34、温泉サバイバル(1)
自分のデッキの戦術を考えていたら、もう朝になっていた。
徹夜くらい、どうてことはないのだが、思い返せば、この世界で初めての徹夜だった。
この異世界で健康的な生活ばかりで、久しぶりに徹夜すると、結構体に負担がかかることが分かった。
どうやら、体を再び徹夜に慣らす必要があるようだ。
「冬哉!起きてるなら返事しなさい」
窓を開けて、日光を浴びていたら、椿の声が聞こえた。
しっかり応答しないと、理由を詰め寄られてしまう。
眠い目をこすりながら、ドアを開けた。
「うん、起きてるよ」
「ほら、行くわよ」
椿が俺の手を引いて、外に出ようとした。
「どこへ?」
「昨日、紙を渡さなかった?」
椿は少しむっとした顔で答えた。
......忘れた。
そう言えば、そんなものを渡された気がしないでもない。
「あ、うん、そうだったね。すぐ着替えるから、待ってて」
「早くしなさいよ」
ガチャンとドアが閉まった。
閉まったのだが、どうしてか椿が俺の部屋に入っている。
ドアの内側じゃなくて、外側で待っているべきだと思うのだが。
「どうして、そこにいるんだ?」
「え、私は......そう、監視しているのよ。万が一、問題が起きたら困るでしょ」
まあ、どっちでも良いんだが。
部屋の中にいられると、何だか落ち着かない。
というか、俺は椿よりも年上なのに、監視を受けるというのは変な話だ。
話は変わるが、紅葉、椿、楓の中で一番からかい甲斐のは誰だろうか?
答えは椿だ。
紅葉は冗談を真に受けてしまい、それが冗談でなくなってしまうし、楓に至っては普段の行動がすでにおかしいので、何も違いが感じられない。
でも椿なら、程よく慌てて取り乱してくれるから、一番面白いのである。
まあ、罪悪感はあるので、そこまで酷い嘘はつかない。
「そんなに監視したいなら、俺と一緒の部屋にするか?」
「馬っ鹿じゃないの!そんなの、そんなこと......もう良い!私は紅葉と待ってるから、早く来なさいよ」
顔を真っ赤にしながら、部屋から出て行ってしまった。
おもむろに、昨日貰った紙を見てみると、例の温泉だった。
そう言えば、行くとか、言ってた気がする。
学校にはほとんど通っていなかったので、久しぶりに急いで服を着替えた。
変装用の魔道具は付けずに、外に出ることにした。別に、俺は知り合いと会う予定はないし、今日の俺はただの冒険者として歩いている。
「ごめん、待った?」
「私は今来たばかりです」
「ええ、待ったわ。女の子を待てせるなんて、何を考えているのかしら」
「私は焦らされるのも、好きですよ」
馬車に揺られていると、いつの間にか寝てしまっていた。
起きると、山の麓だった。
やっぱり、乗り物は恐ろしい。つい寝てしまっただけで、見知らぬ場所まで連れて行かれるのだから。
馬車から降りて、しばらく歩くと、温泉に到着した。
しっかり和風の建物で、内心結構驚いている。
「どうしたんですか、行きますよ」
「分かったよ」
白色の暖簾をくぐった。
ちゃんと下駄箱があって、旅館の中ではスリッパで歩くようだ。
そして、床は板張りだ。ワックスで、スライムみたいにツルッと輝いている。
西洋的なこの世界では、ここまで和風うに統一されているのは珍しい。
「すみません、宿に泊ま......」
「はい、分か......」
まさに、開いた口が塞がらないとは、こういうことなのだろうか。
俺の思考回路は白飛びしてしまった。
ひとまず、息を吸って吐いて、深呼吸だ。
「冬哉、どうしたの?」
あっ、それはマズい。
俺の名前をこの状況で呼ばれるのは、非常にマズい。
偽名を使えば、なんとか誤魔化せたかもしれなかったのに。
「やっぱり、そうだったのね。ちょっと来なさい!」
「あの、話を......」
「問答無用!」
紅葉たちが驚いて目を見張っている間に、事務室のような部屋に連れ込まれてしまった。
そこには机が一つ、机を挟んで向かい合わせになるように椅子が一対(二つ)置かれていた。
そう、まるで取調室のような場所だ。
入口から離れている方の椅子に俺、入口側の椅子には......おそらく美桜里が座っている。そして、入口を塞ぐように美桜里の親友の......確か、未来が立っている。
美桜里はポケットから手帳を取り出した。
「何か弁明は?」
罪状は分かってるよね、という体で話し始めた。
「特に無いかな」
「じゃあ、私から聞くわ。あの子たちは誰?まさか、冬哉がナンパできるわけないし......」
全くその通りなのだが、本当に失礼な憶測だ。
でも、何と説明すれば良いのだろうか?
俺がブルーテス獣人国の国王ということは機密事項だから、いくら幼地味相手でも言えない。
「知り合いかな?この世界でできた友達だよ」
「女の子だけなの?」
そりゃあ、そうだろう。
異世界転移してから、ルミナの街に行って、すぐさま獣人国に行って、ルーミルの街にやって来たのだ。
アニメのように、冒険者教会でゆっくりしている暇も無かった。
「まあ、そうだね」
「そう」
お互いに何を言えば良いのか、分からない。
この2週間くらいで色々起きたのだ。まだ整理が付いていない。
「じゃあ、私から質問いい?」
部屋のドアに寄っかかっていた未来が口を開いた。
何となく、嫌な予感がする。
昔からそうだった。未来は面倒くさかった気がする。
面倒臭いと言っても、椿のツンデレや正論とは、別のベクトルで面倒臭いのだ。
「まあ、良いよ」
「あの中の誰が本命なの?」
「......」
やっぱり、ちょっと期待しそうになったが止めて良かった。
未来のせいで、美桜里の目力が上がった気がする。
更にたちが悪いことに、未来は面倒臭いことを聞き、美桜里は気になったらしつこく聞いてくる。完全な悪循環の始まりなのだ。
断ち切る唯一の方法は、逃げることなのだが、出口は封じられている。
「いや別に、誰が本命とかは無いかな」
「そっかぁ、じゃあ本人たちに聞いてみるね」
そんな、ウキウキに言われても困る。
......あれ、本人たち?
もしかすると、この場合の本人は俺じゃなくて、紅葉、椿、楓のことを指しているのではないだろうか?
「三人とも、入ってきて」
「分かりました」
紅葉がいつも通り元気な返事をした。
俺はそれと正反対で、憂鬱な気分だ。
紅葉と椿は変なことを言わないだろうが、楓は暴走しかねない。いや、絶対に暴走する。
それに煽られて、他の人たちも暴走し始めるのだ。
そうだ、そうに違いない。
椿のお父さんのレンクスさんに、突然ダンジョンに転移させられた時より、深い溜め息が出た。
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
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