33、ルーミルの危機(11)
紅葉と椿が兵士を無力化し、楓が従属の紋章を解除した。
ここにはギルド員、もとい、ギルドマスターの南部君と、その秘書の石田君を除いたクラスの連中がいるのだろう。
ぐるっと見回しても、ほとんど不登校だった俺には、誰がいて誰がいないのか分からない。
さて、こういう時に便利な存在がいる。
そう、クラス委員だ。ちょうど、クラス委員長が俺の方に歩いてきている。名前は橋か、川だった気がする。
「ユーキです、助けていただき、ありがとうございました」
ユーキって誰だっけ?
それが苗字ではなく、名前だと気付くのに、数秒かかった。
確かに、クラス委員長は川端ユーキとかいう名前だった。
「ここに全員いる?」
「はい、上にいる二人を除いては」
上にいる二人、つまり南部君と石田君だ。
そこまで悪いやつじゃなかったのだが、捕まってしまうのだろうか。
ガシャーン
上の方から、ガラスか何かが割れる音がした。
そのすぐ後に、ドタドタと階段を降りてくる足音がした。
「すみません、逃げられました」
領主が申し訳無さそうに言った。
俺は別に捕まえるのに失敗されても、残されたカードさえ貰えれば問題ない。
さすがに、カードを回収している暇は無かっただろう。
レオパルトさんにどう言い訳しようかと考えていると、俺が寄っかかっていたドアが開いて、危うく後ろに倒れそうになった。
「おっと、危ない」
聞いたことのある声が、後ろから聞こえてきた。
「レオパルトさん?」
「ああ、そうだ。待たせたかな?」
いや、もうちょっと遅く来て欲しかった。
何も言い訳を考えられなかった。
「いえ、領主はここにいるのですが、ギルドマスターとその秘書が逃げてしまったようで」
「ああ、それなら問題ない」
問題は大ありだ。
一番逃げられたら、マズい二人だったのだ。
二人とも、この上ない程の異世界オタクだ。この異世界という最高のフィールドに、悪魔を解き放ってしまったのだ。
何をしでかすか分かったもんじゃない。
「警戒態勢を敷いているから、簡単にはこの街から出られないさ」
「約束通り、言ってきますね!」
「ああ、あとは任せなさい」
さて、計画が完全に成功したわけではないが、そんなことはどうでもいい。
お待ちかねの、カード選びタイムだ。
正確に言うと、前回に欲しいカードは決めてしまっているが、他にも良いのがないか、じっくり探すことにしよう。
ここで、一つ新たに知ったことがある。
カードの効果を顕現するために、自称神は俺たちの左腕にカタパルトが埋め込んだ。この世界の人は皆、生まれたときから持っているらしい。デッキに入れたいカードを、左手首と左肘の間くらいのところに触れさせると、カタパルトに吸収される。
ここまでは知っていると思う。
でも、レオパルトさんが他の機能も教えてくれた。
それは、カタパルトがある、左手首と左肘の間くらいのところに魔力を流すと、ステータス画面に似た、画面が出てくるのである。
そこには、今のレベルでカタパルトに入れられるカードの上限、今入っているカードの一覧がある。
その画面を上下にスクロールして、適当なカードをタップすると、そのカードが拡大されて詳細情報が出てくる。
結局、何が言いたいのかというと、デッキに入れられるカードには上限があるから、やたらめったらとゲットしたカードを即吸収させられないのである。
不必要なカードを取り出すこともできるが、カードの量が多いと、探すだけで一苦労だ。
というわけで、今持っている中で不必要なものは売り払ってきた。
あとは、吟味しまくって、最高のデッキを作るだけだ。
「うーん」
「うぅーん」
二時間くらいすると、目がチカチカし始めた。
あと二、三時間くらいで終わりにしなければ。
紅葉、椿、楓も用があるとか言って、先にさっさと帰ってしまったし、あまり熱中しすぎないように注意しよう。
下の方で、領主がダミ声で喚いているような気もするが、正直そんなことはどうでもいい。
どうせ、レオパルトさんが上手く処理してくれるのだから。
昼ご飯に行かないか、と誘ってきたクラス委員長を部屋から追い出して、更に二時間経った。
目はチカチカを通り越して、視界がピンボケしてきた。
失明まではいかないと思うが、さすがにマズいということは理解できたので、あと三十分したら宿へ帰ることにした。
「はぁ、帰るか」
わざわざ口でに出して、自分の脳に理解させないと、体が動かない。
厳選に厳選を重ねて、このカードの宝山からスキルカードを六枚選んだ。
探知魔法で発見されなくなる『ステルス移動』、武器や攻撃に属性を付与する『水、地、風属性付与』、二種類の異なる属性を同時に両方使える『属性統合』。
あとは、対象に体力・魔力の永続回復を与え、索敵もしてくれる地球の女神」。
手に握ったままだと落としそうなので、カタパルトに吸収させてから帰ることにした。
ドアを開けて、空を何気なく見てみると、すでに赤一色に染まっていた。
別に、俺は悪くない。
そう言い聞かせながら、宿に向かう足取りは、重くもあり軽くもあった。
「ただいま」
「今、何時ですか?」
予想通り、ドアの前で待ち構えていた紅葉に捕まってしまった。
もちろん、帰りながら言い訳は考えてきた。
「ちょっと小腹が空いてきたし、三時くらいかな」
空が赤いからと言って、必ずしも夕方である必要性は無いのだ。
それに、カード選びに頭を使ったから、ちょっと甘い物を食べたいし。
「そうですか、そういう事を言うんですね。せっかく、レオパルトさんから作戦の報酬を頂いたのですが、燃やしてしまいましょう」
「それだけは......」
さすがに、それはマズい。
俺がレオパルトさんに頼んだ報酬は、最高レアのカードで、かつそれなりに有用そうだと見込んでいたカードだ。
泥棒に盗まれたならともかく、喧嘩した挙げ句に燃やされた、というのは最悪の展開だ。
もし俺だったら、普通にキレる。
落ち着いてみると、俺はどっちみち怒られるのではないだろうか。
カードを燃やされたらレオパルトさんに、帰ると約束した時間を忘れていたと認めれば紅葉に。
どっちの方がマシか?
それは紅葉に決まっているだろう。それに、紅葉だったら、なんやかんや許してくれそうだし。
「その......悪かったよ。つい、時間を忘れていて」
「あら、開き直ったのね」
椅子に座っていた椿がこっちを向いた。
椿が参戦してくるのはマズい。結構、正論めいたことを言うから、相手をするのが大変なのだ。
せめて、今も、布団の上でゴロゴロしている楓が参戦する方が良かった。
楓だったら、誤魔化されやすいし。
「開き直ったというか、単に罪を認めて誤っているだけだよ」
「言い換えると、そうなるわね」
もう、ヤダ。
紅葉がなるほど、そういうことか、という顔で、うんうんと頷いている。
どうせ、俺の罪がいたずらに重くなっていくだけなのだろう。
最終的には、どんな事をさせられるのやら。
「椿ちゃん、これは重罪だね」
「私は知らないわよ。別に、死刑でもギロチンでも海に沈めるのでも良いし」
うーん、全部死刑な気がする。
さすがに、時間を忘れただけで死刑にはならないはず、ならないよね?
でも昔、誰かに聞いた。女の子との約束を破るやつは死刑だと。
「では、聞きます。カードと私、どっちが大切ですか?」
......選ぶ云々の前に、選択肢がこの二つしかないことに疑問を感じるのだが。
第一、片方を選んだら、もう片方がどうなるのだろか。嫌な予感しかしない。
第三の選択肢、どっちも選ぶ、というのはダメだろうか?
まあ、試してみるしかない。
「カ」
「そうですか!私ですか!」
布団でゴロゴロしていた楓が、突然飛び起きた。
楓なんて一言も言っていないのだが......。
「いや、楓じゃないから」
しゅんとなり、また布団の中に潜っていってしまった、楓はおいといて話は続く。
「冬哉、私の名前には『カ』なんて入ってないんだけど」
「それは、カードも紅葉も両方大事だよ、って言いたかったんだよ」
紅葉がはぁと溜め息をついた。
やっぱり、第三の選択肢はダメだったかな?
紅葉はくるっと後ろにいる椿に振り返った。
「椿ちゃん、やっぱりダメだったよ。あとは、任せたよ」
「えっ、私?」
突然、任せれて混乱している椿を放って、紅葉は布団にダイブしてしまった。
今は、楓と一緒になって、布団の上をゴロゴロしている。
「自分の部屋に戻っても良い?」
「え、うん。......あっ、ちょっと待ちなさい。はい、これ読んどいて」
椿から何かの紙を受け取ると、部屋から追い出されてしまった。
本当に、何だったのやら。
この紙を読むのは後回しにしよう。
今日ゲットしたカードも含めて、これからどう戦うか、作戦を決めることにした。
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
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