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サンライズ・2

ピピピ…ピピピ…

「んむぅ…」

 朝の六時、枕元で目覚ましが鳴った。

「マスター、起きてください」

「あと120秒……」

「連結の切り離しを見るのでしょう?」

「……」

 僕は勢いよくベッドから抜け出した。

「マスターには、目的を思い出させることが一番ですね」


『サンライズ出雲・瀬戸』は岡山駅に着くと切り離しを行う。それを見るために目覚ましをかけていた。

「そういえば、加賀谷に伝え忘れてたな…」

「ああ、『出雲』と『瀬戸』のことですか」

 加賀谷が乗っているのは『サンライズ出雲』。対して僕たちは『サンライズ瀬戸』に乗っている。切り離した後は『サンライズ瀬戸』が先に発車するので、僕らは最後まで岡山駅に残ることができない。

 何度も加賀谷に電話をかけてみたけれど、一向に出る気配がない。

「諦めるしかないか」

「目覚めたときの反応が見られないのが残念です」

「……ミズハ?」

「いえ、何でもありません」

 だといいんだけど。


 香川県に入るには瀬戸大橋を渡らないといけない。別に四国に入るだけならこの橋以外にも手段はある。

 瀬戸大橋の特徴といえば、僕たちの真上を車が走っていることだ。トラックなどだけではなく、285系の重量も支えているこの橋はすごいと思う。

「あの、すみません」

 ミニラウンジで瀬戸内海を眺めていると、一人の青年が声をかけてきた。また鉄道博物館みたいなことになるのかな?

「音楽、好きですか?」

「え、ああ、はい」

 拍子抜けしてしまった。突然そんな質問をしてくる人なんているんだ。

 あ、とテーブルを見た。そこには僕のスマホと有線イヤホンが置かれていた。絶対これのせいだ。

「もし、時間があるのなら、音楽のジャンルを教えてくれませんか?」

「い、いいですけど、僕偏りがちですよ?」

「それでもいいんです!」

 というわけで、唐突に音楽教室(座学で)が始まった。


 まずは『ハードテック』。フランス発祥とされていて、重厚なバスドラムの反復が特徴のテクノ・ジャンルだ。BPMは160〜200くらいだけど、僕からしたらこんなの序の口だ。

 次に『ハードスタイル』。オランダ発祥で、歪んだ攻撃的な『ハードスタイルキック』、重厚なベースラインを特徴とするジャンルだ。BPMはハードテックよりも遅めの150〜165。

 次に『トラップ』。アメリカで生まれたヒップホップのサブジャンルだ。由来は麻薬密売所を指すスラング「トラップハウス(Trap House)」から来ているとか。いかにもアメリカらしい。BPMは100くらいがおすすめ。

 次に『ガバ』。ハードスタイルと同じでオランダ発祥だ。ディストーション(歪み)を極端にかけた重低音の「ガバキック」が特徴で、BPMは160くらい。wotakuさんの『snooze』ってこれ...かな?

 次に『ハードコア』。『⬛︎んだら即終了』の意味ではないので要注意。僕はこのジャンルが一番好きだ。

 音ゲーに収録されている曲の大半がこのジャンルだ。ものによるけど。今はなき『WACCA』や、僕もたまに遊んでいる『チュウニズム』とか。要するに、音ゲー界では有名。速いBPMで、よく腕を破壊されがち。

 次に『ローファイ・ヒップホップ』。2010年代後半にネット上で隆盛したジャンルだ。リラックスしたいときに聴く人はいるんじゃないかな。とにかくBPMがゆっくりなのだ。

 次に『シンセウェーブ』。1980年代の映画、ゲーム、ポップカルチャーのサウンドに影響を受けたジャンルだ。『1980年代の人が思う[未来]』といった感じ。そんなに速くはない。BPMはローファイ・ヒップホップよりも少し速い。

 次に『ジャズ』。これは知っている人が多いと思う。19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカ南部ニューオーリンズで生まれた、アフリカ系アメリカ人のブルースやラグタイム、欧州の音楽が融合して生まれたジャンルだ。BPMは140くらいで、喫茶店とかで流れている。

 次に『エレクトロスウィング』。1920〜40年代のビンテージなジャズやスウィングを、現代のハウス、ヒップホップ、EDMのビートと融合させたジャンルだ。zensenさんの作るエレクトロスウィングは聴いていて跳ねたくなる。

 次に『コンプレクストロ』。Complex(複雑)とElectro Houseを組み合わせたEDMのサブジャンルだ。音が目まぐるしく変化していく。

 次に『カラーハウス』。家とは関係ない。2020年代初頭に台頭した、エレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)の新しめのサブジャンルだ。

 次に『2ステップ』。1990年代後半にイギリスで誕生したUKガラージの派生ジャンル。ハウスの4つ打ちとは異なり、1拍目と3拍目にキックを配置し、シンコペーションを用いた跳ねるようなリズムが特徴だ。『ドン、カッ、ドン、カッ』を繰り返す感じ。


 ……ここまで話して、僕は気づいてしまった。

『話す』よりも『聴く』の方が良いんじゃないか、と。


「本日はありがとうございました!」

 話に夢中になりすぎていて、いつの間にか坂出駅の手前まで来ていた。青年はここで降りるらしい。

「共有した曲のコメント欄に有識者がたくさんいるから、僕なんかより頼りになるよ」

「はい、参考にします!」

 そして彼はスーツケースを持って『サンライズ瀬戸』を降りた。

 ジャンルを一曲でたくさん使い分ける人といえばこの人なんだよなあ……。

「マスター、次が高松駅ですよ」

 ミズハがミニラウンジに入ってきた。

「なら、降りる準備しないと」

「既に済ませてあります」

 ミズハの後ろには、僕のカバンがあった。

「あ、ごめんね。整理までさせちゃって」

「マスターのためなので」

 カバンを受け取り、ドアの前に立った。僕らの後ろに続々と人が列を作っていた。

 あれ、もしかして服とか見られた……?

 恥ずかし過ぎて、高松駅までずっと顔が真っ赤になっていた…気がする。

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