23話 本当の終点・金沢駅
キイッ...!
「いでっ」
突然のブレーキで僕はシートから滑り落ちた。
確か、ミズハに運転室を追い出されて、寝ているように言われたから寝ていたはず。
……とりあえず、ブレーキの理由を教えてもらおう。制服についた埃をはらいながら運転室へ向かった。
「何か問題でもあった?」
今もなお、運転席に座っているミズハに声をかけた。
「いえ、何も問題はありません」
「え、じゃあさっきのブレーキは...」
「マスターを起こすためです」
僕のためだけに?
「加賀谷には言ったの?」
「はい。ちゃんと了承を得られました」
「アナウンスで起こせばよかったのに」
「...…そうでした」
ちょっと抜けてるところがあるな、ミズハは。
「マスター、あと十五分で金沢駅です」
「え、もう?」
「その様子だと、かなり疲れがあったようですね」
「...かもね。自覚はないけど」
僕が気づいてなかったら、疲れなんて無いんじゃないかな。
またミズハがデッドマン装置をダウンさせている間に、僕は運転席へ戻った。
「戻ってきましたね」
下に広がる地元の風景に安心感を覚えていた。ここまで安心できるのはなんでだろう?
「そういえばさ、これからミズハはどうなるの?」
「私ですか?」
さすがに廃棄処分なんてことにはならない(というか『させない』)と思うけど。
消失しないよね?
「私はアシスタントとして業務に就くことが決まっています」
あ、これからの事が決まってるんだ。なら良かっ
「マスターのアシスタントとして、です」
「......お、お〜」
このことは聞くんじゃなかった。
いやいやいや、まだ『ミズハの願望』だろうし、決まってるわけじゃない。
「金石区長は親指を空に向けて立てていました」
「クチョォ」
五番線のホームには、大勢の配達員と金石区長がいた。
「翫くん、お疲れさん!」
金石区長はバシバシと肩を叩いてきた。制服が乱れるからやめてもらいたい。でも年上の人だから言えない。
「それで、あの配達員は...」
「ここで石川、富山、福井と県ごとに荷物を分けるんだ」
配達員たちは車内から荷物を運び出し、ロボットへ乗せていった。
あのロボットは最近誕生した運搬ロボらしい。駅の階段くらいならスーッと降りていく。
「人手不足、やっぱり深刻なんですね」
「ああ、うちよりもな」
そうだ、ミズハが言っていた事が本当か聞いておかないと。
「区長、ミズハはこの後『運転士のアシスタント』になるんですか?」
「ああ。『運転士の』じゃなくて『翫くんの』だけどな」
せめて間違いであってほしかった!僕は521に額を当てて頭を冷やした。ステンレスの車体はキンキンに冷えていた。
「向こうで『翫くんに尽くしたい』と言って聞かなくてな。『できないのなら私は私を破壊します』って言い出したから、仕方なくOKを出したんだ。開発費だけで521が一編成できるかどうかってところだから、壊されちゃあ困るんだよ」
一編成ということは......五億円!?
「だから翫くん。ミズハのことは任せた」
動揺する僕に向かって、金石区長頭を下げてきた。そう簡単に頭は下げてはいけないと思うけど...。
ここで『はい』と言えば、僕は仕事中でも普段の生活でもミズハのことを気遣わないといけなくなる。
...でもそれでいいじゃないか。あの家は広いし、スペースもある。
「...はい、分かりました。ミズハの面倒は僕が見ます」
「そう言ってくれると思ってたよ!」
これまた大変なものを背負ってしまったなぁ...。
「合わせて700 kmくらい走ったかな」
521を車庫まで運んだ僕は、静かに佇む521の前に立った。
「翫さんもお疲れ様でした!」
「お疲れ様です」
「...二人も頑張ったよね」
ミズハは521を制御していたし、加賀谷は入線時にホームを注意深く見ていた。
「あ、また『役に立ってない』って思いましたね?」
「バ、バレた?」
「ダメですよ、そんなこと考えちゃ。もっと自信を持ってください!」
自信を、持つ。
そうか、僕にはそれが足りてなかったんだ。
「......こんな状態じゃ、豊沢さんに顔も見せられないよな…よし」
僕は両手で頰を叩いた。
「次もよろしく。ミズハ、加賀谷」
金石区長に『今日はもう帰っていいぞ』と言われた。まだ午後一時を回ったばかりだ。
「じゃあ翫さん、お先に失礼します!」
「は〜い、気をつけてね」
加賀谷はさっさと私服に着替えて帰っていった。
「さて、マスター。私たちも帰りましょうか」
「ミズハに家を案内しないといけないしなぁ...。これくらい時間があった方が説明できるはず」
私服に着替えながら僕はそう言った。ミズハは制服のままだった。
僕らは駐車場に停めてあったカローラスポーツ(僕のマイカー)に乗り込んだ。
マイカーの車名とナンバーは覚えておきましょう。ショッピングモールなどで呼び出される場合に便利です。




