第5話 片足のゼルハン
神殿のある広場に立つ戦勝碑には、カルミシャの誓いも刻まれており、「誓いは総導の名が替わろうとも続く」と締められていた。
跪いた骸骨どもは、その碑を見上げていた。バラグン王国の友誼、ケルマトの誇り――。
膝から下の骨を欠いた骸骨が、群衆の中から立ち上がった。囁きが走る。「ゼルハンだ」「片足のゼルハン」
ゼルハンは短く吠えた。「我はバラグンに行く」
笑いが漏れた。「片足で援軍だと?」
ゼルハンは顎を上げる。「見ろ。骨だ。隙間だらけだが、動く。眼は空洞だが、見える。舌はないが、声が飛ぶ。右の膝から下はないが、立てる。走れる。疲れぬ」
その声に、誰も言葉を返せなかった。
「これは我にとって守護神ナーミルの呪いではない。恩寵だ。なら、使う。バラグンまで走る。剣を振るう。文字通りこの身が砕けるまで」
沈黙の中、まずひとりが身を起こした。病床で年月を過ごした者、片目の職人、背を曲げた老婆、咳を抱えた書記、片腕の荷運び――次々と声が重なる。「自分も」「私も」
「どうせ厄介者だ。なら、この身を捧げる。都市の名誉のために」
集ったのは三百。骨の列が灯に赤く染まり、影だけが地に長く伸びた。
総導ハダルは彼らを見渡した。
「待て、ゼルハン。たかが三百で赴いても犬死ぞ」
街を守るために何をなすべきか。赦しを請うことと誓い、どちらを選ぶべきか。
答はないのに言葉が口から零れた。総導として無謀は止めねばならなかった。
三百の援軍でバラグン王国は守れまい。最低、一万は必要であろう。そして自分たちは陽を浴びれば砂となる――それでも、誓いは守れるのか。
地に伏した骸骨たちは膝を寄せ、指の骨を石に触れさせていた。擦れる微かな音が、やけに大きく響いた。祈りもなく、声もなく、沈黙が石畳に落ちる。
ゼルハンたちは続きの言葉を待ってハダルを見つめていた。
胸に下げたケルマト総導の印章の鎖が鳴る。答えを探して総導は立ち尽くしていた。




