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4話 秘密はパンツと共に


 あれから野次馬の何者でもない冒険者達が、パドックさながらにヤンやヤンやと騒ぎ立てるので、後は受付のお姉さんに放り投げてギルドを出た。

 

 ダンジョンとはそんなに暇なのか、もしかして魔獣とか狩り尽くされちゃったとか?

 まだ冒険者の()の字も経験していないのにと、しょぼくれている私にカイルが小屋まで送ると言い、なぜか気まずそうに私に語り掛ける。


「なあ、明日なんだけど、儂と一緒にギルドのイベントに参加してくれないか?」


「イベント? ギルド主催のですか?」


「その堅っ苦しい話し方はやめようや。あのな、年に一度、王宮からの支給品が貰えるんだよ。女房や娘が取ってこいってうるさくてな」


 カイルの奥様と娘さんかあ、ちょっと会ってみたい気もする。しかしも、取ってこいとはどう言うことなんだろう、王宮の支給品ねえ。


「支給品ってどんな物があるんだ?」


「例えば、使っていない食器や衣類、装飾品とか雑貨類かな。女房は食器、娘は衣類だってよ」


「衣類? それって……下着とかも含まれたりなんかりしちゃったりする?」


「もちろんだ、娘はその貴族御用達の下着狙いさ。で、一緒に参加してくれるか?」


 何を隠そう、下着の替えが無いことに気付いてしまった私。男装とはいえ、下着まで男物を履く気にはなれないので、ここはなんとかゲットしたい。


「絶対に参加します! それで、取ってこいと言うのは何か催しがあるってこと?」


「そうなんだ。参加者にも制限があって、ギルドと関わりのある者が対象だ。今回のイベントは2人1組の争奪戦、早い者勝ちだ。儂と紅でペアを組む、後は開催場所へ行ってみないと儂にもわからん」


「争奪戦と言えば、色々仕掛けがあるとか?」


「ああ、多分な。明日また迎えに来るからよろしく頼むよ。今日はゆっくり休んでくれ」


「こっちこそ、ご馳走様でした。おやすみなさい」

 

 ということで、私は小屋の裏手にある五右衛門風呂に、井戸から水を汲み、薪で火を焚き、ようやく温かい風呂へ入って、残りのお湯でせっせとパンツを洗濯する。明日の朝までには乾くだろう。

 ああ、スースーする……ハックシュン!



 翌朝――


 ギルド主催のイベント当時。朝早くからカイルの荷馬車の音で目が覚めた。

 慌てて生乾きのパンツを履き、急いで身支度を整えてドアを開けると、重装備のカイルがデンっと立っていた。どうしたカイル……。


「おはよう紅。さあ、朝飯を持って来た、食べながら現地へ向かうぞ。ほら、早く乗れ」


「……あ、ああ。で、カイル、その重装備は何?」


「おお、これか? 毎年危ない目に遭うからよ、用心に越した事はないんでな。ガハハ!」


「…………アハハハ……」


 何故それを私に言わないのか!


「ところで、どこへ向かってるんだ? あ、この玉子サンド美味(うま)い!」


「ん? 言わなかったか? ダンジョンだよ」


「ブッ! ゴホッ、ゴホゴホッ! はあ?」


「な~に、既に攻略済みの入口付近だ。厄介なのはガーディアンの奴らさ、強敵だぞ~」


 語尾を伸ばして誤魔化すんじゃない!

 最悪だあ、資格を取ったとは言え、未経験で初心者の冒険者もどきである私に、重要事項をいま伝えるこの不届者を今すぐ成敗したい……頑張れ私。



 荷馬車に揺られ、意気消沈の私が着いた先に目にしたものは、明らかに戦闘体制の重装備軍団が所狭しと集まっている。

 その反面、ローブ一枚の私は、明から様に皆様を煽っているように映っているだろう。

 私は無実です……。


 荷馬車を降りて、ダンジョンの入口付近に来ると、ぽっかりと大きく空いた洞窟が見える。

 そこへ、ギルドマスターのバーグが颯爽と登場して早々に説明を始めた。


「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます。では、ルール説明から始めたいと思います」


 バーグの説明によると、ダンジョン入口のガーディアン達を倒し、そこを突破してフラグを持ち帰った者が、支給品を獲得できる権利が与えられると言う。しかも、必ずペアで持ち帰るのが原則。

 いや、普通に分配しろよ、と私は言いたい。


 まあ、それだけ貴重な物なのだろう。ここは何としてでも突破したい。

 カイル、是非とも老体に鞭打(むちう)って()いつくばってでも勝利を掴むのだ!


 それと、参加者には予め用意されている武器の使用が認められていて、それ以外は持込みも使用も禁止とか。なので、用意された武器を見に行く。

 

 長いテーブルの上に、武器であろうアイテムがズラリと並べられている。各自手に取り悩んでいる。

 私はアイテムを見てちょっと引いた。紙皿に靴、靴下にコルク、玉子に小麦粉、最後はとっておきのあるある生クリームスポンジケーキ。

 

 おそらく、安全第一を考えてのことなんだろう、私は頭を巡らせる。ならばと、紙皿とコルクを選択した。カイルは玉子と小麦粉を選択。

 それぞれに渡された布袋にアイテムを詰め込む。


 さて、いよいよスタートだ。


「では皆さん、準備はいいですね? それでは参りましょう。よーい、スタート!」


 一斉に走り出す重装備軍団。逆に装備が邪魔しているように見えるのは私だけ?

 待ち受けるガーディアン達は大きな盾を持ち身構える。先ずは軍団が玉子攻撃を始めた。

 ガーディアンは足元が滑って、覚束(おぼつか)ない足取りで体制を崩す、軍団の作戦か。

 

 続いて、靴下に靴を入れた軍団が振り回し攻撃で相手を叩く、ガーディアン達の手が下がる。追い打ちを掛けるように、誰かがスポンジケーキを顔面めがけて投げた。あ、カイル……。

 いつの間に、と言いたいところをグッと我慢して、その隙に私はカイルの腕を掴み、軍団を他所目(よそめ)に、ガーディアン達の間を通り抜けた。


「カイル! 走るよ!」


「おうよ!」と言うカイルの足は遅く、背後から軍団が迫って来た。

 私は尽かさずカイルに指示を出す――


「カイル、小麦粉を空中にばら撒け!」


 目眩(めくらま)し戦法で軍団の脚を止める。

 ここで私の出番。紙皿を洞窟内いっぱいに広げ、その上にコルクをばら撒いた。

 洞窟内は足場がデコボコ道と想定、コルクだけでは埋もれてしまうと予測、なので紙皿にコルクを乗せれば滑ると判断した。案の定、軍団は滑って転んでさぁ大変。

 

 私は足の遅いカイルを抱えて、一目散にフラグに駆け寄り、カイルとふたりでフラグを手に取ると、怪力を活かして跳躍し、出口まで跳んだ。

 そしてカイルと一緒にバーグの前に歩み寄り、フラグを渡した。


「はい、終了ー! 紅とカイルペアの勝利です!」


「やったな、カイル!」


「ありがとう紅! これで面目がたったよ!」



 イベントは無事終了して怪我人も無く、バーグの後に続き、ギルドで支給品を貰って帰った。

 ここからは私のイベント、お目当てのパンツをどう頂くかだ。この際、羞恥心(しゅうちしん)は捨てよう。


「な、なあカイル。あのう、言いにくいんだけど、そのう、下着をちょっと見せてもらえないかなぁなんて……ダメかな?」


 突然の申し出に、カイルが目を丸くする。


「なんだよ突然、下着? ああ、男物のパンツか。多分あると思うが、ちょっと見てみるか」


 カイルは荷馬車を停めて、ゴソゴソと袋を開けて確認する。すると――


「ああ、あったあった。はいよ、持ってきな」


 そう言って差し出されたパンツを見てみると、男性用と女性用のパンツだった。

 私は思わずカイルを振り返り見る――


「あ、あの、これは……」


「お前、なんか訳ありなんだろ? 男装なんかしてよ。ああ、あれか、怪力で義母に追い出されたってやつ、本当は女だから追い出されたんだろ?」


「えっ!? なんで……」


「男で怪力なら英雄扱いに決まってる。それに、体付き見りゃわかるってもんよ、伊達に女房や娘と一緒に暮らしてるわけじゃない、目は肥えてんだ。これは儂と紅だけの秘密ってことでいいんだよな?」


「カ、カイル……ありがとう……ございます……」


「な、なんだよ、泣くなよ――参ったなあ……」



 その後、私はカイルに(すが)()いて泣いてしまった。カイルは父親のように頭をポンポンと優しく撫でて(なぐさ)めてくれた。

 色々と愚痴(ぐち)ったことを後悔する私だった――


 よし、パンツ2枚ゲットだぜ!!

 


 

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