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第2話 恩寵の夜
ケルマトは豊かな街であった。
貴族は宴を重ね、神官は儀礼の段取りに忙しく、商人は量目を増やし、職人は注文書に追われ、農民は刈り取りの算盤をはじいた。人々の食卓は、年々、彩りを増していた。
一方で、誇り高きこの街では、働かない者に厳しい風が吹いていた。数年前、貧者への小麦配給は打ち切られ、物乞いは通りの隅へと追いやられていた。
十日あまり前の夜、ケルマトの家々の屋根に、同じ夢が降りた。街の守護神ナーミルの神託であった。
〈寝床に縫い付けられた者を敬え。肢を失った者を扶けよ。とりわけ戦で負った傷を、都市は自らの傷として抱け〉
〈オリーブが実るわけを問え。葡萄が甘くなるわけを問え。売り買いが公正に行われるわけを問え〉
〈恩恵は、ケルマトに住まうすべてに等しく降る〉
神託は、十種の職に一人ずつ訪れた。初めは貴族、次に神官、次いで役人へと——十日をかけて夢は街を一巡した。
だが、皆、翌朝の忙しさに紛れ、夢の記憶を顧みなかった。
最後に夢を見たのは、商人の男だった。その昼、彼は店の前にたむろう物乞いを見つけ、それを追い払うよう店の若衆に伝えた。
夢は、誰の口にものぼらぬまま、陽の光に溶けて薄れていった。




