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0話 普通じゃない「520」と「521」

 初めまして、『くさのくら』です。

 勉強で小説を描く時間が少ないので、投稿頻度はバラバラです。「こんな人がいたなあ…」程度で思ってもらえれば、それで十分です。

 僕、『いとう かなで』は小学生の頃から夢だった鉄道の運転手になった。

 一年目は先輩運転手に教えてもらいながら。

 二年目は短距離だったけど、自力で担当区間を運転した。

 そうやって慣れていくと、二年目の終わりには『一人前』と先輩運転士に言われるほどまで成長できた。

 そして今日から三年目が普通に始まる...はずだった。


「ふぅ、お疲れさん」

 金沢駅のホームにて。僕は車両から降りて、走り終えた七尾線の520の車体を撫でた。

「お〜い、翫。ちょっといいか?」

 そんなとき、階段から区長の『金石かないわ 真二郎しんじろう』に呼び止められた。

「区長、どうかしましたか?」

「実は君にお願いがあってね」

 区長からの話を聞いていくと、とんでもない内容だった。

「ええっ!?東京ですか!?しかも金沢発で!?」

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。停車駅は五つ。順に富山駅、長岡駅、長野駅、大宮駅、そして終点の東京駅」

「その五駅、線路って繋がってましたっけ...?」

「飛んで行くから関係ない!一週間後はお披露目会と初運行だからよろしく!」

 そう言って金石区長は大声で笑った。

 一か月以上前からこのことは決まっていたらしい。だったらその時に教えてくれても…と僕が言うと、

「ちょっとしたサプライズだよ」

 と、サラッと言われた。こっちは笑えないんですけどね。というか『飛ぶ』ってどういうこと?


 朝の六時、僕は車庫に来ていた。隣には金石区長もいる。

「君に運転してもらう車両はこれだ」

 金石区長が触れた車両は昨日運転していたものと一緒...ではなかった。

 いや、見た目は「521」と「520」だ。

 銀色の車体をメインに、濃い青色のライン。北陸本線の頃を思い出させるデザインだ。ドアやフロントガラスには汚れがなく、新しさを感じた。

 しかし、製造番号は「98」で、見たことがない番号だった。そんな車両、うちにあったっけ?

 ...いや、ただ見たことがないだけで本当はあったんだろう。

 次に、パンタグラフがなかった。

「か、金石区長。これ何で動くんですか?」

「ん?普通にモーターだぞ?」

「で、でも、パンタグラフないじゃないですか!」

「そこはな、水素で動くんだよ。燃料電池自動車の電車版みたいな感じだな」

 どうやら裏でこっそり製造...というより改造していたらしい。一編成の製造費用は五億円なのに、よく許可が出たものだ。

「今日が初お披露目ということは各メディアに通達してある。金沢駅にはすでにメディアが来ているぞ」

「め、めっちゃ大役じゃないですか!そんなのを三年目の僕に任せちゃっていいんですか!?」

「大丈夫大丈夫。コメントとかはしなくていいから」

 続いて車内へ。ここは何も変わらなかった。シートもトイレも普通にあった。

 前方の運転台へ行くと、メーターが一つ増えていた。

「これは...?」

「ああ、それは水素の量を表しているぞ。重要なメーターだからよく見ておけよ」

 もしもゼロになったら...いや、考えないでおこう。

 金石区長から説明を受けながら、右手をマスコンに置くと違和感を感じた。

「マスコン、なんか小さくないですか?」

 いつも運転している521のマスコンよりも一回り小さいのだ。

「そのマスコンはな、言ってみれば非常用だ。運転の基本は521に搭載されたAIがするんだ」

「AIを搭載してるんですか...。人手不足解消のための実験でもするんですか?」

「ん〜、間違いではないな。そもそもこの車両は実験用みたいな物だ」

 その後も、金石区長から説明を受け続けた。

 今まで教えられたこと+追加で教えられたことをまとめると...


・水素を燃料とする

・今日が初お披露目

・終点は東京駅

・この車両は実験も兼ねている

・操作は加減速以外は行う

・県境を越えても、だいたいは金石区長が担当する

・線路は決まっていない


 ざっくり言えばこんな感じだった。とんでもない大役を任されてしまったな...。

 そういえば、『線路が決まっていない』とはどういうことなんだ?


「大丈夫、普段の業務とほぼ変わらない...」

 運転台のシートに座って、自己暗示をかけていた。

 すると、金石区長が真剣な声色で話しかけてきた。

「それじゃあ最後に二つ。結構重要だぞ。一つ目は『水素の補充』。各駅で充填するから、満タンになるまでは動かさないこと。次に二つ目。HUDヘッドアップディスプレイの指示通りに動くこと。それにいろいろ文字が浮かび上がるから見逃さないように。オーケー?」

「オ、オーケーです」

「よっしゃ、じゃああとは車掌の...」

「すみません、遅れました〜!」

 入り口の方から女性の声がした。

「いやいや遅れてないよ加賀谷かがたにくん。むしろ少し早いくらいだよ」

 金石区長は彼女の名前を呼んだ。

 彼女は僕と同じタイミング(つまり同い年だ)で車掌になった『加賀谷 あかね』。オンとオフがしっかりしている女性だ。

 オフのときは今のように活発な女性なのだが、オンのときはクールな性格になる。目の前のことに集中して、的確に合図を出すエリート車掌だ。

 彼女はショートカットの茶髪を揺らしながら駆け寄ってきた。

「お〜、これが新しい車両ですか〜!」

「そう!運転士は翫だ。仲良くやってくれよ?」

「もちろんです!よろしくお願いしますね、翫さん!」

「よ、よろしく」

 僕、いつもこの勢いについていけないんだよな...。


 金石区長から鍵を受け取り、鍵穴に差し込んだ。

 警告灯は点かず、520は[異常なし]を示していた。

『おはようございます。四月八日、水曜日です』

 目の前のHUDに文字が現れた。

『非常運転士、車掌の名前を入力してください』

「...非常運転士って僕のことですよね?」

 馴染みのない単語だったので、思わず金石区長に尋ねた。

「そうだな。東京に着いたら、その呼び方は改良しておくように連絡しておく」

「翫さん、名前書いちゃってください!」

 質問をしている間に、加賀谷はタッチペンで名前を入力していた。

「お、おう」

 名前に間違いがないことを確認して、[enter]を押した。

『ニックネームをつけてください』

「ニ、ニックネーム?...そっか、ただ単にAIと呼ぶのもあれだし」

「『クモハ』はどうでしょう?」

 加賀谷は分類から考えたらしいけど...。

「『クハ521』を先頭に走る時はどうなるんだ?」

「...確かに!ん〜..........」

 だいぶ考え込んでるなぁ。金沢駅に間に合わなくなるかもしれないし、ささっと思いついたニックネームをつけることにしよう。

「今日から君は『ミズハ』だ」

 欄に『ミズハ』と打ち込み、また[enter]を押した。

 「水素」の「ミズ」と区分の「ハ」から抜き出して組み合わせた。

『ミズハ...承認。今日から私はミズハです。よろしくお願いします、翫さん、加賀谷さん。さぁ、お客さまが待っています。想いを乗せて走りましょう』

「このAI...ミズハ、こんなこと言うんだ...」

 最近のAIは凄いなぁ。キザな台詞まで言えるなんて。

 加賀谷は521の方へ移り、駅へ向かう準備が出来た。金石区長は僕の右側に立っている。

『五秒後に発車します』

 モーター車の521に押される形で、ゆっくりと車庫から動き出した。

 銀色のステンレスの車体が、太陽の光を誇らしげに反射していた。

翫 かなで : 23歳の男性運転士(三年目)。小学生の頃から「運転士になりたい」という夢を持っていた。

521のことはウィキを使って勉強している。


加賀谷 茜 : 23歳の女性車掌(三年目)。翫よりも飲み込みが早く、「期待の新人車掌」とまで言われている。

本当は運転士になりたかったが、大変そうだったので車掌になった。

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