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19話 シルクロード


 冒険者と兵士を挑戦者として、いよいよ裏ダンジョンが始まった。

 

 ベルママが広場の中央に立つ――


「皆様お集まり頂き誠にありがとう御座います。それではご紹介致しましょう。挑戦者3名の入場です」


 アナウンスと共に広場の中央に3人が並んだ。私の隣りには中年男が、その隣りに若い兵士が立つ。


「では端から、謎の青年"Z"、その隣りが元冒険者の"Y"、最後は現役兵士である"X"です。それでは予想投票を開始します。それぞれお持ちの番号と金額、挑戦者のアルファベットを紙に記入して係りの者に渡して下さい」


 やはり中年男は冒険者だった。それとこの若者、何となく声と風貌で気になっていたが、おそらく商店街にいた警備兵ではないだろうか。袖が斬られたように破れている、戦えるならそれはそれで私の知ったこっちゃないんだけど……大丈夫なのか?


「は〜い、締め切りとさせて頂きます。ではさっそく始めましょう。ひとりに付き害獣が1体、3対3のデスマッチ。さあゲートにご注目。バトル、開始!」


 ゲートが開かれた。横にいるふたりは同じ剣を携え身構える。私は壁際に立ち腕組みをして待機。

 現れたのは――


「「「……ゲッ!!!」」」


 地球の皆さん、異世界から緊急速報です。なんということでしょう、人類が滅亡しても生き残ると言われている、あの黒い物体がこの異世界では巨大化しております。そうです、ゴキブリと名を呼ぶことさえ躊躇(ためら)われる通称G()であります。

 あの害虫を退治できるのは、殺虫剤という化学兵器か、物理的に有効な粘着ゴキブリホイコイではないでしょうか。ねえ、絶対無理なんだけど……。


 私は1秒たりとも同じ空気を吸いたくないので、


「ほ、ほら、こ、ここは、君たちの、出番よ……」


 と、声を震わせながら言うと――


「ぼ、ぼぼぼ、ぼくにはム、ムリです……」


 と、私以上にビビりまくるヘナちょこ兵士。


「俺も……ちょっと……あれは、なあ……」


 と、冷や汗を流すへっぽこジジイ、お前もか!

 何のためにキンタマぶら下げてんだよ男ども!


「ああもうマジか……ふざけんなよ! クソッ!」


 と、悪態を吐きなが嫌々駆け出し、持っていた槍で横から串刺しにして、思いっきりゲートに投げ返してやった。


「ハァ、ハァ……! 舐めんなゴキブリ野郎!」


 鳥肌と悪寒と感触が消えぬまま、モブ作戦は秒で終了してしまった。

 横で呆気に取られ立ち尽くす男達――


「……お、お前、凄いなあ」


「ど、同感です……」


 こいつら……使えねぇ。


 そこへ、ベルママのアナウンスが流れる――


「……ええっと、ちょっと予想外の展開ですが、これはこれでお楽しみ頂けたのではないでしょうか!」


 ベルママのアナウンスに、観客席から怒濤(どとう)の歓声が湧き上がった。



「オオッ! これは凄いぞー!」


「クソッ! あいつに賭けておれば!」


「実に面白い! 早く次に行けー!」


 貴族達の歓声に、ベルママは不気味にほくそ笑んでは、自分の体を抱きしめ満足気だ。気色悪っ!

 高揚冷めやらぬベルママが次へ進む。


「では歓声にお応えして、ゲートオープン!」


 次にゲートから現れたのは巨大なネズミだ。すると横で中年男がカタカタと剣を震わし、煮湯を飲まされたかのように顔を(ゆが)める。


「クソッ……またアイツと戦うのかよ!」


「あの巨大ネズミと戦ったことがあるのか?」


「ああ、アイツはロックマウスと言って、岩の尾で攻撃してくるんだ。当たったら一溜りもない」

 

 元冒険者ならではのリアルな感想どうもです。

 しかしまた見たまんまのネーミングに些か拍子抜けするも、その尻尾さえ切り離してしまえばいいだけのこと。彼らと馴れ合う気はないので、さっさと済ませてしまおう。


「じゃあ、お先に失礼」


 私は襲い来るマウスの前歯を拳で殴り、粉々に折る。そして(ひる)んだ隙に素早く背後へ回り、尻尾を引きちぎり、その岩の尾を武器に背骨を狙い叩きつけると、マウスは昏倒し息耐えた。その様子を観ていた観客から(どよ)めきが起こる。


「お、おい、あの男、尋常(じんじょう)じゃない強さだぞ」


「ああ、只者(ただもの)ではないなぁ、いったい何処から来たんだ?」


 否応(いやおう)なく耳に入るその声に、ふたりは唇を噛み、ただ防御に徹していた。

 小柄な兵士はその体格が功を奏し、正面に立つことで尻尾からの攻撃を免れている。だが剣はマウスの前歯に捕らえられ、身動きが取れない。

 ジリジリと詰め寄るマウスが頭を大きく左右に振ると、兵士の体は宙を舞い壁に激突した。

 おそらく、兵士はもう限界に近いだろう。


「も、もう無理だ……ギ、ギブアップしま……す」


 その声に、ベルママは係り員に合図を送り、壁の内側から兵士を運び出した。

 なるほど、救出は容易ということか。だが、まだマウスは息を荒く私達を狙っている。私は兵士の持っていた剣を拾い、マウスの頭上目掛けて突き刺す。マウスは剣の()と地面の間で息絶えた。

 

 残るはあと1匹。中年男は尚も鬼の形相で持ち堪えていた。すると男はマウスから離れ、私が引きちぎった尾を必死に持ち上げ、壁に背を着けて飛び掛かるマウスの口へ突き刺した。尾は背中から飛び出しマウスは絶命した。

 男は力尽きてその場にしゃがみ込む。すると観客席からは歓声が上がった。

 男は疲れ果てた顔で天を仰ぐと、


「お、俺もギブアップだ。だが、やったぜ……」


 そう言って男は気を失った。


「皆様、ご覧の通り、"X"と"Y"は脱落致しました。今回の勝者は"Z"に決定です! では、本日のデスゲームはこれにて終了と致します。またのご来場を心よりお待ち申し上げております。賭け金のお支払いをお忘れなく。それでは」


 貴族達は要が済むと、特に談話をすることもなく、足速に会場から去って行った。

 貴族の(たわむ)れと豪遊、そして挑戦者有きの裏遊戯(ゲーム)。金は天下の周り物とはよく言ったもんだ。


 ベルママがいそいそと私のところへやって来た。


「さあ、事務所でお話ししましょ。お兄さんのお望みの物も聞かなくてはね、付いてらっしゃい」


 言われるがまま、ベルママの後へ付いて行った。

 地下の別ルートの通路を歩いて、事務所と書かれた部屋へ入った。小ぢんまりとした部屋に、机を挟んでソファがふたつ並んでいる。

 私とベルママは対面で座った。


「じゃあさっそく聞いちゃうわよ。お兄さんの欲しい物はなに? もちろん下着よね? それも女性用のランジェリー。それは何故かしらね?」


 ど直球で投げられた質問に私は戸惑う。正体を偽っている以上、本音を明かすわけにはいかないので、ここは誤魔化し戦法で。


「あのう、ベルママだから打ち明けるんですけど、お恥ずかしい話、私にはそういった趣味がございまして、何といいますか、特に女性用の綿パンツがめっちゃ好きなのであります……はい」


 そう言うと、ベルママは頬に手を置き、高揚した面持ちで眉をへの字にし、色めく瞳で私を見詰める。怖い……。


「ウフ、ウフフフッ! ああ〜やっぱりそうなのね〜、そうよね、そうだわよね。私ね、お兄さんを見てピンッときたのよ、同類じゃないかって。私も心は女性だからね、パンツくらいレディースを穿きたいじゃな〜い。綿パンは私も大好きよ!」


 そうではない。例え心は同じであっても、変態的趣味でパンツが欲しいという意味で言ったのであって、絶対的に体の構造は別物なので、男装している私としては一緒にして欲しくないところ。

 とはいえ、綿パン愛好者は歓迎です。


「ですよねー。私も公衆の面前でありながら、つい我を忘てしまって。で、パンツ、頂けます?」


「もちろんよ。はい、レディアンダーパンツ3点セット。男性用は返さなくてもいいわよ」


「ありがとうございます! 男性用はもちろん使わせて頂きます。ああ、幸せ〜!」


「わかるわ〜。私こう見えて、綿パン愛好会の会長を務めてるのよ。そうだ、お兄さんも愛好会に入らない? 綿パンの最新情報も入手可能よ」


「最新情報かあ……」


 これはもしかしたら、シルクロード、もしくは新種に辿(たど)れるかも知れない。



 見ておれ腐れ王子よ……ああ、お腹空いたなあ。

 


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