小学校時代 その16
母親の声で起こされた。
起きたくない...
行きたくないよ。
朝が来たのを認めたくない。
それすなわち登校を意味するからだ。
でも、行かなくちゃならない。
あの日以降、病気以外で休んだことはない。
どうにかして自分を奮い立たせていた。
...半ば無理やり登校していた。
心は、限界だ、行きたくないと訴えるが、
体は、痛い、もう痛い目は散々だと訴えるが、
脳は、行かないほうがいい、どうせろくなことがないと訴えるが、
行くしかなかった。
もしかしたら、楽しい「なにか」があるかもしれない。
その僅かな「なにか」に縋って...
残り登校日も、わずかとなった。
クラスでは、また会えるといいね、のような声が度々聞こえるが...
私はそうは思わなかった。
正確には、会いたい人と会いたくない人がいた。
残念なことに、また会いたいなと思う人は指で数えるくらいしかおらず、
会いたくない人のほうが多かったようだ。
だが、そんなことはクラスメイトからすれば知ったこっちゃない話である。
元々記憶の片隅にも残す気はなかったと思うが...
そしていよいよ、小学校時代が終わる。
長かった6年間が幕を閉じる。
小学校の卒業式だ。
焦るな、練習通りに...
手本通りにやればいいのだ。
名前を呼ばれたら大きく返事をし、
堂々たる態度で卒業証書を受け取る。
右向け右をして、歩き出す。
完璧だ。
そして私の番が来た。
返事をし、壇上へあがる。
卒業証書を渡され、
校長先生に向かって一礼。
右向け右、歩き出す。
やりきった...
変なミスはなかっただろう。
そして、クラスメイトの前を通り過ぎて、
自分の席へ向かう。
あぁ、見なきゃよかった。
なんで笑っているんだろう、彼らは。
なにかやらかしたか?
どこでミスをした?
私は恐怖に陥っていた。
なんで、なんで...
なんの意図があったんだ?
なんで笑っていた?
落ち着け、落ち着け自分...
今は卒業式だ、彼らに手出しされることはない。
大丈夫、なにもなかった。
そして卒業式は進んでいき...
もうこの校舎にいられるのも残り数十分となった。
思えばいろいろなことがあった...
「口に雑草咥え事件」から始まり、
大雪が降って、
転校生が来て、
その転校生が暴れて、
〇コちゃんに叱られて、
クラス全員が敵に回って...
ん?
ろくな思い出がないな♨
でも、こんな思いするのもこれで終わりだ。
やっと解放されるんだ!
卒業式があったのも、
修学旅行があったのも。
全部「あったという事実」しか残らなかった。
修学旅行に関しては「行ったという事実」が残った。
「行った」という記憶があるだけ、私はマシなのだろうか。




