表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カミサマリベンジ~1番の女王と13番の王  作者: リアルソロプレイヤー
第1章 波乱のワコク公国建国祭
4/6

第3話 『城内侵入』

 血の匂いを漂わせる白フードを追いかけて。

 ヒイロはある場所を訪れていた。


「我ながら犯罪者っぽいよな」


 ぐるりと建物を囲む白く高い壁。

 その周囲を警戒する人間たちの目を盗み、ヒイロは敷地内に侵入した。

 塀を飛び越えたり、塀の下にトンネルを掘ったりせず。

 壁をすり抜けるという離れ技――彼にとっての常套手段を使って。


 ――ワコク公国王城『ヤマト』。

 ――何百年ぶりだ?


 敷地内に入った彼は聳え立つ、ニホーン建築の城を見上げる。

 黒光りした屋根に、高々と積み重ねられた建物。


 ――昔の面影があるのは、ここだけになっちまったな。


 王都の街並みがいくら変わろうと、城だけは何一つ変わらない。

 増築や改築を繰り返そうと、独特な城の形が王都のシンボルだった。


「お前が憧れた場所だ、シスコン剣士」


   ***


 今日は建国記念日。

 街で行われる建国祭のため、城の中も慌ただしい空気に溢れていた。

 文字通りバタバタという足音が、城のあちこちから響いている。


 ――あの白フード、なんで城なんかに来たんだ?


 ヒイロが白フードの行先を把握できたのは、花屋での行動を聞いたからだ。

 白フードは花屋の一人娘であり、ヒイロの顔見知りであるセラに聞いたらしい。

 城までの行先を。それで少しだけ嫌な予感がしたヒイロは、追跡することにした。


 ――俺の勘はよく当たるからな。

 ――悪い方向に、っていうのが気に入らないが。


 靴を脱いで城内を徘徊する。

 世界でも珍しい土足厳禁の城。

 それを律儀にヒイロも護っていた。


「それにしてもあの野郎、何だって城に?」


 ヒイロだからあっさりと侵入できたが、普通の人間には何のメリットもない。

 衛兵の目を掻い潜り、城の中に入れたところで利益などないからだ。

 金銀財宝があるわけでもなく、仮にあったとしても護りは厳重なはず。


「俺なら絶対に盗みにとか入らないぞ」


 隠れながら城の中を前進し、件の探し人を探す。

 もっと簡単なやり方もあるのだが、それを使うにはまだあまりにも人が多すぎる。

 ヒイロのやり方をする場合、少なくても今の半分ぐらいまで減らなければ。

 それぐらいまで人が減らなければ、使ったところで判別がほぼ不可能だった。


「……地道に足で探すしかないか」


 肩を落とし、ヒイロは城内を進んで行く。

 すると前の方から話し声が聞こえた。


 聞こえるのは二種類の声。

 声音からしてどちらも男。

 話しているのは、今日の城内の警備体制について。


 ――いくら城内とはいえ、それは気を許し過ぎだぜ。


 ヒイロは足を止めることなく、前へ足を進めて行く。

 もちろん、声は少しずつ近づいていた。

 それでもヒイロは足を止めない。


 それは声がはっきり聞こえるようになっても変わらず。


『――様からの命令だ。今日はあそこの警備を手薄にしろだとさ』

『いいのかね? いくら血の繋がりがないとはいえ、姫様の警備を手薄にして』

『でも別にいいんじゃね? 相手はあの欠陥姫だしな』

『違いねぇ!』


 衛兵の白を基調とした服を着た二人の男。

 彼らは会話をしながら、大笑いをしていた。

 ヒイロはその隣を通り過ぎていく。

 けれど男たちは二人とも、彼に気づかない。


 まるでヒイロの姿など見えていない。

 そういう感じだった。


「相変わらず、侵入にもピッタリの能力だな」


 まだ男たちが近くにいるというのに、ヒイロは肉声を上げる。

 それでも男たちは振り返ることも、違和感を抱くこともない。

 何も気づかず、ただ前へと歩いて行く。


 一方干渉いっぽうかんしょう。それが日常的に、ヒイロが使っている力の名前だ。

 文字通り、ヒイロの一方的な干渉しか許さない力。

 ヒイロが許した人間でなければ、触ることも彼を見ることもできない。

 先ほど城壁をすり抜けたのも、その応用の一つ。

 だから今、城内の人間にはヒイロが見えていないし、声も聞こえない。


 確かに彼はその場に存在しているのに、だ。


「なるほどな」


 ヒイロは足を止め、少しだけ考え込む。

 今聞いた男たちの会話内容。それが気になったからだ。

 わざわざ誰かの警備を手薄にして。そんな城中に曲者が侵入した可能性がある。


「調べてみる価値はあるか……」


 数回自身の足元を右足の爪先で弾く。

 すると、彼の足元から黒いものが現れる。

 それは人型を形作り、ヒイロと瓜二つの姿へ変わる。


「今の話、聞いてたな」


 ヒイロの問いに、黒ヒイロが首肯する。


「なら話は早い。いつもみたいに影を伝って、分身全員で情報を集めて来い」


 ヒイロの足元に跪いた黒ヒイロ。

 それに視線を落とすことなく、ヒイロは彼に指示を下す。

 その直後、黒ヒイロはまた床――城内にできた影の中へ入って行った。

 それを見送ってから。


「さてと。俺は俺で地道ルートを模索しますかね」


 ヒイロは軽く伸びをして、再び歩き出す。

 警備が意図的に手薄な場所を探して。


   ***


 その部屋からは歌声が聞こえていた。

 それも明確な歌声ではなく、鼻歌が。


 ――衛兵がサボって鼻歌……あり得なくない話だけど。


 あれから五分ぐらい経った頃。

 戻って来た分身に案内され、ヒイロが訪れたのは城の最上階……。

 よりも上にある屋根裏部屋だった。


 屋根裏へ行くための階段前に警備など居なく、上り切ろうとする今も居ない。

 ただ見えているのは、やや埃っぽい薄暗い空間。

 でも中から風が来ている辺り、別に密閉空間というわけではないらしい。


 ヒイロは声の主を確かめるため、いつものように隠れることなく姿を現す。

 ただし、今も一方干渉は発動したままで。


 ――いつもは衛兵が警護してる相手。

 ――なら、それなりの重役とかか?

 ――隠居ババアの可能性もある……。


 ヒイロの思考が止まった。

 階段を上り切り、鼻歌の主を見つけた直後の話だ。


 その少女は白いドレスを着ていた。

 まるで人形のように、椅子に座って外を眺めていた。

 長い黒髪は腰まで伸び、薄暗い屋根裏の中で艶やかさを放っていた。


「――っ」


 ヒイロは小さく息を漏らす。

 その姿に思わず見惚れていた。

 単純に少女が美しくも可愛かったからだ。


「――誰?」


 それは突然のこと。突如として少女が振り返った。

 整った顔立ちの中に、幼さを残していて。歳はまだ十代前半ぐらい。

 彼女の黒い瞳がヒイロのいる方を捉える。

 そして、


「あなたは誰ですか?」


 澄んだ綺麗な声が屋根裏部屋に響く。


 ヒイロは後ろを向き、他に誰かいるのかと確かめた。

 だけど、そこには誰もいない。いるのは明らかにヒイロと少女の二人だけ。

 でも一方干渉を使っている今のヒイロの姿が、少女に見えているはずがない。

 それでも少女は目を逸らすことなく、もう一度――


「あなたは誰ですか?」


 繰り返すように同じことを言った。

 それから椅子から立ち上がり、整った姿勢で歩き出す。

 それも一歩ずつ確実に、ヒイロの方へ向かって。


「もう一度聞きます。あなたは何者ですか?」


 少女の黒い瞳に、ヒイロの姿が写り込む。

 少女は確かに、本来なら見えないはずのヒイロを捉えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ