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31話 パーティメンバー


 慣れとは恐ろしいもので、多少の無茶振りにも対応できるようになってきた。

 そんな自分が可哀想だと思う今日この頃。さて、カルマの相談とはいったい何なのさ。


「カルマ、相談って?」


「その前に、ハクちゃんは冒険者カードを手に入れて冒険者、紅ちゃんは既に冒険者、そうよね?」


「そうだけど、ハクの場合は身分証の代わりだし、私はFランクでただのペーパー冒険者よ」


「私だって今はペーパー冒険者みたいなもんよ。そこで私からご提案、ペーパー冒険者同士、パーティを組んでみない?」


 カルマの突然の提案に困惑する。パーティを組むくらいなら構わないけど、ダンジョンとなると話は別だ。カルマは何を考えている?


「私はいいとして、ハクは山神様だし、ダンジョンとかはちょっと……」


「僕は紅と一緒なら何でも構わないよ」


「あのねぇ……そりゃハクの一声で魔獣なんて簡単に従えるだろうけどさ」


「んー、紅は何か勘違いしてるみたいだけど、ランデは聖獣だから従えただけで、魔獣は無理なんだよ。生産用ダンジョンは別として、冒険者用のダンジョンは魔の領域だからね」


「えっ、そうなの?! 知らなかった……」


 そういえば、マンモやアントは誰かがダンジョンから連れてきたって言ってたな、だからハクはあの時、マンモに森を荒らされても回復させるしか方法がなかったんだ。確かライからも生産用ダンジョンは特別って教わったっけ。

 山神も万能じゃないってことか。ならダンジョンはハクにとって危険地帯、この提案は辞退で。


「カルマには悪いけど、その提案は無理ね」


「もう、早とちりしないでよ、ふたりにダンジョンへ潜れとか、冒険者やれとか言ってるわけじゃないの。実はね、フェルモントのギルドがあの爆破で潰れちゃって、レフカが新たにギルドを開設するから私にマスターなってくれって頼まれたの」


「あ、相談ってそのこと? ハクが言ってた開設の初期メンバーとかってやつ」


「そうなの、名前を貸してくれるだけでいいのよ、有名な紅ちゃんなら誰もが認めるわ。もちろんハクちゃんが山神様ってことは秘密でね。相談というかお願いかしらね……」


 あの陽気で強気なカルマが俯く。お願いなんかしなくても、これまで随分とお世話になったことを考えれば、名前を貸すくらいお安いご用意だ。


 本当はカルマもギルドマスターになりたかったのかもしれない。でもバーグに譲った、自分では認められないと思った。確かにバーグは賢い男だ。

 人格、隠れた才能とでも云うべきか、それとも努力の賜物なのか、私には計り知れない分野だよ。

 だってモブだったからね、今は少し違うけど。


 カルマなら絶対に良いギルドマスターになると私は思う。今までに培ってきたものを糧に、皆んなとは違う目線で人を指導できると思うから。

 

「しょうがないなあ、カルマだから名前を貸すんだからね。パーティメンバー、やりましょう!」


「えっ、ほんとに? あらやだ、断られるかと思ってパンツネタをバラそうと思ってたのに」


 よーし、今すぐ断ろう。


「紅ちゃん、ありがとう。本当に嬉しい……」


 冗談もほどほどに。これで少しは恩返しができたのではないか。

 ここからは別行動だけど、カルマとの連絡はこの腕輪だけで良いんだろうか。


「ねえ、カルマと連絡を取りたい時はどうすればいいの? この腕輪じゃ時間が掛かるでしょ?」


「ああそのことね、なんかハクちゃんにいい考えがあるらしいんだけど、私もまだ聞いてないのよ」


 ハクの考え? なんか怪しい――


「紅ったら、そんな怪しい眼で見ないでよ、とっても優秀な子なんだからさ。モグラーおいで!」


「モスラー?」


「違うよ! モグラー!」


 ハクが名前を呼んだ途端、どこからか地響きが、土が盛り盛りと――そして!


「「――ヒッ!」」


 私とカルマの足下から鋭い爪と、モヒカン頭に黒眼鏡を掛けた口の尖ったヒゲの長い物体が土の間から顔を出した。あ、モグラだ。

 しかもアニメに出てくるあり得ないモグラ。何のひねりもないネーミングはハクの仕業か、ショボ。


「モグラだからモグラーねえ、センス無さすぎ」


「俺モグラー。紅はどっちだ」


「「ヒッ、喋った!」」


「ええっと、私が紅だけど……?」


「フッ、チンケな奴め」


 こいつ……誰かピコピコハンマー持ってこい!


「あら、意外と可愛いじゃない」


 カルマの可愛いの基準を疑う――


「お前がカルマか、胡散臭(うさんくさ)い奴め」


 カルマが蹴りを入れる、まあまあ。


「ちょっとハク、ほんとに伝言は伝わるんでしょうね、役に立たなかったら潰すわよ」


「大丈夫だよ、僕が保証する。心配ならこの布袋に手紙を入れて背負わせればより安心かな」


 保証できないから布袋があるのでは?

 ツッコミどころ満載だけど面倒くさいからやめておこう。


「じゃあ、名前を呼べばすぐ来てくれるのね?」


「俺はモグラー、モグラーと叫べ」


 お助けマンかよ……。


「あーはいはい、よろしくどうぞ」


 モグラーは満足気に地中へ帰って行った。

 それはそうと――


「パーティを組むならパーティ名が必要よね?」


「任せて、ちゃんと考えておりますわよ。3人ともイリュージョン的な存在ってことで"イルシオン"なんてどう? 意味は錯覚(さっかく)、お似合いでしょ?」


「「おお!」」


 流石ネーミングセンス抜群のカルマ、見習いたまえハク。


「じゃあそろそろ片付けましょうか、あまりのんびりしてると奴らに見つかっちゃうからね」


 カルマがスッと立ち上がりお開きを告げた。それぞれが想いを胸に片付けを始める。

 そして最後に円陣を組んで――


「私もギルドマスター頑張るから、ふたりも体に気を付けていってらっしゃい」


 と、カルマ――


「カルマさん、本当にお世話になりました」


 と、ハク――


「またすぐ逢えますように、元気でねカルマ」


 と、私――


「「「イルシオンに栄光あれ!」」」


 色々とあったフェルモントともお別れだ。あの国境を渡ればまた新しい出来事が待っている。

 悲しい出来事がないことを祈ろう。


 別れ際、カルマが隣国の名前を教えてくれた。


「この国境を越えるとデルニエ国なんだけど、レルム都市にちょっと変わった伯爵が住んでるの」


「変わった伯爵?」


「そうなの。お店のファンで常連さん、グレージーンファミリアの会員でもある良い人なのよ」


 カルマの良い人の基準を私は知らない。お店の常連さんってことはそっち系?

 あ、カルマは裏ダンジョンをどうするつもりなんだろうか。


「ねえカルマ、裏ダンジョンはどうするの?」


「惜しいけど辞めるわ、貴族のお偉方もそれどころじゃないし。もちろんバーは続けるわよ、伯爵も後押ししてくれるって言ってくれたしね」


 デニエル国の伯爵か、悪い人ではなさそう。

 ちょっと楽しみが増えた気分だ。


 カルマは軽くなった荷馬車を軽快に走らせて去って行った。私とハクは新たな国を目指す。



 あ、ハクのパンツ疑惑を聞くの忘れた……。



 

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