26話 北陸
ゆっくり休んで迎えた翌日。僕はミズハと共に出勤した。
今日僕が最初に任せられたのは『521-30』。青ラインの2次車だ。
といっても、運転室は3次車とあまり変わらないけど。2次車は車内がクリーム色(?)、3次車は灰色だ。
その521を迎えに行こうとしたときだった。
「おはようございま...」
目の前に黒い筒があった。ものすごく大きい。
「......」
恐る恐る顔を上げた。
そこには、『D51 522』と書かれたプレートがあった。
「デ、デゴイチ…!?」
「おお…!」
なんで?どうして?…ホント何で?
「ミズハ、僕の頭にキノコ生えてない?」
「白髪なら少し生えてます」
「言い方ぁ」
「お、二人とも早いな!」
デゴイチの運転室から、金石区長が顔を出した。
「く、区長っ!?」
「どうだ、すごいだろ?つい昨日仕上がったばかりなんだ」
確かに、デゴイチの見た目からは劣化を感じさせなかった。まるで生産直後からタイムスリップしてきたみたいだ。
デゴイチの後ろには、青色の客車が連なっていた。そして、ヘッドマークには『北陸』と書かれていた。
「く、区長。これってまさか...」
「そう、寝台特急『北陸』だよ!」
『北陸』は、かつて上野駅と金沢駅間を東北本線・高崎線・上越線・信越本線・北陸本線経由で運行されていた寝台特急列車である(Wikipediaから引用)。
先頭車両は『EF64』や『EF81』が担当していた。走る区間によって異なっていて、『EF64』が上野駅〜長岡駅、『EF81』が長岡駅〜金沢駅で牽引していた。
だから、適任はデゴイチじゃなくて『EF64』のような電気機関車だと思うんだけど。
「今回は長岡駅までで、最初で最後の臨時列車だ。発車は17時22分だから、時間が合えば発車を見られるかもな」
よく見ると、金石区長はいつもの制服姿ではなく、半袖の作業着姿になっていた。今は春とはいえ...…ん?
「区長が運転するんですか!?」
「ちゃんと『動力車操縦者運転免許』は待ってるぞ?」
「そうじゃなくて、区長の仕事はどうするんですか!?」
「信頼できる後輩に任せるから大丈夫大丈夫!それに、午後まではちゃんと仕事するから!」
......寝台特急だから明日もいないんだろうな。
SLは二人ペアで動かすものだから、誰かもう一人必要だ。
そういえば、確か島さんがボイラーの免許を持っていたはず。『島さん』は還暦のベテラン運転士、僕の大先輩だ。
「マスター、そろそろ時間ですよ」
「おっと。いけないいけない。じゃあ金石区長、時間なので失礼します」
「おう!」
車庫を出て会社に入り、521-30及び520-30の鍵を取った。
あ、57と連結した四両編成だからその分の鍵も持っておかないと。
「『金沢発松任行』、その後『松任発津幡行』、さらにその後『津幡発金沢行』…そして切り離しと」
「いつも通りですね」
「変わらない日常が、一番楽で生きやすいよね」
人によっては刺激とか、マーベラスな出来事が欲しいと感じる人もいるだろうけど、僕は安定を取る。
「本当に......すごいなぁ」
午後五時、金沢駅の三番線に『北陸』は停車していた。デゴイチは既に準備万端のようだ。
ホームには絶えず人が集まり、あまりの多さで誘導が行われるほどだった。それだけ、多くの人が復活を待ち望んでいたのだろう。
ちなみに、乗車率は100%だ。この目で全ての部屋が埋まっているのを、先輩にパソコンで見せられた。
「区長って昔はバリバリ働いてたんですね〜」
隣で加賀谷が呟いた。僕も、区長の昔のことは知らなかったから驚きだった。ついでに島さんのことも。
「マスター、私は蒸気機関車を制御できませんよね?」
「え……多分無理だと思うよ」
電車と違って石炭が必須だし、そもそも重さが桁違いだ。
「それに、熱で変形してしまいそうだし…」
「そうですよね」
SLの運転室は洒落にならないほど暑くなる、と鉄道図鑑で読んだことがある。
そんな話をしていると…。
「翫くんたち!」
運転室から金石区長が出てきた。
「ちゃんと指示は聞くようにな!」
「分かってますよ、区長」
おせっかいだなぁ。
そして、『北陸』の発車時刻となった。
『寝台特急[北陸]、まもなく発車します』
ボォォォォッッッ!!
金沢駅に汽笛が響いた。
ここから進化して、521や683系が生まれたと考えると、感慨深いものがある。
[行ってくる]
金石区長が、そんな風に口を開いていた気がした。
まるで、僕たちが東京駅に向かうときの逆バージョンみたいだ。だから、僕はこう口を開けた。
[行ってらっしゃい]
仕事終わりの夜、僕は一人で松任海浜公園(地元では『CCZ』と呼ばれている)に来ていた。
カフェオレ片手に、カローラスポーツのボンネットに腰をかけて空を見上げた。そこには数多の星が輝いていた。
「寝台特急か……」
その言葉を聞いてから、僕の中でやりたいことが生まれた。
『sunrise』
「……さて、明日も頑張りますか」
このとき、一瞬だけ『DAYBREAK FRONTLINE』を思い浮かべた。
まぁ、まだ日は昇らないんだけどね。
「『バルサミコ酢、やっぱいらへんで』……帰路で聴こう」
カフェオレを飲み干し、運転席に乗り込んだ。
〜終わり?〜
これにてメインストーリーは終了となります。この後、回送物語となり、作者の名鑑に入ります。ご愛読いただき、誠にありがとうございました。
ただ、完結設定はしません。まだサブストーリーを描きたい、もしくは描いてみたいという感情があるので。
Orangestarさんの『空奏列車』を、地元のもので、ストーリーを広げてみたい。
こんな想いから始まったこのストーリー。
やっぱり『ボカロ』が好きなんだな。




