第1話 沈黙の門
夕暮れ、ケルマト西門の木扉に、乾いた打音が三度、響いた。砂塵に塗れた男が門扉に額をあて、声を絞る。
「バラグン王国の使者、アミナドだ。開門!開門!」
バラグン王国の王都は、トゥルメシュ王国軍四万に突如として包囲された。
アミナドはその包囲をくぐり抜け、五十キロの荒野を駆け切ってきた。汗はすでに塩となっていたが、声は力強かった。
「カルミシャの誓いにより、援軍を請う!バラグンは汝らの隣人、かつ誓約の友だ!」
しかし門楼の上から返ってきたのは沈黙であった。
ここでようやくアミナドは異変に気づく。常の刻なら、門は開け放たれ、旅人や隊商が列をなし、役人が人と荷を検めているはずだ。だが今この時、門は固く閉ざされ、見張りの影はどこにもない。旅人も商人も城外に野営している。
戸惑いを隠せずに、アミナドはさらに叫ぶ。「盟友は待たぬ。時は命を奪う。門を開けよ!」
◇◇◇
やがて、分厚い扉の内から声が返った。「話は承った。だが、門は開けられぬ」
「理由を問う!」アミナドは拳で扉を叩く。
「……都市の法により、今は開門できぬ」くぐもった声は、それきり沈んだ。足音も鎧の擦れも聞こえない。
アミナドは歯を噛む。街壁の高さは、人の背丈三人分を超える。
その高くそびえる壁と、にべもない回答に押しつぶされる思いで、野営している旅人や商人に何が起きているのか確認して回る。
人々は言った。門は昨日から閉ざされたままだと。




