17話 高級すし店
「お、あったあった!」
秋葉原の家電量販店にて。僕はお目当ての521を見つけた。
「ちゃんと北陸本線のカラーリングだ!」
「男ってこういうのに弱いよね...」
「マスターも例外ではないですね」
あの、聞こえてるけど?
...確かに僕はこういうものに弱い。それは認める。でもそれは仕方のないことだ。
「...これって」
隣に置かれていた車両が目に入った。白い車体に青色のライン...。
683系『サンダーバード』だった。
ほ、欲しい。家にある681系『しらさぎ』と並べたい。
「あ〜、これ買おうか迷ってるね」
「分かるのですか?」
「表情からなんとなくね」
値段は...一万円とちょっと。加賀谷が今日消費した金額よりも安いし、これくらいなら大丈夫。
521とサンダーバードを抱えてレジへ向かった。お値段約二万円なり。
さて、僕は山手線で約束したことを忘れていない。
「何食べたい?」
家電量販店を出て、加賀谷に尋ねた。
「高級な飲食店でもいいんですか!?」
「………」
「あっれれ~?奢るって言ったのはどこの誰でしたっけ~?」
「…分かったよ。高級なところもアリ」
これで数万円が飛んでいくことが確定した。
「なら、ここに行きたいです!」
加賀谷はスマホの画面を見せてきた。そこにはすぐ近くにある寿司屋が表示されていた。
値段は一万円~一万四千円。しっかり高級なところを選んできた。
「…空いてなかったら別のところにしよう」
「大丈夫です!こういう時、だいたい私は運がいいですから!」
そういえば、とふと思い出す。加賀谷は幾度となくくじ引きのラストワン賞を引き当てている。
「ところでさ、ミズハはどうするの?」
「私はずっとマスターの側にいたいのですが、先にホテルに戻っています。お店に迷惑になると思うので」
「そっか。気をつけて戻ってね」
ミズハは一人で駅の方へ向かっていった。
「これで二人っきりですね…!」
「イクゾー(棒読み)」
食べ終わった後に、変なところへ連れていかれなければいいけど。
店に着いて空き状況を確認すると、カウンター席が二つだけ空いていた。加賀谷が強運すぎて怖くなってくる。
「僕は赤身、あじ、太刀魚の炙りで。飲み物はウーロン茶でお願いします」
「私はいわし、真鯛、赤いか、かんぱち、赤海老ください!あと『立山』もお願いします!」
「の、呑むの?」
「当たり前ですよ!翫さんの奢りなんで!」
僕はあまり加賀谷に酒を呑んでほしくなかった。というのも…。
「先にウーロン茶と、『立山』です」
店員さんが二つのグラスを運んできた。
「おほ~!待ってました!それじゃあ…乾杯!」
「か、乾杯」
加賀谷はグラスに注がれた日本酒を一口呑んだ。
「かぁ~!やっぱ辛口だぁ!」
一口吞んだだけで、頬が赤くなる。一杯分呑み終わる頃にはもうベロンベロンだ。語尾もだらしなくなってしまう。
「翫さぁん。ミズハのことぉ、ジロジロ見てましたよねぇ?」
「見てないけど」
「うっそだぁ!服を買ったときぃ、釘付けでしたよねぇ?」
「そんなに釘付けじゃなかったと思うけど…」
「私という美人がいるのにぃ」
自分で『美人』って言ってるよこの人。
「今、失礼なこと考えませんでした?」
「考えてない考えてない」
そうだった。加賀谷は酒を呑むと勘が鋭くなるんだった。余計な事は考えないようにしよう。
「お待たせしました」
注文した料理が運ばれてきた。
「おお!ではさっそくぅ。いただきまぁす!」
「いただきます」
「四捨五入で二万円……」
レシートの数字を見て僕は驚愕した。この金額になったのは主に加賀谷が多く食べたからだ。
「なんかすいませんねぇ。こんなに良くしてもらっちゃってぇ…」
「今更言われてもなあ…」
加賀谷には『遠慮』というものを覚えてもらいたい。
「翫さん」
加賀谷が小さな声で呟いた。
「私、まだホテルに帰りたくないです………」
あ、これはあれだな。誘惑しようとしてるな。
「さっさと戻って寝よ」
「………チッ」
本当に、油断する隙すら与えてくれないんだから。
「やぁだぁ!背負ってくださぁい!」
「裁判所に訴えない?」
「訴えません!」
「……信用できない。自分の足で歩いてよ」
「じゃあ手をつなぐくらいならいいですよねぇ!?」
「え~……うおっ」
有無を言わせずに、加賀谷が僕の腕にしがみついてきた。
「ホテルまでぜえったい離しませんから!」
加賀谷の宣言通り、電車の中でも腕を離してもらえなかった。
これだから、あまり酒を呑ませたくなかったんだよ…。




