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8話 長野駅→大宮駅

 主に回想です。

『友人とは...何ですか?』

 長野駅を発車して三十分、不意にミズハが尋ねてきた。

「どうしたの急に。そういうことってミズハのほうが分かってるんじゃ?」

『私は本当の友人を持ったことがないので。もしかしてぼっちなのですか?』

「違うよ!?高校にも友人はいたよ!」

 し、失礼な言葉まで覚えちゃってるよ。

「なら少し、話をしようか」

 僕は高校生の頃の出来事を思い出した。


 印象的な友人といえば、高校二年生の頃にいた。演技が上手なクラスメイトの少女だ。名前は確か...『豊沢とよさわ』さんだったかな?

 豊沢さんは演技が上手いだけでなく、容姿にも恵まれていた。そのせい(?)で、一目惚れする男子のクラスメイトが多発した。一応言っておくが、そのときの僕は521に熱中していた。

 もちろん、彼女持ちの男子も一目惚れしてしまうわけで、他の女子たちからは嫉妬されたり、恨まれたりしていた。それでも、恐れているような様子は見せなかった。

 僕があそこで気付くまでは。


 僕は高校の屋上に向かうことがあった。主にアナウンスの練習をするためだ。

『今日は遅れた場合のアナウンスを...あれ?』

 屋上に出るためのドアが閉まっていなかった。

『誰かいるのかな?』

 隙間から覗き込んでみると、誰かが転落防止用の柵に登ろうとしていた。

『ち、ちょちょちょ!』

 僕は慌てて止めに入った。制服の裾を引っ張って柵から離した。

『なんで...止めるの?』

 柵に登ろうとしていたのは豊沢さんだった。


『ぎゃ、逆にさ。なんで柵なんか登ってるの?』

 なるべく刺激しないようにしながら尋ねた。少しでも間違えれば、また豊沢さんは飛び降りようとするだろう。

『...私なんかがいるから、周りのクラスメイトが嫌な気持ちになってる』

 豊沢さんはポツポツと語ってくれた。

 飛び降りようとしたきっかけが、とある言葉を言われたことだ。

『なんで私の彼氏を奪うの!?そんなことして楽しいの!?』

 クラスメイトの一人にそう言われたそうだ。もちろん豊沢さんが奪ったわけではなく、その彼氏が勝手に一目惚れしただけだ。

 それだけならまだよかったのだが…。別の日に、そのクラスメイトからまた言われたそうだ。

『まだ夢なんか持ってんの?こんな世の中じゃ、そんなのただの[綺麗事]よ』

 その瞬間、豊沢さんの感情制限は大破した。


『夢があるから、私は生きていけた。でも…』

 声は震えていて、今にも泣きだしそうだった。

『その言葉、僕にも刺さるよ…』

『あ…ごめん…』

『謝らなくていいよ。僕は本気で夢を叶えるから』

 夢を持って何が悪い。綺麗事を言って何が悪い。

『ねえ、豊沢さんの夢への熱意を僕に語ってよ』

 僕は豊沢さんの前に立った。

『熱意…私は、……になりたい』

『…ご、ごめん。風が強くて…』

 こんなタイミングで風が吹くなんて…。

『私はっ、女優になりたいっ!』

『っ!』

 豊沢さんはまるで吹っ切れたように叫んだ。今までにこんな大声を出す場面を見なかったので思わず驚いてしまった。

 でも、夢への熱意は本物だった。

『…ど、どうかな?』

 恥ずかしそうに僕のもとへ寄ってきた。

『女優、いいじゃん!』

『……!』

 少し前から演技が上手いことは知っていた。だから心の底から応援した。

『…ありがとう。自信が湧いてきたよ』

『それならよかった』

 悩みって、こうもあっさりと解決できるんだな、と僕は思った。


『そういえば翫さんって…』

 遠くを走っている貨物列車を見ながら、豊沢さんは話しかけてきた。

『私に一目惚れしてないよね?』

 真剣な表情の豊沢さんに、思わず吹いてしまった。

『な、なんで笑うの!?』

『いやあ、ちょっと予想外で…』

 笑いを抑え、僕は答えた。

『僕が愛しているのは521だから…今は』

 結婚できなくたっていい。521がこの世界にいるのなら、それだけで幸せだ。

『へえ…ずっと、二次元のキャラクターを愛しているんだと思ってた』

『二次元よりも三次元の方がよっぽどいいよ』

『みんなに言ったらどうなるかな?』

『それだけは勘弁してください!』

 絶対に変な目で見られてしまう。


 この日、僕は豊沢さんにとある約束をした。

『一緒に明日へ向かっていこう』


 今、豊沢さんは何をしているんだろう…?仕事中はネットの情報に触れられない。仕事が終わっても家事やらやりたいことやらで情報が得られない。

『私の中での[友人]とは全く違いました…』

「あくまでも一例だから。加賀谷とかならもっと別の返答をすると思う」

 そういえば僕、なんであんなに恥ずかしい約束をしたんだ?

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