第4話 カルミシャの誓い
――十年前、カルミシャの原。
砂塵が晴れると、ケルマトとバラグンの旗が風をはらみ翻っていた。トゥルメシュの旗は、折れたまま土に沈んでいた。
地を覆っていたのは、旗だけではなかった。無数の遺体が折り重なっていた。その多くはトゥルメシュ軍のものであったが、ケルマトとバラグンのものも少なくなかった。
ケルマトの総導ネミルは下馬し、バラグン王国国王ラハムの馬の轡を取った。ネミルの髪が冑の隙から張り付いて覗いていた。「汝らに恩寵あれ。バラグンの信義、我ら忘れぬ」
ケルマト軍一万に対して、トゥルメシュ王国は三万。バラグン王国一万の支えがなければ、勝利は望めぬものだった。
若き王は頷いた。王の顔も汗と砂にまみれていた。
「汝らにも恩寵あれ。我らは隣人であり、ともに武器を掲げた友だ」
ネミルは声を張る。「我らは千を失い、汝らも千を失った。傷ついた者は、その倍にも及ぶ。ゆえに我は誓う。もしもバラグンが危地に陥れば、いかなる時であれ、直ちにケルマトは駆ける。わたしの総導としての任期が終わり、総導の名が移ろおうとも」
王より二十歳ほど年上の総導は、周囲の兵士に目を見やり、拳を掲げて続ける。
「この誓いを我らケルマトの民は石碑に刻もう。それを見た後の世の人々は、バラグンの誠実と勇敢を語り継ぐ。神もご照覧あれ!」
「神もご照覧あれ!」ケルマトの兵士たちが唱和する。
これが、後に“カルミシャの戦い”と呼ばれる戦の終幕であった。




