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18話 遊戯


 謎のオネエさんから貰った券をポケットに入れ、クッキーの入った袋を片手に、自警団の皆様からのお礼の言葉を頂戴して、歓声鳴り止まぬ商店街を静かに去る私であった。

 教訓、もう商店街に近づくのはやめよう。


 一通り街を探索して宿へ向かう。そろそろ夕飯時だ、お腹も空いてきた。宿屋の食事はどんな物が出るのかと期待しながら店の前に立つと――


「ハ〜イ、お兄さん。フフッ」


 と、背後から聴き覚えのある独特な喋り方をする声に振り向くと、あの交換所にいたオネエさんが立っていた。


「お迎えに参りましたのよ〜」


 その不気味な笑顔に私は戸惑う。いや、怖いからやめて。そりゃね、レオにも間違われたよ、そっち系のお兄さんってね。でもさ、まったくの誤解だし、そんなオーラこれっぽっちも出してないよね?

 だからさ、お誘いはちょっとごめんなさい。


「えっと、なんのお誘いかな?」


「あら、とぼけちゃって。優待券よ」


 そっちか。確か裏ダンジョンと書いてあった優待券だ。今から魔獣と戦えとでも言うのだろうか、しかし何故ここがわかったのだろう。


「ああ、券のことで来られたんですか。この裏に書いてある裏ダンジョンとは何んですか? それと、なぜ私の居場所がわかったんですか?」


「フフッ。質問責めね、嫌いじゃないわ。こう見えて私のスキルは《ハンター》なの、ダンジョンに挑戦して勝利すれば1つだけ好きな物が与えられる。来ればわかるわ。どう? やってみない?」


「好きな物?」


「あなた、私の勘だと女性の下着とかに興味があるんじゃない? 違ったかしら?」


 どうしよう、正にその通りなんですけど。あの地団駄を踏んだことで見抜かれた?

 でも、もし話しが本当なら、挑戦する価値はある。パンツや新種の魔獣の情報も手に入るかも知れない、行きましょう、パンツ最前線へ!


「わかりました。お供します」


 私はオネエさんと連れ立って、ルナ都市の中心部へやって来た。オネエさんは繁華街の酒場通りを歩いて、ある店の前で足を止めた。

 看板には「カマ・ナイスデイ」と、絶対悪夢にうなされる一日になるであろうディスプレイが、煌々と照らし出されている。

 オネエさんがドアを開けると――


「いらっしゃいませ〜! 貴方とワタシのステキな夜にご案内しま〜す! ウフフフッ!」


「うげっ……」


 なるほど、謂わゆるオカマバーである。スタイルバッチリなのに青髭が残る濃い化粧が何とも残念。

 そこでオネエさんが笑顔で手招きをする。


「さあ入って。私はここのママでフェアリーベルって言うのよ、ベルママって呼んでね、ウフッ!」


 あのですね、決して貴方を否定するつもりはないのだけれど、妖精が余りにも可哀想なのでぜひ改名をよろしくどうぞ。

 それはともかく、こんな異様なところにダンジョンなどあるのだろうか。確かに魔物はいるけども。


「ほらアナタ達、このお兄さんは私の大切なお客様なんだから、構わないでちょうだい。散って!」


「あら、裏の挑戦者? 頑張ってね〜!」


 そう言って呆気なく去って行った。


「さあ、お兄さんこっちよ、早くいらっしゃい」


 ベルママがまた手招きをする。だとすると、ダンジョン会場は別の場所にあるのだろう。

 私はベルママの後に続く――


 カウンター脇のドアを(くぐ)ると、地下へ続く階段を下り始めた。湿った空気が体に纏わり付く。

 階段を降り切る前に、ベルママが私に何かを手渡す。見ると、貴族達が舞踏会で正体を隠す為に使うドミノマスクだ。おそらく秘密裡(ひみつり)に行われる催しと言ったところだろう。

 さっそく私も眼鏡を外しマスクを着ける。


 階段を降りると通路に出た。少し先に開けた場所が見える。そこはまるで、闘牛場を思わせる砂地と、そして観客席にはドミノマスクを着けた人達が大勢いる。身に纏う物からして多分、貴族ではないだろうか。

 


「見ての通り、ドミノマスクを着けている観客は貴族よ。ここは賭けダンジョン。彼らはお兄さんを賭けの対象としてお金を払う、謂わばギャンブラー」


 貴族の道楽か。でもそれに(すが)る私のような人間もいる。そしてそれを商売にする胴元(どうもと)

 どの世界にも裏組織は存在するってことだ。


「闘う相手はもちろん魔獣。ルールは簡単、お兄さんの他に後2人登場するわ、最後まで残った者が好きな物を手に出来る勝者。武器はこちらで用意した物を使用、私達も鬼ではないのでギブアップ有りよ、死人は出したくないものねえ。では、挑戦するなら私に券を、辞退するならこの場で破り捨ててちょうだい。何か質問は?」


「魔獣って、まさかダンジョンから?」


「ああ、魔獣と言っても指定害獣よ。どうする?」


「指定害獣がここに?」


「フフッ。詳しく知りたければ先ず勝つことね」


 パンツは欲しい。この遊戯(ゲーム)の理由も知りたい。でも、競い相手がいる……。


 漫画のファイター達が、死闘を繰り広げる闘牛場のような場所を目の当たりにして、私は特別優待券を渡すか破り捨てるかの選択を迫られている。

 たかがパンツ、されど綿パンツと(こだわ)り抜いた夢が(つい)えてしまった今、このチャンス到来を諦めたら女が(すた)るってもんだ。王族ばかりに貴重な綿パンを穿かせてなるものか!


 ということで――


「やるしかないでしょ。はい券です!」


「フフッ、そうこなくっちゃね。ここでは挑戦者をアルファベットで呼ぶのよ、では他の2名を紹介するわ。そちらが"Y"さんよ」


 背後からスッと男がふたり姿を現した。


「俺は他国の人間だ。おそらく君達とは二度と会うことはないだろうから顔を隠す必要はないだろ。ただのオヤジさ、まあ、よろしく」


 中高年の、少しやさぐれた冒険者崩れといった出立ちで、特に悪い感じは受けない。


「お隣が"X"さん。この中ではいちばん若い子かも知れないわね」


「えっと、戦い方を学びに来ました。顔は出せません。なるべく最後まで残りたいのでよろしく」


 確かに、声の感じからして正義感ダダ漏れの若者といった感じだ。しかしなんだろう、どこかで会ったような気が……。


「そして私がスカウトしたステキな青年"Z"さん。私の勘なんだけど、おそらく、いちばんの強者じゃないかしら。まあ、お互い頑張ってちょうだいな」


 何を根拠に私を強者だと思うのだろう。そう言えば、自ら《ハンター》と言っていた。ならばギルドからの情報、もしくは予め知っていたから誘った。

 商店街の出来事を見たからかも知れないが、それだけで判断するのはどうかと思う。

 別に冒険者であることを隠すつもりはないが、何せ、未だFランクなんで恥ずかしいじゃん。


「私も顔出しはNGで。よろしく」


「武器はその机の上にある中から選んでちょうだいね。協力し合うも良し、盾にするも良し、好きに戦って貰って結構よ。さあ、始めましょう!」



 いよいよ裏ダンジョンが始まる。

 私の作戦はモブに徹すること。背景と化し、相手と害獣を戦わせて様子を伺う。ダンジョンの魔獣もこの国の害獣も知らない私の攻略法だ。

 出る杭は打たれる、大人しく隠れて身を隠すのも作戦のひとつなのだ。だからではないが、離れて攻撃できる槍を選択する。モブ危うきに近寄らずだ。



 モブはね、モブだからさあ……モブるのよ。


 


 

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