17話 特別優待券
ということで、気持ちを切り替るため、先ずは宿屋を探そうと思う。
私は荷物を背負い、街のギルドて宿泊先を紹介して貰い、ついでにお金を少し多めに引き出した。そして渡された街の地図を頼りに宿を探し始める。
ルナ都市に程近いアズールと言う街へやって来た。中心都市とは違いとても静かな街だ。
多少迷いながらも紹介された宿を見つける。宿というよりも、飲食店のような店構えだ。
さっそく訪ねて店の中へ入った。テーブル席が4卓と、カウンターが設置されている。
そのカウンターから店主だろうか、中年層の男性が私に気付いて声を掛けて来た。
「いらっしゃいませ。お食事ですか?」
「いえ、ギルドの紹介で宿泊しにやって来ました」
私は尽かさず紹介状を差し出した。
「それはそれは、はい確かに。お客様お1人ということで宜しいですか?」
「はい。空いてますか?」
店主はエプロンで手を拭きながら笑顔で答える。
「はい、空いております。食事はこちらで出来ますので、是非ご利用ください。ではご案内します」
物腰の柔らかい優しそうな人だ。
ああ、癒される、そうこれだよこれ。
私は店主に案内されて2階へ上がった。
「こちらがお部屋になります。それとこれが部屋の鍵です。また何かありましたら呼んで下さい。ではどうぞごゆっくり」
「ありがとうございます!」
私は部屋へ入り荷物を置いて、ドサッとベッドの上へ寝転んだ。
天井を見ながらレオに頼まれた新種のことを考える。シルクウォームは蛾の幼虫だ。確か、私達の知る蚕は、人間無くしては生きられない家畜になった昆虫。移動することも飛ぶこともない。
小学生の時に学んだ記憶はあるが、蚕の種類は多かったと思う。これはもう未知の領域だな。特に期限は言われてなかったはず、気長に探していこう。
なので、私は私なりに旅を楽しもうと、街の中を観て回ることにした。
アズールの街からまたルナ都市に戻り、賑やかな商店街を探索する。
ふと、店のショーウィンドウに"引換券配布中"と描かれたポップな貼り紙に目が止まった。内容を読むと、"レディアンダーパンツ3点セット他"と、当たると貰える豪華商品が書いてあった。
私は思わず――「おおおおっ!」と小さく叫んで大きくガッツポーズをした。
買い物すると貰える引換券。日本独特の通称ガラガラと言う画期的なプチイベント、やりましょう。
いそいそと菓子店に入り、駄菓子感覚でクッキーをトレイに乗せレジへ直行。
頂きました引換券3枚。交換所へ向かい券を差し出すと、くじ引きと思しき箱を出された。
ガラガラを期待して分、ちょっと拍子抜け。当たり前だがここは異世界、当然か。
「は〜い、こちらの箱に手を入れてクジを3枚引いて下さいね〜。さあ、何が当たるかしら〜フフッ!」
ちょっとオネエ系の人が体をゆらゆらとくねらせて言う。私は構わず箱に手を入れクジを3枚引く。
するとベルの音がけたたましく鳴り響いた。
「あら、あらあら! ちょっと、大当たりよー! レディアンダーパンツが当たりましたー!」
と、大声で周知しながら商品を渡すが、私を見てなぜか躊躇う仕草をする――
「あら、男性ね。はい、メンズアンダーパンツ」
こいつ……男性用と交換しやがった。私はその場で地団駄を踏む。差別だ、詐欺だ!
するとオネエさんが――
『はい、特別優待券。挑戦してみて〜フフッ』
そう小さい声で囁いて、1枚の券を差し出す。受け取って見てみると、表には"特別優待券"と、裏側には"裏ダンジョン挑戦券"と描かれている。なぜここでダンジョン?
私は貰った券をポケットに入れ、クッキーの入った袋を片手に仕方なくその場を離れた。
そこへ後ろの方から騒ついた声に振り向くと、人間の害虫と思しき野郎達が、大手を振って歩いている。何処にでもいる、ヤンキーがチンピラを気取った阿保な奴。絶対的なサブキャラだ。
モブとしては関わり合いになりたくないので、もちろん無視を決め込む。
「オラオラー! 邪魔なんだよー! スネーク団のお通りだ! チンタラ歩いてんじゃねー!」
うわぁ、なんとダサいネーミング。センスの欠片もない、しかも古くさっ!
「ようよう、誰の許可を得てイベントなんかやってんだあ? まさか俺達に黙ってとか言わねえよな」
男達はそう言いながら、次々と貼り紙を破り始める。そして遂には交換所まで壊す始末。
そこへ若い警備兵と数人の男達がやって来た。
「こらお前達! 王都で暴れるなと言っただろ!」
「これはこれは、チビッ子兵士に自警団の諸君、ご苦労さま。貴様らに用はねえんだよ、失せな!」
なるほど。自警団とは、私がボランティアでやっていた巡回パトロールと同じことをする人達だろう。しかし、随分と舐められた様子だけど……。
「なんだと! 俺達は日々鍛えてるんだ、いつまで弱いと思うなよ! 牢にぶち込んでやる!」
ああ、やられてるんだあ……。
まるでアルを見ているようで懐かしい。口だけは達者だったからなあ、なんとも危なっかしい。
「ほう、威勢だけは相変わらずだなあ、俺らが負けたら牢でもなんでも入ってやるよ。ほら、来いよ」
煽られた兵士と自警団が男達に向かって走り出した。初めは殴り合いのケンカが、いつしか武器の棍棒を使い始めた。
自警団も同じ棍棒で応戦するが、やはり戦い慣れしていない男達は次第に倒れ込む。優勢に立ったスネーク団の連中が、これ見よがしに兵士に的を絞って襲い始めた。
「オイオイ、さっきの威勢はどうしたよ。お前の腰にぶら下がってる剣はお飾りか? ここで決着をつけてもいいんだぜ。それとも怖いか? アハハ!」
言われた兵士は堪らず剣を抜いた、言った男も剣を構える。ここまでくれば当然の成り行きだ。
見渡せば街の人達も固唾を呑んで期待する。嘸かし悩まされ続けていたのだろう。
止める気配は一向にない。
はてさて、他に名乗り出る勇者はいないのか。やはり私なんだろうか、もう勘弁して欲しい。
だってさ、私は旅行者で、部外者で、一般人よ。来た早々ボランティアとかあり得ないよね。
そうこうしているうちに、戦いが始まってしまった。剣と剣の火花が散る。
観るからに力量の差は歴然、兵士は片腕に裂傷を負ってしまった。詰め寄る男の剣が兵士を襲う。
私は仕方なく前へ出で、男の剣を指に挟んで止めに入った。
「は〜い、ストップ。勝負はついてるよ、無駄な殺生はダメだよ。ほら、もう捕まっちゃいなよ」
男は真っ赤な顔で剣を抜こうと必死になる。
「え〜、抵抗しちゃう? しょうがないなあ、なら速攻で終わらせてしまおうか」
私はそう言って男の剣を真っ二つに折り、尽かさずボディーブローを喰らわし、軽いステップで残りの男達の元へ行き、怯んだ男達の頭をわし摑み、地面に顔を叩きつけて昏倒させた。
そして私は兵士に歩み寄り一言――
「傷は勲章じゃない。ほら、さっさと連行しな」
私はポンポンと兵士の肩を軽く叩いて、その場を後にした。
ちょっと格好付け過ぎちゃった、モブ失格です!
あ、裏ダンジョンとはいったい……。
この国、問題多過ぎじゃね?