サンライズ・4
うどん、と言えば。
やっぱりたぬきうどんとか、釜玉うどんとかかな。
「ここはカレーうどんがおすすめ」
ノアの言葉は無視しよう。自分が食べたいものを食べる。それが一番だ。
「おろし醤油で」
「じゃあカレーうどんで」
ノアはそれが好きなのかもしれない。どこかの白髪少女みたいだ。
「そういえばさ。ミズハちゃんは食べるの?」
うどんを待つ間、ノアが尋ねてきた。
「いや、ミズハは『食べる』じゃなくて……」
「おろし醤油とカレーです」
説明しようとしたところで、注文したものが完成した。
「……席に着いてから話すよ」
席に着くと、ミズハはポーチから缶を取り出した。鉄道博物館でも持ってきていた、水素が入っているあの缶である。
「へえ、水素で動くんだ」
「車も水素で動くものもあるでしょ。そんなに意外?」
「いやいや、燃料電池自動車はほんのわずかだって。トレノやGRカローラが水素エンジン車になってたりするけど、まだ実験段階だから」
あれ、水素で521を動かしているうちの会社ってもしかして凄い?
「ミズハちゃん、水素ってどんな味?」
「味と言われても……無味です」
「味があってほしいって思わない?」
「思いません」
「あ、そう……」
ミズハ、会話を終わらせるのが上手いなぁ。
ノアはそのまま麺をすすった、かと思ったら。
「かなで~!ミズハちゃんが冷た~い!」
「ウザ絡みしてくるな」
指で僕の背中をつついてきた。食事中にそんなことしてくるんじゃない。
「味が安定してた」
「いや、僕は初めて入ったから分からない」
うどんを三十分で食べ終え、僕たちは駐車場へ向かった。
「で、これからどうするの?帰りのサンライズ瀬戸は21時36分発だから、せめて午後九時までには高松駅にいたいんだけど」
今はちょうど午前八時。まだ半日もある。
「じゃあさ、金刀比羅宮行こうよ」
「えっと、どこ?」
「通称『こんぴらさん』として親しまれる全国の金刀比羅神社の総本宮です。大物主神を祀り、海上安全、商売繁盛、農業・医薬の神として崇敬されています」
ミズハが金刀比羅宮の説明をしてくれた。
「そう、そこだよ。時間ならあるし、国道32号経由のルートでいいか」
ノアはスマホをホルダーに設置し、エンジンをかけた。
「ナビってないの?」
「いや、こんなレトロな車にナビなんか付けたら雰囲気ぶち壊しだよ。これでいいの」
確かに、ノアが言っていることは確かだった。
「この上って何が走っているの?」
公園近くで、立体交差になっている場所が気になった。
「ああ、高徳線だよ。特急『うずしお』とか」
「2600系と2700系!」
「電車は詳しくないから何も言えんな……」
「普通列車は1000形、1200形、1500形、キハ40形・キハ47形……だったよね」
僕は後部座席に座っているミズハの方を振り向いた。
「はい、そうですね」
「よっしゃ」
ちなみに、普通に『1000形』と検索すると『京急』や『江ノ電』の1000形が最初に出てくる。なので『JR四国』を付け加えて検索することが重要だ。
(『キハ40形・キハ47形』はそのまま検索しても出てくる)
立体交差があった場所からさらに進んでいくと、駅舎が見えてきた。
「あれが綾川駅。ショッピングモールは普通にあるし、意外と利便性は良いと思う。個人的な意見だけど」
「綾川線……琴電琴平線!」
「だから分かんないって、路線の名前言われても」
綾川駅の方をじっと見ていると、イエロー塗装の車両が停車した。
「お、1080形かな」
製造から半世紀はとっくに過ぎているのに、よく頑張っているなあ。
「確か、軌間が1435 mmで、新幹線と同じ『標準軌』だったよね?」
「そうです。日本の在来線はほとんどは『狭軌』となっています」
「だよね!」
またまた鉄道の話で盛り上がった。
そしてノアは……。
「前よりも鉄道オタク度が増してんね……」
そんな様子の僕たちに引いていた。
「いや~、駐車場が空いてて助かる」
高松駅を出発して一時間。ようやく金刀比羅宮に着いた、とノアは言っていたが。
「……神社じゃなくない?」
目の前にある建物には神社要素がゼロだった。鳥居などが見当たらない。
「違う違う。これカフェ」
「え、こんなところに?」
「そ。石段500段目にあるから、ショートカットしてきたってこと」
そんなのありなのか……。
「運動不足気味のマスターだと、100段くらいで息が上がってしまいそうですものね」
「あ、そこは昔から変わらないんだ?」
「もとから筋力がないだけ。体重は50 kgだから太っているってわけじゃない」
そう言うと、ノアは僕の頭……頭頂部を見た。
「かなで、身長いくつ?」
「えっと、171 cm」
「おま……まじかよ。太れ」
「ええっ!?」
唐突に『太れ』なんてないでしょ!
「170 cmの男性の適正体重は64 kg。かなで軽すぎだって」
「……高校の友人と同じこと言ってる」
「それだけかなでが異常なんだよ」
やっぱりこの体重はなんとかしないといけないのか……どうやって太るんだ?
ずっとそんなことを考えながら、金刀比羅宮に続く階段を上っていった。
僕に太るように言ってきた高校の友人は豊沢さんだった。




