理由なんてない。
「時間を潰すといったら、ここしかないよな」
と、ノアに連れてこられたのはモール内のゲームセンターだった。
「ほら、かなで。久しぶりに決着をつけようか」
「え?何それ」
「忘れた?峠バトルだよ」
そういえば、二人でよくそのゲームしてたっけ。アカウントを作る前だったから、車の性能は均等だった。
でも今は違う。僕は既にアカウントを持っている。それはノアも同じでカードを持っていた。
「腕が鈍ってないか、このノアが直々に試してあげよう!」
「別にオートマでいいかな。マスコン感覚でやってしまいそうだし……」
「頑張ってください、マスター」
僕のマイカーはGRヤリス(フルチューン済み)。カローラスポーツの形と少し似ていたから、この車で至る所を走ってきた。
一方でノアのマイカーはレビン(フルチューン済み)だった。現実で乗っている車が収録されていたら、もちろん使いたくなるよね。
僕は『小田原/順走/昼』を選択。箱根/下りに次いで得意なコースだ。
「かなでが苦手なコースで行こうっと」
ノアは『いろは坂/下り/昼』を選択してきた。GRヤリスは車幅が広いし、そもそも適性のコースじゃない。頼む、小田原来い!
『コースが決まりました 小田原/順走/昼』
「っしゃ!」
「まずいな……!けど、燃えてきた!」
ここで『勝ったな』となってはいけない。そう思う人ほどミスをして負けるのだ。
「かなで」
「………」
「彼女いる?」
「……521」
ノアのかく乱を気にせず、アクセルを踏み込んだ。四駆なおかげで先手をとった。
焦ることはない。僕はただ、ヤリスを操作してやればいい。後は大体何とかしてくれる。
ゴンッ
橋の上でレビンが軽く当たってきた。これくらい、このゲームじゃ日常茶飯事だ。
「そこ」
内側の小さなスペースを突いて、レビンが割り込んできた。
「いいねえ、やりがいがあるよ!」
「………」
どうせ、この先の分岐で前に出られるから焦らない。ここで『カッ』となったら愚の骨頂だ。そこまでは離され過ぎないように走っていこう。
分岐は左から侵入していくラインと、直進していくラインがある。すぐに元のコースに戻るのであまり大差はないはずだが、なぜか左ルートで走る人が多い。だから。
「いただき」
予想通り、レビンは左へ曲がっていった。そこをあえてヤリスは直進していく。どちらも道幅が広くないので、二台が並走して走ろうものなら詰まりやすい。
素早くカウンターステアを当てて姿勢を立て直した。
「やるねぇ!」
ストレートに入ると、じりじりとレビンが差を詰めてきた。ブーストで加速力に補正がかかっているから仕方のないことではある。
旧車に追いつめられる最近の車、というシチュエーションになっている。立場逆転だ。
二周目はまた同じところでレビンに追い抜かれた。あのコーナーは練習すべきだろう。インの締めが甘いんだろうな……。
けれど、二周目には先ほどなかった『ある要素』が加わる。
「マージンを……もっと!」
差が開かないことで、ノアは焦っているようだった。
「ノアにはヤリスが見える?」
「見えないから余計怖いんだよ!」
返事を返せているなら、まだ余裕がありそうだ。
ヤリスとレビンがある地点に差し掛かった瞬間、何かが砕け散った。
「掻き鳴らせ」
ある要素とは『ラストスパート』である。こうなるとお互いにブーストが強くなる……と勝手に思っている。個人的な意見なので当てにしないでほしい。
みるみるうちにレビンに追いつき、そして追い越していった。
「速ぇ!」
「運転士だからね」
いや何を言っているんだ僕は、僕は!
二連続の直角コーナーも上手く処理し、ゴール地点に飛び込んでいった。こういう時に言うセリフは一つ。
「作戦通り、俺の勝ち!」
「おめでとうございます、マスター!」
「あ~負けた……場所が合ってなかったな」
「言い訳?」
「半分正解」
画面には60 mの差をつけて勝ったことが示されていた。
「よくやったよ、ヤリス」
たとえ人でなくても敬意を忘れない。ずっと心がけていることだ。
この後、僕のアカウントを使ったミズハと、ZN6で再挑戦するノアの対決になった。




