22話 『ノア』という友達
僕には『ノア』という友達がいた。
物心がついたときに初めてできた友達で、家族みたいな存在だった。一緒に三重県や能登島まで行ったりした。
「水族館に行くと、急に魚が食べたくなるよね」
ジンベエザメを見たノアが言った。
「いや、ジンベエザメは食べられないでしょ。せめてマスとかはまちを見て...」
「でも、フカヒレってサメでしょ?」
「...あれ、食べられる?」
小学生の頃は、よく運動場の山の上で、二人で音マネをしていた。
「何、その音?」
「『3ZR』だよ」
「さん、ぜっと...?」
まるで車のエンジンのような音が、ノアの十八番だった。
本当に上手で、先生たちを騙したときは驚いた。
じゃあ逆に、僕は何の音マネをしていたかというと。
「...空気が抜ける音?」
「そう。電車がブレーキを解放して、発車する時に鳴らす音」
圧縮空気を外へ逃がす音が、僕の十八番だ。これは今もできる...はず。
出会ってから九年が経った頃、ノアは声を出しづらくなった。病名を告げられたが、当時の僕は理解できていなかった。
「実はさ、四ヶ月後に手術があるんだ」
ノアが声を出せなくなってから、スマホの読み上げアプリを使って会話をするのが当たり前になった。
「いなくなるの?」
「......石川からはいなくなるけど、この世からはいなくならないよ」
まるで僕を落ち着かせるように言ってくれた。
それでも、毎夜不安だった。
九月二十三日、金沢駅の新幹線ホームにて。お別れの日がやってきてしまった。
昨日の夜なんて、ベッドの中で『明日なんか来ないでほしい』と思っていた。叶わない願いだと知っていても。
「かなで」
涙を堪える僕に、ノアが掠れた声で語りかけてきた。
「いつまでも僕ら一つだから」
こう言われたら、僕が返す言葉は一つしかない。
「大人になっても、今日の日をいつか思い出して」
新幹線のドアが閉まり、ノアを乗せた新幹線(W7系)は東京方面へ向かっていった。
それ以来、僕はノアに出会っていない。一回だけそれらしい人を見かけたが、ただ身長と髪型が似ているだけで赤の他人だった。
ノアは、今もこの青空が見えているのかな。せめてどこで何をしているのかくらい、手紙で教えてほしい。手紙なのは、あの時の僕はスマホを持っていなくて、連絡先を交換できなかったからだ。
また二人で『キミノヨゾラ哨戒班』を聴きたい。




