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カミサマリベンジ~1番の女王と13番の王  作者: リアルソロプレイヤー
第1章 波乱のワコク公国建国祭
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第1話 『予知夢』


 ――最悪な気分だ。


 暗い顔でテーブルにつきながら、彼の心はその言葉で埋め尽くされていた。

 今の彼にはキッチンから漂う、美味しそうな朝食の匂いすらも届かない。

 ただただ右手を額に当て、複雑そうな顔を浮かべるばかり。

 まるで昨夜飲み過ぎたことを後悔する、二日酔いの大人のように。

 今の彼の表情は、そう表現するしかない。

 例え、後悔とは少し違った物だとしても。


「……誰かさんの所為で最悪な目覚めだ」


 左手の人差し指でトントンと木製の丸テーブルを軽く突いて、少年は短く溜息を零す。

 かなり特徴的な少年だ。髪は前髪だけが黒く、残りは全部白。高くも低くもない身長。歳の割にはあまり筋肉質とは言えず。今もトレードマークの黒いローブを羽織っている。

 赤い瞳と髪色の白を合わせれば、誰もが最初に魔獣の『ラビット・ファング』を頭に浮かべそうだ。しかも彼の場合外見だけに留まらず、内面も少しだけ好戦的なその魔獣に似ている。


 そういう人間擬きは、何年も森の中に隠れ住んでいた。

 きっかけは人間が嫌いになったから。

 そして今は昔以上に人間が嫌いだった。


「――待たせたな、アニキ」


 目を瞑り、頭を悩ませていた少年。

 彼の思考を遮るように、無遠慮な声が小さな家に響く。

 その直後、キッチンから皿を手にした小さな影が現れる。


「久しぶりの愛妹の手料理ですわ」


 その影は二つ結びにした金の髪を揺らし。


「存分に味わうがいい」


 右目を可愛く閉じ、軽くウィンクする。


「今日も愛してるよ、お兄ちゃん」


 可愛らしい幼女の声が響いた。


   ***

 神界緋色は天界生まれ、神界出身の元主神である。


 彼は既に数百年を生き、その全てを振り返るにはあまりにも長い時間が必要となる。

 到底普通の人間が全てを聞き取れるはずもなく、今の彼の状況を説明するなら『百年以上も森の中で引きこもってる邪神』だ。

 さらに深く説明するなら、『いつまでも昔のことを引きずり、人間大好き神様から人間大嫌い神様に鞍替えした根暗野郎』といったところ。


 人間嫌いになった理由。それはただの積み重ねだ。

 一つの裏切りや理不尽なら、彼は人間を好きなままでいられた。現に初めて人間に絶望を味あわされた時、「他の人間なら」と思うことがまだ彼にはできた。

 でもそれ以降も小さな絶望が続き、気づけば人間嫌いの神様の完成。

 「人間を一人でも多く助けたい」という心情は消え、日がな一日魔法研究を続ける。

 それが邪神に落とされたかつての男神。


「……何度も言わせるな。勝手に人んちに来て、ベッドに潜り込むんじゃねぇ」


 フォークで突き刺したトマトを虚ろな瞳で睨み、不平不満を漏らしていく。


 丸テーブルに座るヒイロの向かい側には、同じように食事を摂る金髪ツインテ幼女。

 着ているのは、この島国に伝わる『巫女装束』という服。初めての来訪時にそれを気に入り、以来ずっと彼女の普段着だ。ヒイロのトレードマークが黒ローブなら、彼女のトレードマークはこの巫女装束だろう。それ以外に彼女を構成する外見要素は――


 ――金色の髪と金色の瞳。


 東の島国の服に袖を通した、有名な西の魔女。

 その特徴は、今ヒイロの眼前にいる義妹の特徴と酷似していた。


「そんなこと言って、ハク兄様も――」

「昔の名前で呼ぶな。これも何度も忠告したぞ」


 トマトを口へ運び、一口でそれを口に含んだ。

 ヒイロは不機嫌そうな顔で口をモグモグと動かす。

 それを彼の義妹も唇を尖らせ、不機嫌そうに見ていた。


「そのようなことを言われたところで、儂にとっては、ハクお兄ちゃん以外の何者でもないんだよ。私のお兄様はハク様だけなのですから」


 定まらない口調と名詞。

 それが彼女の平常運転。

 『黄金の魔女』、セブン。

 それが西で有名な魔女の通り名と名前であり、ヒイロと血を分けない元人間の魔女だ。


「……今日はまた一段と分かれてるな」


 義妹の様子を見て、ヒイロは呆れた様子で呟く。

 彼にとっては既に見慣れた光景。

 どうして義妹の口調や名詞が変わってしまうのか、それを解明したのはヒイロだった。

 だからもう不安は抱かないし、それを変だとも思わない。

 ただ、今一つ聞きたいことがあるとすれば――


「ところでだ。今朝、俺が見た予知夢は何人のセブンの未来だ?」


 今朝見た、地獄のような夢について尋ねた。

 文字通り血みどろの悪夢。

 そしてそれはいつか、起こる可能性の高い未来。

 それもヒイロ自身に関連したものだった。


「およそ七割の我の未来じゃよ」


 兄の問いに、セブンは可愛らしく口元に人差し指を当てて答える。

 けれどそれを見たヒイロは、ドッと疲れたような顔をした。

 その直後、まだ食べかけの朝食が乗った皿を前に押し出す。


「一気に食欲が失せた&寝起きの不機嫌さも吹き飛んだわ‼」


 勢いよく立ち上がり、バンッとテーブルに両手をつく。


「何? 俺、これからあの未来に立ち向かわないとダメなの?」


 口の中に一杯に蘇る血の味。

 脳裏には果てしない喪失感。

 しかも実際には起きてもいないことで、若干過去のトラウマまで呼び起こされ。


「お前がベッドに潜り込んで来た所為で、今日の寝覚め過去一最悪なんですけど⁉」

「男のクセに女々しいわよ、愚兄」

「言い方! 言い方に気をつけて‼ お兄ちゃんのハートにクリティカルヒットだよ!」


 セブンの刺々しい一言に、ヒイロは思わず大声でツッコミを入れる。

 しかし声を上げられた幼女は、静かに食後の紅茶を楽しむばかり。


「ちょっと。お兄ちゃんの話、聞いてる?」

「安心してください、兄様。ちゃんと聞いてる感じなのよ」

「そもそもだ。あれは今からどれぐらい先の未来なんだ?」


 椅子に座り直し、頬杖を突いてセブンを見る。

 今、ヒイロの頭の中に釘付けになっているのは誰かの声。

 自分を助けると、そう言った誰かの声だった。


「詳しいことはボクにもわからない」


 紅茶が入ったティーカップを傾け、空になったカップをカチャッとソサーの上に置く。

 セブンはテーブルの真ん中に置かれた、ポットへと手を伸ばしながら。


「ただし高確率で起きる未来ですわ。回避はほぼ不可能なんだよ‼」


 新たに紅茶が注がれたカップの中へ、ミルクも注ぎ込む。

 紅茶とミルクが混ざり合う光景を、セブンは静かに眺めていた。

 まるで、自分が話せることは全て終わったという感じで。


「お前の言い分はわかったよ。それに、お前の力も俺なりに理解してるつもりだ」


 黄金の魔女、セブン。彼女には未来予知の力がある。いや、彼女が持つのは明確には違う能力だ。それでも未来予知についてだけ説明するならば、本来の力よりはまだ簡単に説明できてしまう。


 セブンが見れる未来は常に一つの未来ではなく、多くの枝分かれした未来だ。すなわち『もしもの未来』。それらを全て一度に網羅する事が可能であり、その結果あらゆる未来の自分と口調が混同してしまい、言葉遣いや名詞がコロコロと変わってしまう。


 起きている時は自由に未来も見れるが、寝ている時はほぼ無意識で未来を見ている。

 そしてセブンが寝ている間、彼女と触れ合っている存在。その相手にも「夢」という形で未来を見せることができる。ただしセブン本人とは違い、全てのセブンの未来を統合した結果、夢を見ている人物にとって最も起きる可能性が高い未来を。


「だけどな。一つ、間違ってるぞ」


 ヒイロは手掴みで、自分が残していた朝食。

 皿の上に乗っていたベーコンを口へ運ぶ。

 それからそれを口の中へ放り込み、何度か咀嚼して飲み込んだ後。

 彼の視線はしっかりと、自身の血の繋がらない妹へ向けられていた。


「未来なんざ、簡単に変えられるんだよ」


 ヒイロの赤い瞳に映り込んだセブンが、小さく口元を綻ばせる。

 最初から兄がなんて言うのか。それをわかっていたように。


「当然。私も、アタシも、ボクも、オレも。我も、吾輩も、儂も、……」


 次々とセブンの口から一人称が溢れてくる。

 それはまるで、全未来線におけるセブンが名乗り出ているようだった。

 そして全員が声を上げ終えると。


「お兄ちゃんは絶対、私が消させたりなんかさせない」


 それが全セブンの総意であり。紛れもなく、この世界のセブンの口調だった。


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