2話 金沢駅→富山駅
空は年に数回しかないくらい晴れていた。快晴...とはもう言わないか。その下を、銀色と青色の521が走っている。鉄道ファンからしたら良いシャッターチャンスなのかもしれない。
隣に見える立体駐車場には、三脚とカメラが多くあった。それに比例するように人もいた。
『本日も、ご利用くださいましてありがとうございます。次は富山、富山です』
自動でアナウンスも響いた。予定通りで順調だ。
多分一時間かけて富山向かうんだろうな、と思っていたら...。
「うおっとと」
ありえないことが起きた。
本来ならば、七番線の線路を真っ直ぐに進むので横Gがあまりかからない。しかし何故か右に動き、横Gがかかっていた。
そう、ポイントが切り替わっていたのだ。しかも車庫へ向かう線路へ向けて。
急停止すべきか迷ったが、ミズハから届いたHUDの文字を見てやめた。
『このルートが正しいです。この先に反重力装置のスターターがあります』
金石区長は『HUDに従え』と言っていたし、そうせざるを得ない。
...反重力装置?なんじゃそりゃ?
そんなとき、ふと見慣れない小箱が枕木の上に置かれていた。
その上を通過すると突然、振動がなくなった。金属と金属が擦れ合う音も消えた。残されたのはフワリと浮く感覚だけ。
「飛んでるじゃん...」
521は段々と地面から離れていっているのだ。
HUDによれば、地面から緩い角度で上昇していっているらしい。乗客にちゃんと配慮している。
『区長は最後まで、詳しいことを翫さんに秘密にしていましたね』
「...ミズハが伝えてくれたっていいじゃん」
『言葉にすると専門用語が大量に出てくるので伝えませんでした。説明しますか?」
「......富山駅に着いてから教えてもらおうかな」
ミズハが示した予想到着時刻は八時半だった。
金沢駅と富山駅の直線距離は55キロ。521は「時速110キロまで」と決められている(速度計の上にでかでかとシールが貼られている)ので、最短ルートを通って三十分くらいで着く予想なのだろう。
ちなみに、521の設計最高速度は時速130キロまで出るらしい(ウィキで知った)。
雲がある高さほどではないが、まぁまぁな高さを飛んでいる。某大佐なら高笑いしてあのセリフを言うだろう。
倶利伽羅辺りの山を越えたところで、車内の会話に耳を傾けてみた。もちろん、HUDからは目を離さずに。
「こんにちは。どちらに行かれるんですか?」
質問主は女子高校生くらいのようだ。
「長岡に住んでいる孫に会いに行くんだよ。二年ぶりだろうかねぇ...。あなたは?」
こちらはおばあさんのようだ。
「私は富山に住んでいる幼馴染に会いに行くんですよ。かなり前から計画していたんですけど、なかなか都合が合わなくて」
「あら、そうなの。...お友達は大切にしなさいね。私はそれで後悔しているから」
「...え?」
「昔、中学のクラスメイトと喧嘩しちゃってね。謝りに行こうとしたその日の夜、私の目の前でその子の家が燃えていたのよ」
「...」
しばらくの間、無言になっていた。
「焼け跡から三人の遺体が見つかってね。あれほど後悔したことはないよ...」
「...私、辛いことを思い出させてしまったようですね」
「大丈夫よ。もうすぐで謝りに行けるから」
「もう...すぐ?」
「もう歳だし、そろそろお迎えが来るんじゃないかって思っているのよ。だからこうやって思い出を残している最中なのよ。でも...列車が飛ぶのは予想外だったわ。あの子との距離が近くなった気がする」
おばあさんは大きな窓から空を見上げていた。
「開発者に感謝しないとですね」
『これが、想いを乗せて走るということですよね?』
沈黙したままのHUDに文字が現れた。
「そう。こういう声が届くから、やりがいを感じられるんだよ」
『なるほど。私もより深く感じられるように成長していきます』
質問主の女子高校生はみかんを取り出したらしく、甘酸っぱい香りが届いてきた。




