第7話 風となる誓い
ケルマトの西門が開いた。外で待っていた使者アミナドは、その光景に息を呑む。二万の白骨の列。めいめいに剣を佩き、槍を携えていた。
「先導せよ、使者」ハダルが言う。「ケルマトは誓いにより、立つ」
満月の下、列は道を進み、王都へと駆けた。鎧は軋まず、足は疲れず、声は切れない。
トゥルメシュ王国軍四万を見定めると、ハダルは矢のような集団の先頭に立ち、「突入」とただ一言指示を下した。
列は敵中に楔のように入り、焚き火の輪を蹴り散らし、倒れた天幕を踏み越えて進む。砂塵が立ち、夜営の旗が折れ、火花が闇に散る。
眠りについていた者たちが慌てて武器を取るが、トゥルメシュの各陣は互いの動きを見失い、白の奔流の中に沈んでいった。
バラグンの城壁の上で、角笛が応えた。篝火が無数に炊かれ、あたりを昼のように照らした。次の瞬間、バラグン軍が門から躍り出て、トゥルメシュ軍に突っ込む。
ケルマトの者どもは、西へ退いていく闇に急き立てられるように槍を薙ぎ、剣を振るった。
やがて、東の濃紺がうすれ、地平が白むとき――幾重もの勝鬨が風を渡った。
アミナドを伴って現れたラハム王は、白い軍列に深々と礼をした。「汝らに恩寵あれ。カルミシャの誓い、確かに果たされた」
その言葉が落ちると同時に、はじめの一人が、音もなく崩れた。続いて、次の一人。朝日の縁が山の背を越え、光が彼らを撫でるたび、骨は砂へ、砂は風へ――。
ハダルは、印章をアミナドに投げた。「都市に返してくれ。名に、恥じはない」
光が彼を包み、輪郭がその中に溶けた。
◇◇◇
一夜明けた朝、多くの声が途絶えたケルマトで、残された人々は再び血と肉の温もりを取り戻していた。彼らは神殿に集い、石段を磨き、供物を捧げ、神に祈った。
この街は再び立ち上がる。風に誓いを遺した者たちの名を抱いて。




