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28話 コンセプト


 ここはどこだろう、夢の中だろうか、この脳裏を駆け巡る走馬灯は何を意味しているんだろう。

 桜井紅子の記憶か。ありふれた日常、つまらない毎日、面白味のない映像はただ退屈なだけなのに。


 でもこれでわかったことがある、私は愚かな人間だって事に。悲観? そうじゃない。

 私は逃げていたんだ、だからモブを(つらぬ)いてきたんだと思う。

 女神のコンセプトは私を変える事だったのかも知れない。パンツに(こだわ)ったのは、そんなコンセプトから目を逸らしたいからなんだと、今更ながらやっと気付いた。


 この異世界で生きていくのに、力なんて無くても十分やっていけると思う。だから根こそぎ力がハクに移ればいいと願う、だって、もう疲れちゃった。モブでいるのも、変わろうとするのも。

 このまま目覚めなければいいのに……。


 

 ◇

 ◇

 


『紅……紅、起きて……』


 声が聞こえる。誰……?


『紅、僕だよ、わかるかい?』


 僕……? 聞き覚えのある声だ……ハクだろうか、でもちょっと違和感を感じる。白狐のような、そうで無いような、白狐なら僕とは言わないし……。

 

 そうだ、ハクはあれからどうなったのだろう。まだ眠ったままなのか、それとも元気になって森を守っているのだろうか。魔法は使えてる?


 ハクに逢いたい……。

 次第に頭が冴えてきて、重い瞼を必要に開ける。


「紅! 僕だよ、目を覚ますんだ!」


 その声に応えたくて、目を開けると、ぼんやりと人影が見える。目を凝らしてよく見ると、知らない美男子が私を覗き込んでいる。誰?


「……あなたは……ここは……?」


 森の中とは違う風景に、私は戸惑う。


「ちょっと、目が覚めたの! 私よ、カルマよ!」


 カルマ……そうだ、話し方でわかるゲイバーのベルママだ。でもどうしてベルママがいるのだろう。


「ああ、ベルママさん……ここは?」


「私の隠れ家よ。良かったわ〜腕輪で紅ちゃんを見つけてここへ運んで来たのよ。もう説得するの大変だったんだからあ、ハクちゃんたら私を警戒しちゃってさ、知り合いだって言っても信じないのよー」


「ハク? ハクがいるの? どこに? 無事なの?意識はある?」


「やあねぇ〜目の前にいるじゃない、イケメンが」


「……えっ? まさかあなたが……ハク?」


 私の手をしっかりと握る、この美男子がハクだとベルママは言う。

 確かに銀髪だけど、どう見たって人間の姿だし、子供っぽさも、神語もない。

 

 いったい何が起こったのか、私はどのくらい眠っていたのだろう。

 それにしてもこれがハクとは、イケメンというよりやはり神的な美男子が相応しい。

 綺麗な瞳にフサフサな長いまつ毛。整った鼻筋に完璧な大きさの口元。これに牙を添えたら白狐に似てるような……そんなことはさておき。


「ベルママ、私はどのくらい眠っていた?」


「ええっと、半年近くになるかしらねえ。ずっとハクちゃんが付き添ってくれてたのよ」


「ええっ! そんなに!?」


「と言っても紅ちゃんにはわからないわよね。簡単に説明すると、レフカが私に色々と教えてくれて、で私は紅ちゃんを探した。森で紅ちゃんを抱えていたハクちゃんを見つけて、半ば無理矢理に連れて来たってところかしら、後はハクちゃんに聞いて。後ね、レフカから荷物も預かってるわ。それはまた今度でいいわよね」


 そう言ってベルママは部屋から立ち去った。随分と長いあいだ迷惑を掛けてしまったみたいだ。


「ねえハク、その姿はどうしちゃったの? もう小狐にも白狐にも戻れないの? 私が余計なことしたから? だとしたら、どう償えばいいのか……」


 ハクが私を優しく抱きしめる――


「僕がこうしていられるのも、紅が魔力を与えてくれたからだよ。小狐にも白狐にもまだ戻れないけど、山神であることに変わりはない。この姿は僕が望んだことだ、紅が僕にキスをしてくれた時、そう強く願った、紅を全部抱きしめたかったから」


 ハクは私を許してくれる、なら私も素直になろう。あの出来事を振り返ったところで、全てが元に戻る訳じゃない。お互い大馬鹿野郎でピリオドだ。

 あ、キスじゃなくてマウス to マウスね。


「ちょっとモフモフと可愛い笑い声は惜しいけど、私はハクと一緒にいたいかな」


「僕も紅と離れたくない。一緒に旅を続けて行きたい、駄目かな?」


「うん。一緒に行こう」


 でもやっぱりフェルモント国がどうなったのかは気になる。もう修復不可能なくらい破壊されていたはず。それと、レフカ達の魔力は消えてしまったのたろうか……。


「ねえ、フェルモントの城や街はどうなったの? 壊滅的に壊れちゃってたわよね」


「気になるかい? 紅が眠っている間、王族も民衆も復興に全力を注いで、今は元通り賑やかな街になっているよ。魔法は消えてしまったけどね」


「そうなんだ……」


「実は、紅に頼みがあって、前に古来種のことを聞いたろ? それが見つかってね。紅はその古来種を何に使うつもりだったのか知らないけど、もし可能ならフェルモントに譲っては貰えないだろうか」


 そう言えばそんなこともあったな。譲ったことをレオが知ったら私を(さげす)むんだろうか。

 だからどうしたって感じ。レオにできなかったことをハクが成し遂げたんだ、ざまあってもんよ。

 

「な〜んだ、そんなこと? 別に私の物ってわけじゃないし、例え1匹しかいないとしても、探し当てたのはハクなんだからハクが決めてよ」


「本当に? ありがとう紅!」


「グェ、ちょ、ちょっと苦しいわよハク……」


 そこへ、ベルママがスープを運んでやって来た。


「あらあら、もうベッタベタねえ。そりゃそうよね、ハクちゃんがいくら紅ちゃんの手をニギニギしてもスリスリしても無反応だったからねえ」


「カルマさん! そ、それは内緒って言ったろ!」


「フン。今さら何さま後の祭りってね。別にいいじゃない、減るもんじゃなし。美男美女、まさかの羨ましい恨めしいのダブルショックだったわよ。ハァァ、若いって良いわねえ……ああ憎たらしい!」


 やっぱり、女性だとバレていたかあ……。


「ハハ……あ、ベルママ、このスープ凄く美味い!」


「当たり前よ、私の愛情たっぷりスープですもの。紅ちゃんは早く体力を回復しなきゃよ、フフ!」


 こんな他愛のないやり取りがもの凄く嬉しい。それと、ハクの笑顔とはにかんだ姿を見れたことに、目覚めて良かったと心から思う。


 その後、ハクがこれまでの経緯を詳しく教えてくれた。ベルママとレフカは歳の離れた従兄弟なんだとか。裏ダンジョンのこともこれで納得がいく。

 といっても、ベルママは利用された側で今回の件には無関係だった。

 

 それから、魔力で繁栄していた生産用ダンジョンが今は機能を停止していると言う。そこで私の古来種説を思い出して、ベルママの《ハンター》スキルとハクの神魔法でやっと見つけ出したとのこと。

 

 次いでに私のスキルも調べてくれらしい。結果として《ハーキュリーズ》と《シーカー》意外は全て消滅していたと、ハクは申し訳なさそうに言って凹んでいた。

 《シーカー》は《プリテンダー》がスキルアップした称号で、意味は"探究者"だとか。

 

 それとつい最近、レフカとフォティア王女の結婚式が盛大に行われたそうだ。

 その時、ライとレオも出席していて、私のことをあれこれと聞き回っていたと言う。

 ベルママの機転で、事前に私の話はタブーと言う御触れが町中に出されたとのこと。

 流石は裏ダンジョンのボス、情報網がエグいくらい完璧だ。

 

 私はその話を聞いて、ある強い決意を固めた。それは絶対的に揺るぐことのない強い想い。


 かくして、私が目覚めて約半月が経った今日。

 ベルママに感謝しきれない程の暖かい持て成しに敬意を評して、深々と頭を下げて恩返しは必ずと約束を交わし、ハクと一緒にベルママの隠れ家を後にした。


 行き先はここから離れた山奥の原生林だ。

 強固な決意を胸に、大きく脚を前に出して、いざ出発――

 


 

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