18話 見覚えのない681系
目を覚ますと、僕は電車のシートに座っていた。車内の明るさとシート形状から、683系...いや681系だ。しかも中間車。
周囲を見渡すと、全ての座席が埋まっていた。眠っていたのは僕だけらしい。
「夢...なのかな」
その時、連結部のドアが勢いよく開かれた。
「お前らよく聞け。この電車は我々が乗っ取った」
ガタイのいい男が抑揚なく告げた。
「いやいや、冗談でしょ?」
乗客の一人がシートから立ち上がった。
ダァンッ!
「大人しくしてろ」
男がライフルで照明を撃ち抜き、破片がパラパラと床に散乱した。
「は、はいぃっ!」
乗客は尻尾を巻いてシートへ逃げていった。
「お前らへの要求はない。外部の腐った人間どもに要求するからな。そいつらの返答次第では、お前ら全員死ぬことになる」
男の言葉で、車内全体がどよめいた。
「だから、大人しくしてろ」
さて、どうしたものか。僕は流れていく風景を眺めていた。
ここが夢ならば死ぬことはない。でも、仮に現実だとしたら……下手に動けないなあ。
あの男は今も車両の端から端まで行ったり来たりしている。この車両の監視を任されているんだろう。
「あの、すいません」
「何だ?」
一人の少女が手を挙げた。
「お手洗いに行ってもいいですか?」
「……変な真似はするなよ」
少女と男は車両後部に向かっていった。……あれ?そっちにお手洗いなんてなかったはずだけど。
ドアが閉まった瞬間、ゴンと鈍い音がした。他の乗客は振動音で聞こえていないらしい。
「さて、ここは安全になったよ」
「…?」
少女が出ていったドアから声がした。どこかで聞いたような…。
「また会ったね、不思議な運転士さん?」
「……あっ!」
僕は車両所での出来事を思い出した。
黒いシルクハット、白いフリルが幾重にも重なったブラウス、左目を覆う仮面、背後の黒いマント…。
「懐中時計の持ち主…!」
「覚えていてくれて嬉しいよ」
あの時の”PUPA”さんだった。
「とりあえず、カーテンで両手両足を縛っておいたよ」
681系の連結部分にて。そこでは、ライフルを持っていた男が気絶していた。
「ライフルは…」
「粉々にしておいた」
ゴミ箱には黒い粉末が入っていた。言葉通り『粉』だ。
「実は今、厄介なことになっていてね…」
PUPAさんによれば、他の車両にも一人ずつ配置されているのだとか。
この681系は六両編成だから、あと五人はいるはず。
「そこで、君に手伝ってほしいんだ」
「ぼ、僕ですか!?」
「頼れるのが君しかいないんだよ」
「護身術も習ってないし、特別な力なんてないですよ!」
「なら、これを使うといい」
PUPAさんから小さな箱を手渡された。中にはトランプの束が入っていた。
「それは特注でね。弾丸も弾けるんだ。君なら、私よりも上手く扱えるかもしれない。それに、こうすると...」
PUPAさんは箱を思い切り振った。すると、中からたくさんのトランプが飛び出て大きな壁になった。
す、すごぉ。
ちなみに、弾丸を弾くには反射神経が大事だけど……そこには自信がある。だって運転士だから。
どこから湧いてくるんだこの自信は。
「私は1号車側に向かうから、君は6号車側をお願い」
「……やればいいんでしょう」
正直、乗り気ではない。でも、乗客の命を預かっているのが運転士だ。
「覚悟を決めたようだね。さあ、始めようか」
僕が乗っていたのは4号車。ということはあと二人だ。
PUPAさんは三人分だけど大丈夫かな…。
「こんちわ~」
5号車のドアを開けると、目の前に覆面の男が立っていた。
「だ、誰だお前は!?」
「先手必勝!」
トランプを構えながら、思い切って脛を蹴った。
「がっ…」
「クリーンヒットォ!」
男がうずくまったところで、今度は男の急所を狙って蹴った。
声にならない声を上げて男は気絶した。
「両手…両足…。ちょっと通りますね~」
カーテンで縛り、乗客の視線を浴びながら6号車へ向かった。
夢だからなのか、体が軽いし、思ったように動ける。現実ならこんなことはできないよ。
…トランプ、使わなかったなぁ。




