表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/47

26話 北陸

 ゆっくり休んで迎えた翌日。僕はミズハと共に出勤した。

 今日僕が最初に任せられたのは『521-30』。青ラインの2次車だ。

 といっても、運転室は3次車とあまり変わらないけど。2次車は車内がクリーム色(?)、3次車は灰色だ。

 その521を迎えに行こうとしたときだった。

「おはようございま...」

 目の前に黒い筒があった。ものすごく大きい。

「......」

 恐る恐る顔を上げた。

 そこには、『D51 522』と書かれたプレートがあった。

「デ、デゴイチ…!?」

「おお…!」

 なんで?どうして?…ホント何で?

「ミズハ、僕の頭にキノコ生えてない?」

「白髪なら少し生えてます」

「言い方ぁ」

「お、二人とも早いな!」

 デゴイチの運転室から、金石区長が顔を出した。

「く、区長っ!?」

「どうだ、すごいだろ?つい昨日仕上がったばかりなんだ」

 確かに、デゴイチの見た目からは劣化を感じさせなかった。まるで生産直後からタイムスリップしてきたみたいだ。

 デゴイチの後ろには、青色の客車が連なっていた。そして、ヘッドマークには『北陸』と書かれていた。

「く、区長。これってまさか...」

「そう、寝台特急『北陸』だよ!」


 『北陸ほくりく』は、かつて上野駅と金沢駅間を東北本線・高崎線・上越線・信越本線・北陸本線経由で運行されていた寝台特急列車である(Wikipediaから引用)。

 先頭車両は『EF64』や『EF81』が担当していた。走る区間によって異なっていて、『EF64』が上野駅〜長岡駅、『EF81』が長岡駅〜金沢駅で牽引していた。

 だから、適任はデゴイチじゃなくて『EF64』のような電気機関車だと思うんだけど。

「今回は長岡駅までで、最初で最後の臨時列車だ。発車は17時22分だから、時間が合えば発車を見られるかもな」

 よく見ると、金石区長はいつもの制服姿ではなく、半袖の作業着姿になっていた。今は春とはいえ...…ん?

「区長が運転するんですか!?」

「ちゃんと『動力車操縦者運転免許』は待ってるぞ?」

「そうじゃなくて、区長の仕事はどうするんですか!?」

「信頼できる後輩に任せるから大丈夫大丈夫!それに、午後まではちゃんと仕事するから!」

 ......寝台特急だから明日もいないんだろうな。

 SLは二人ペアで動かすものだから、誰かもう一人必要だ。

 そういえば、確か(しま)さんがボイラーの免許を持っていたはず。『島さん』は還暦のベテラン運転士、僕の大先輩だ。

「マスター、そろそろ時間ですよ」

「おっと。いけないいけない。じゃあ金石区長、時間なので失礼します」

「おう!」

 車庫を出て会社に入り、521-30及び520-30の鍵を取った。

 あ、57と連結した四両編成だからその分の鍵も持っておかないと。

「『金沢発松任行』、その後『松任発津幡行』、さらにその後『津幡発金沢行』…そして切り離しと」

「いつも通りですね」

「変わらない日常が、一番楽で生きやすいよね」

 人によっては刺激とか、マーベラスな出来事が欲しいと感じる人もいるだろうけど、僕は安定を取る。


「本当に......すごいなぁ」

 午後五時、金沢駅の三番線に『北陸』は停車していた。デゴイチは既に準備万端のようだ。

 ホームには絶えず人が集まり、あまりの多さで誘導が行われるほどだった。それだけ、多くの人が復活を待ち望んでいたのだろう。

 ちなみに、乗車率は100%だ。この目で全ての部屋が埋まっているのを、先輩にパソコンで見せられた。

「区長って昔はバリバリ働いてたんですね〜」

 隣で加賀谷が呟いた。僕も、区長の昔のことは知らなかったから驚きだった。ついでに島さんのことも。

「マスター、私は蒸気機関車を制御できませんよね?」

「え……多分無理だと思うよ」

 電車と違って石炭が必須だし、そもそも重さが桁違いだ。

「それに、熱で変形してしまいそうだし…」

「そうですよね」

 SLの運転室は洒落にならないほど暑くなる、と鉄道図鑑で読んだことがある。

 そんな話をしていると…。

「翫くんたち!」

 運転室から金石区長が出てきた。

「ちゃんと指示は聞くようにな!」

「分かってますよ、区長」

 おせっかいだなぁ。

 そして、『北陸』の発車時刻となった。

『寝台特急[北陸]、まもなく発車します』

ボォォォォッッッ!!

 金沢駅に汽笛が響いた。

 ここから進化して、521や683系が生まれたと考えると、感慨深いものがある。

[行ってくる]

 金石区長が、そんな風に口を開いていた気がした。

 まるで、僕たちが東京駅に向かうときの逆バージョンみたいだ。だから、僕はこう口を開けた。

[行ってらっしゃい]


 仕事終わりの夜、僕は一人で松任海浜公園(地元では『CCZ』と呼ばれている)に来ていた。

 カフェオレ片手に、カローラスポーツのボンネットに腰をかけて空を見上げた。そこには数多の星が輝いていた。

「寝台特急か……」

 その言葉を聞いてから、僕の中でやりたいことが生まれた。

『sunrise』

「……さて、明日も頑張りますか」

 このとき、一瞬だけ『DAYBREAK FRONTLINE』を思い浮かべた。

 まぁ、まだ日は昇らないんだけどね。

「『バルサミコ酢、やっぱいらへんで』……帰路で聴こう」

 カフェオレを飲み干し、運転席に乗り込んだ。


〜終わり?〜

 これにてメインストーリーは終了となります。この後、回送物語となり、作者の名鑑に入ります。ご愛読いただき、誠にありがとうございました。

 ただ、完結設定はしません。まだサブストーリーを描きたい、もしくは描いてみたいという感情があるので。


 Orangestarさんの『空奏列車』を、地元のもので、ストーリーを広げてみたい。

 こんな想いから始まったこのストーリー。

 やっぱり『ボカロ』が好きなんだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ