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14話 小さな訪問者


 王女の政略結婚は本当なのだろうか――


「じゃあ、王女も嫌々でってこと?」

「いや、王女様と隣国の王子は相思相愛だったんだよ。だからきっと王女様は喜んでいると思うぜ」


 そういう事か。ならある意味、王女も被害者側なんだろう、お人形とかいって悪かったかな。

 とちらにせよ、ライも王女も救われたわけだ。

 

 それにしても、この国の王子はなぜいなくなってしまったんだろう。

 大体の察しは付くけど、でもさ、責任逃れはちょっとねえ。一応は次期王様なんだし、被害者出しちゃってるし、相当な悪よのう。


「カイルはさ、逃げた王子のこと知ってるの?」


「おう、知ってるぜ。団長さんと寸分違わぬ剣術の使い手でなあ、良い男なんだよ」


 ほうほう、悪人ではなさそうだ。


「ちょっとばかし野生児みてぇなところがあってよ、王族にはいないタイプだな。細長い剣を縦横無尽に疾らせて、そりゃあ見事だぞ」


 細長い剣? あれ、どっかで……。


「背の高い、団長さんとはまた違う、黒髪に凛々しい顔のイケメンって奴さ」


 黒髪……もしや!


「ええっと、王子は何で逃げていたのかな?」


「あれは確か、1日に何十件という見合いが嫌になってだと聞いたがな。平民にも冒険者にも親切で優しいとくりゃ、女どもが放っておくわけがない。それにイケメンとなりゃ尚更だ」


 どうしよう、もの凄く心当たりのある人物なんだけども。ならさ、どうして捕まったのかな、なんかそれも心当たりあるんですけど……。


「そのイケメン王子は何で捕まったの、かな?」


「ああ、何だったかなあ……」


 そこへライラが呆れた顔でカイルに話す。


「もう、さっきアルが息巻いてたでしょ、団長さんが取っ捕まえたって。もう忘れちゃったの?」


 ああ、最悪。恩を仇で返してしまったらしい。おそらく、王子とはレオのことだろう。

 ならライとレオも幼馴染で……もう今更そんなことはどうでもいい。

 だって知らなかったし、関係ないし、もうどうにもならないし。でも一応その王子の名前は聞こう。


「へ、へえ〜、団長さんがあ。で、王子の名は?」


「レオエルド・アラウザル王子だ。皆んなレオ様と呼んでるなあ。まあ、紅は知らんだろうけど」


 やっぱり。実は知っているのだお頭、私は相当ヤバい立場にいるみたいなのだよ。

 なにね、シャツが原因でふたりを会わせちまったらしいんで。でですね、ライには絶対怒られそうな予感と、レオには呪いを掛けられる可能性がありそうなのだよ。なので早急にとんずらします。


 私はどさくさに紛れて、考えていた事をさっそく申し出た。


「あの、カイル。突然なんだけど、実は、仕事を辞めて旅に出たいんだ。もの凄くお世話になったカイルには申し訳ないと思ってる、でも、このままで終わりたくないんだよ。許して欲しい」


 私の突然の申し出に、ふたりは唖然としている。私にとってカイルとライラは父親であり、姉のような存在だ。随分と支えられてきた。自分勝手なのは承知している、でも旅の夢は捨てられない。

 動機は不純なんで答えられませんが。


「アハハハ! 許すも何も、お前の人生だ、好きにすれば良いさ。紅はこんな小っぽけな街で収まっちゃいけない器なんだよ、こっちこそ仕事に(かこつ)けて縛っちまって悪かったな。でも必ず帰って来いよ」


 カイルは大笑いと共に、呆気(あっけ)なく私私を解放してくれた。器が大きいのはカイルの方だ、こんな私に帰る場所を開けて置いてくれる。有難い……。


「カイル、ありがとう! 必ず帰ってくる。その時はまた(やと)って下さい、約束だよ」


「ああ、約束だ、気を付けてな。仲間達には儂から言っとく。その様子だと直ぐに立つんだろ? こっちのことは気にせず、早く帰って支度しろ」


「うん、そうする、ライラも元気で。また必ず食べに来るよ、下着、助かりました」


「ハァ、もうお父さん物分かり良過ぎ。ま、だから私もこうやってお店を出せてるんだけどね。紅ちゃんと離れるのは悲しいけど、大人しく待ってるわ。男には十分気を付けるのよ、襲われたら張り倒してやんなさい。じゃ、いってらっしゃい」


「ありがとうライラ。じゃあ、行ってきます、皆さんによろしく!」


 期待していた食事にあり付けないまま、名残惜しくも店を後にした。

 その後、ダグの店で旅に必要な物を揃えようとも思ったが、ライ達に見つかっては元も子もない。

 石鹸の話も聞きたかったが、今となっては諦めるしかない。正体がバレていないことを祈ろう。


 今日の食事と食料品だけを買って早々に小屋へ戻った。なんとも(せわ)しい別れになってしまった。


 小屋の前に着くと、ドアのところに見慣れない白い物体が転がっている。木の枝を拾い、恐る恐る突っついてみた。すると一声鳴いた、動物か?


「おーい。生きてるかあー?」


「キュウ……」


 白い生き物がゆっくり立ち上がった。よく顔を見ると、山の洞穴(ほらあな)にいた小狐(こぎつね)だ。その小狐がなぜ私の小屋にいるんだろう。


「どうしたのお前、親はいないのかい?」


 辺りを見回したがそれらしい姿は見当たらない。マンモに襲われた時は親子で不意打を喰らったので、暫く警戒していたが、どうやらこの小狐だけのようだ。とにかくここでお見合いしていても、恋も語り合いもできそうにないので、構わずドアを開けると、小狐が静々と中へ入った。

 招いたつもりは無いんだけど……。


「ハァ、お邪魔しますくらい言ったらどうよ」


「お邪魔するの……」


「…………!」

 

 驚愕の事態発生。モフモフの小狐が喋った。

 頭の中ではわかっていても、一応辺りを見回すが誰もいない。小狐は尾っぽをユラユラと揺らしながら、図々しくもベッドの上にちょこんと座った。

 お決まりのびっくりポーズは……やめておこう。


「しゃ、喋れるのね……ふ、ふぅ〜ん、そう……」


 動揺は言葉に表れるのが一般常識である。

 私は顔を引き攣らせながら、ぎこちない足取りで荷物を机の上に置いて、防御体制に入る。


「ちょ、ちょっと小狐くん、な、なにか用?」


 小狐は前足で顔を擦りながら、太い尾を揺らす。


「僕はお礼をしに来たの」


「お礼? あっ、もしかしてパンのこと?」


 お礼の一言で、動揺と警戒心は少し解かれた。小狐は犬のように尾を勢いよく振る。多分、喜んでいるのだろう。どうやら害はなさそうだ。


「うん。あのパンのお陰で力が戻ったの、でもそれだけじゃないの、紅はあの魔獣を倒してくれた恩人なの。僕は魔獣が荒らした森を回復させるために、力を使い果たして弱っていたの。だからお礼」


 私の名前まで知っている。この辺りに来ていたのだろうか、いつから?


「魔獣ってまさかあのマンモのこと? まあ、あれが暴れ回ったら森も荒れるわね。でも森の中は荒れてるようには見えなかったけど、えっ、じゃあ回復させたって小狐くんが? えっ、どうやって?」


「僕は山の守り神。森を守るのが僕の役目なの。紅のことはこの森に来た時から知ってるの。この間近くまで来たんだけど、気付いてくれないの」


 守り神か。どうやったかなんて、私が聞いても理解に苦しむだけだろうから、追求はやめよう。

 近くって、もしかして、シャツを干していた時にチラッと見えた白い物体が小狐? わからんって。


「それって、私がシャツを干してたときだよね?」


「うん。だからこの前ね、来たよって合図にシャツ貰ったの、寝床にしてるの。フフフッ」


 シャツ泥棒は小狐か! やり方間違ってるし!


「そ、そうなんだ。じゃあもしかして、ちょくちょく来てたのかな?」


「うん! 紅はいつもパンツ洗ってるの。フフッ」


 ……こいつ!


 仕方ないじゃん、パンツ少ないんだもん。でも生乾きは解消されたわよ、シャツはまだ無理だけど。で、その山神様が私にお礼って?


 

 

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