サンライズ・1
寝台特急『北陸』が臨時で復活した翌日、僕はとある予約サイトを開いていた。
「お、空いてる」
何のためらいも無く、僕はあっさりとその部屋の予約を取った。帰りの分の予約も忘れずにした。
そう、『サンライズ瀬戸』だ。
ミズハと行くから、4号車のサンライズツインを選んだ。シングルツインもあるけど、二人じゃ狭そうだった。
ちなみに、何の理由もなく『サンライズ瀬戸』の予約を取ったわけではない。
「かなで君、お手紙が来てる」
「僕宛て?」
数日前、おばあちゃんから封筒を渡された。その封筒には僕の名前が書いてあった。
中から折り畳まれた紙を取り出すと、少しだけレモンの香りがした。
「何でしょうか?」
「え〜と...…まっさら」
ミズハと覗き込むように紙を見た。けれど、紙には何も書かれていなかった。
あ、待てよ……レモンの香りがしたということは。
「おばあちゃん、チャッカマンある?もしくはマッチ」
そして紙を炙ってみた。
「おお!」
「なるほど」
予想通り、文字が浮かび上がってきた。
「かなで君、よく知ってたね」
「小学校にあった小説でこんなことしてたから」
肝心の中身はというと。
『香川県高松市浜ノ町1-20 で会おう。 NOAH』
「……そうじゃないかなと思ったよ。こんなことするのなんてさ」
初めての友達、ノアからだった。
「この住所は…香川県の高松駅ですね」
「香川県かぁ……何の仕事してるんだろう。それともまだ療養中かな」
何にせよ、久々に会えるのだからそれで十分だ。
「へぇ、サンライズですか〜」
パソコンを後ろから見ていた加賀谷が言った。画面には285系が映っていた。
「もしかして乗るんですか?」
「そ、そうだけど」
「なら私も乗ろうかな〜!」
ノアに加賀谷を合わせたらどんな反応をするだろうか。一瞬興味が湧いたが、僕一人じゃ抑えられそうにない。だからそれはちょっと……。
「お、空いてます!予約っと」
「えっ」
「はい、完了!サンライズ出雲、予約取れました!帰りの分もバッチリです!」
加賀谷は堂々とスマホ画面を見せてきた。9号車のシングル…。
彼女、『サンライズ出雲』の方を予約している。
「じ、実はさ」
「ミズハも行くんですよね?楽しみだなぁ、出雲で女子会!」
「......」
まずい。言うタイミングを失ってしまった。
「じゃあ、お疲れ様でした〜!」
そのまま加賀谷は帰っていってしまった。
ああ…もういいや。
そんなことがあった一ヶ月後、僕らは東京駅にいた。
「九番線、九番線…」
「こちらです」
ミズハが構内図を覚えたことで、迷うことなくホームへ辿り着いた。
「おお、これが〜!」
「僕も実物は初めてだよ」
「現在唯一の寝台特急です」
285系『サンライズ出雲・瀬戸』と初対面した。これが三十年も前の電車とは思えない。
「加賀谷は9号車だっけ?」
「そうなんですよ~。そこしか空いてなかったんです」
「僕らは4号車だから、若干離れてるね」
「でも会いに行けるから別にいいです!」
それは岡山駅までだけどね、とは言いづらかった。
加賀谷と別れ、車内でシャワーカードを買いに行った。残り三枚のところで買えてよかった。
「ミズハは?」
「私はシャワーを浴びることはありません」
ミズハの分は必要ないらしい。
バッグを手に持ち、そのまま4号車のサンライズツインへ向かった。
「お〜」
窓は大きく取られていて、、ベッドのサイズも丁度良かった。
「マスター、ラウンジで駅弁を食べる方が良いと思います」
285系の3号車と10号車にはミニラウンジがある。確かに、ベッドの上で食べるよりも、ちゃんとした席で食べた方がいいかも。
「じゃあそうしようか」
駅弁を食べ終えた頃、『サンライズ出雲・瀬戸』は東京駅を発車した。521とはまた違ったモーター音がした。
「もう21時50分か……パパッとシャワー浴びて寝ようかな」
時計台に停めてきた車、盗まれていないかな?ちょっと心配になってきた。
「夜景は見ないのですか?」
「……明日に備えるために見ないでおくよ」
多分、たくさん疲れる気がする。ノアと遊んでいると、なぜかよく疲れることが多かった。その疲れよりも楽しさのほうが大きかったから、あんまり気にしていなかったけど。
とはいえ、僕も若くはないからなあ…。あと少しで三十路だ。時間の流れって怖い。
七年なんてあっという間ですよ。




