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10話 終点・東京駅

「本日もご利用下さいまして、誠にありがとうございました。次は終点、東京です」

 大宮駅を発車して十五分、いよいよ終点の東京駅が見えてきた。

 今の建物は復元されたものだが、1914年にこんなものが建っていたのだから、当時の人々は驚いただろう。

『下降を開始します』

 入線する500mほど前で521は高度を下げ始めた。

「これで、終わりかぁ...」

 せめて、トラブルなく運行させたかったな。だってもう午後一時だもん。


 八番線へ入線すると、金沢駅のときよりも倍の人数がホームに立っていた。

 さらに驚いたのは、反対側のホームまで人で埋まっていたことだ。

石川こっちじゃ普通の電車だよ?」

『人というのは、珍しいものを見たくなるからじゃないですか?』

「そうなのかな...?」

 山手線とかに比べたら、短くて人をあまり運べないものだよ?


「運転手さん、どうでしたか!空を飛んでみて!」

「AIは人手不足を解消できると感じましたか?」

「せめて一言だけ!」

 521を停めると、ドア越しでも聞こえるくらいの声量で記者が質問を投げかけてきていた。

「ひ、一人ずつでお願いします」

 僕は記者たちに呼びかけた。

「では私から。今回、AIが主に電車の操縦をしているとのことでしたが、ブレーキポイントや停車位置は完璧でしたか?」

 若い女性記者が前へ一歩出てきた。あ、この新聞社知ってる...。

「はい。寸分の狂いもありませんでした。もしかしたら僕よりも精度が高いかもしれません」

「では、これからAIが運転を担う未来が来ると?」

 今度は同い年くらいの男性記者が出てきた。

「...僕には分かりません。『未来』は僕たちが創り出すものなんで」

 自分でもびっくりだ。こんなにカッコつけたセリフを笑わずに言えるなんて。

「翫さん」

 車内から加賀谷に呼ばれた。

「じゃあこれで失礼します。呼ばれてるんで」

 記者たちはまだ質問したそうだったが、僕は切り上げて中へ入っていった。


「まずは、五時間の運転、お疲れ様でした!」

 オフの状態の加賀谷にそう言われた。いや、でも...。

「僕、ほとんど手は添えてただけなんだけど。運転してたのはミズハだよ」

 お礼を言うのは僕に向かってではなく、ミズハに向かってだ。

「そ、そうでした!ミズハ、お疲れ様でした!」

『いえいえ、運転は楽しかったです』

 ミズハはそう返答した。

「やっぱりミズハも、運転が楽しいと感じた?」

『ええ、とても』

「じゃあ僕と同じだね」

 この仕事を選んで正解だった。こんな貴重な体験ができたから。それは加賀谷も同じだと思う。

「それじゃ、大井町の車両所まで運びますか!」

 最後の仕事は、車両基地まで521を動かすことだ。ミズハじゃこの仕事は出来ないらしい。

『異常があればすぐにお知らせします』

「頼んだよ、[相棒]」

「ちょっと!相棒は私じゃないんですか!」

「はは、ここには相棒が二人いる〜」

「シカトですかぁ!?」

 やっぱり『今』が一番だ。


「ふぅ……」

 521を車両所まで運び、整備員たちに預けた後、僕はすぐ近くのホテルへ入った。金石区長が先に予約しておいてくれた。

 どうやら反重力装置の点検に二日はかかるそうで、それが終わるまで僕や加賀谷は東京で過ごすことになった。何をしようか。

 目星をつけているのは、さいたま市の鉄道博物館だ。幼かったころに行ったことがあるらしいのだが、あんまり覚えていない。

ピンポーン……

 部屋の呼び鈴が鳴った。

「加賀谷かな…?こんな時間に」

 ドアの覗き穴から見てみると……濃い蒼色のロングヘア―の少女が立っていた。明らかに加賀谷じゃない。

「えっと、どちら様で?」

 チェーンはかけたまま、恐る恐るドアを開けた。

「忘れましたかマスター。私です。『ミズハ』です」

「………huh?」


『ミズハ』を名乗る少女を立たせたままにするのはいけないので、ひとまず部屋の中へ入れた。加賀谷にこの状況を見られたらまずいんじゃないか、と後々気付いた。

「それで、君は本当にミズハ?」

「はい、本当にミズハです」

「夢じゃなくて?」

「そこまで疑うのなら、私の頬に触れてみてください」

 そっと、少女の頬に触れた。

「……冷たい」

「アンドロイドですから」

 目の前の少女は少し微笑みながら言った。アンドロイドなら継ぎ目などがあるはずなのに、顔や指の関節にはそれがなかった。

「じ、じゃあ。今日あった落し物は?」

「うさぎのぬいぐるみです」

「大宮駅で見た新幹線は?」

「E956形、『ALFA-X』です」

 いくつか質問をして、僕はようやく目の前の現実を受け入れた。

「…分かった。君はミズハなんだね」

「ようやく信じてもらえましたか?」

 それにしても、なんでミズハがアンドロイドに?521に搭載されたAIだったはずだ。

「数名の高校生が作り上げました。プライバシー保護のため、名前は伏せておきます」

 最近の高校生、技術力高いって。

「……異常を感じます」

 急にミズハが立ち上がった。

 そしてそのまま僕の腕をつかみ、部屋を飛び出した。

「ど、どこ行くの!?」

「......」

 ミズハに連れていかれながら、僕たちは夜の街を走った。

 さっきよりも、目つきが険しいように感じた。


 僕が連れていかれたのはまさかの車両所だった。

「な、なんで?」

 ミズハを見失わないように後をついていくと、外に置かれた521があった。

「…やっぱり。誰かがここにいます」

 ミズハが言った。

「マスターは右側面をよく見てください。私は左側面を見ます」

「わ、分かった」

 質問できそうになかったので、僕は指示に従った。怒らせたら金石区長より怖いんじゃないかな。

 慎重に確認しながら歩いていくと、電気変換装置に何かが引っかかっていた。手に取ってみると、それは金メッキが施された懐中時計だった。

「誰の落し物だろう…?」

「ああ、こんなところにあったのか」

 後ろから声がした。ミズハの声ではない。

「あなたは?」

「そんなに警戒しないで。ただ落し物を拾いに来ただけだから」

 振り返ると、黒いシルクハットをかぶり、白いフリルが幾重にも重なったブラウスを着た若い少女が立っていた。もしかしたら僕より若いかもしれない。

 左目を覆うような仮面、背後でたなびいている黒のマント、なんというか…。

「かっこいい…」

 思わず呟いた。

「ああ、まだ名乗っていなかったね。私は”PUPA”。君は?」

「ぼ、僕は翫です。521…これの運転士をしてます」

 ”PUPA”と名乗った少女の口調はとても大人びていた。見た目とは正反対だ。

「それで、その懐中時計を返してくれないかい?私のものなんだよ」

「そうなんですね。失礼しました…」

 僕はPUPAに懐中時計を返そうとした。そのときだった。

ビュンッ!

「うわっ!?」

「おっと」

 何かが横切った。

「大丈夫ですか、マスター!?」

 正体はミズハだった。

「あなた、マスターに何しようとしてたんですか!?」

「何って、落し物を渡してもらうところだったんだけど?」

「そうだってミズハ!変なことはされてないから!」

 ミズハは僕とPUPAを交互に見ると、ようやく警戒を解いてくれた。

「…そのようですね。私、勘違いしてました。それはそうと、不法侵入ではないですか?」

「許可はちゃんともらってるさ。目的は果たせたからこれで失礼するよ。良い夜を、不思議な運転士とアンドロイドガールさん」

 僕が瞬きをする間に、PUPAは姿を消していた。本当に少ししか話さなかった。

「……結局、彼女は何者?」

「私にもよく分かりません」

 ホテルに戻ったら、検索でもかけてみようかな。


 ホテルに戻って、PUPAの言葉を反芻していた。その時に気づいてしまった。

「ミズハの正体を見抜いていた?」

 中々侮れない存在だと感じた。

 というか、『不思議な運転士』って誰のことを指してるんだろう?

"PUPA"はそのうち出てきます。

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