29、ルーミルの危機(7)
騎士団に捕まってしまったが、まだ作戦に支障は無いだろう。
魔道具で変装しているとはいえ、作戦を成功させるためにも、この顔であっても変な噂が立つのは困る。
俺はブランチ村で、商人のレオパルトさんから、ある話を聞いた。
このルーミルの街では、新しい領主になってから、悪政が続いているらしい。
2週間ほど前、実力だけは確かのギルド(冒険者のグループ)が現れて、その領主に取り入った。そして、隷属の紋章を付けたギルド員を働かせているらしい。
ほとんどのギルド員が相当な実力を持っていて、一瞬で街の有力ギルドになったらしい。
名前は、暗黒街。いかにも、厨二病っぽい名前だ。
領主の息がかかっているので、もちろん領主の命令にはある程度従っているらしい。その命令というのが、気に入らない冒険者への暴行などだ。
領主のお気に入りでかつ、証拠がほとんど残っていないので、騎士団でさえも手が付けられないそうだ。
このギルドは何者か?
それは簡単だ。ボスはドラゴンを召喚できるという噂があり、だいたいのギルド員の髪色が黒で、ルーミルの街に現れたタイミングも一致する。
そう、クラスメイトたちだ。
ドラゴンで脅すやつがいるくらいだから、黒魔術系のスキルを取ったやつもいるのだろう。
別に、クラスメイトが何をしているかは、正直どうでもいい。
でも、一つだけ許せないことがある。
それは、俺の大好きなカードを悪用していることだ。一人のカードゲーマーとして見過ごすことはできない。
まあ、美桜里のこともあるのだが、別にあいつなら大丈夫だろう。
おっと、いつも通り心を読まれていたら、頭を小突かれていたところだ。
「女子たちは、先に宿に戻っておいてくれ」
「冬哉は?」
「ちょっと用事があってな」
「ナンパですか?」
バカ真面目な顔で聞かれると、苦笑するしか、反応方法が思いつかない。
「違うよ。昨日言ったただろ、俺の知り合いについてだよ」
「ああ、そっちでしたか」
三人は市場で買い物をするようだ。
楽しそうに揺れる肩を見送りながら、俺は自分の仕事に向かうことにした。
目指すは、ギルド『暗黒街』の拠点だ。
「すみません」
「どうしましたか」
「......」
俺がどうして黙っているか分かるだろうか?
俺の目の前にいる冒険者っぽいやつらは、クラスの連中だったのだ。
それもただのモブキャラという訳ではなく、クラス委員の連中だ。
あまりにも自然な格好に見えたから、顔を見るまで気付かなかった。やっぱり、美男美女揃いのクラス委員は、何を着ても似合うのだろう。
「何か、用ですか?」
俺は魔道具で変装しているから、大した関わりの無かったクラス委員は気付けない。
この姿だったら、さすがの美桜里にも分からないだろう。
「ギルド『暗黒街』に行きたいのですか?」
「あ、そうなんですか。実は私たち、ギルド『暗黒街』直属のパーティーなんです」
まあ、そうだろうな。
でも確証を得られたのは大きい。これで作戦を開始できる。
「案内してもらえますか?」
「もちろんです」
優等生たちは、異世界でも優等生のようだ。
もう一つ、聞いておかなければならないことがある。
「その左手の紋章は?」
「これですか」
クラス委員たちの顔色があからさまに悪くなった。
やっぱり、それは従属の紋章のようd。
早いうちに、解除する方法を見つけなくては。
「言いにくいのでしたら結構です。それよりギルドに連れて行ってもらえませんか?」
「分かりました」
俺がこの街に来たばかりだと言ったら、色々と街の案内をしてくれた。
オタク話に花を咲かせている時に注意されたりして、色々とムカついていたクラス委員も、異世界だったら心強い。
虚構かもしれないが、自信満々の様子だから、ちょっと安心する。
まあ、こんなことは口が腐っても、本人たちに言うつもりは無いが。
市場を通り抜けると、黒一色に染められた建物がそびえていた。
センスは別として、存在感だけ、むだに強い。
ここがギルド『暗黒街』の拠点だそうだ。
黒がカッコいいのは分かるが、エアコンの無いこの世界では、夏になったらサウナになるだろう。
「ここです......」
黒のカッコよさなど眼中に無い、クラス委員はちょっと不満げだ。
「では、ギルドマスターと面会できますか?」
「少し待っていてください」
はたから見ると、ただの青年にしか見えないはずだが、待合室に通された。
カードゲーム世界決勝戦の時の高級ホテルには及ばないが、普通のホテルと同じくらい豪華な待合室だった。
ここが自分の家なのだから、異世界に来て、相当良い思いをしているのだろう。
俺も、まあ、悪くは無かった。
感慨にふけっていると、部屋のドアが開いた。
「申し訳ありません。ギルドマスターは、女性と会われる予定がありまして」
へぇー、女性か。
いかにも陽キャが異世界でやりそうなことだ。
うちのクラスの担任も一緒だったら良かったのに。
「私は、ダイヤモンドとケモミミを持っていると伝えてもらえないか?」
これこそ、俺の必殺技だ。
記憶は曖昧だが。ドラゴンを前にして笑っていたやつのことを思い出した。
おそらくだが、不良が五人、オタクが一人、陰キャが一人だった。まあ、俺も似た感じだから、人にオタクだの陰キャだの言える立場でないのだが。
不良相手にはダイヤモンド、オタクと陰キャ相手にはケモミミだ。
不良がギルドマスターだとは思うが、念を入れて、どっちにでも対応できるようにはしておく。
「分かりました」
真面目なクラス委員、首をひねりながら部屋を出ていった。
しばらくすると、誰かが走りながら戻ってきた。
「どうぞ、来てください」
うまくいったようだ。
まあ、ダイヤモンドくらいなら、一つくれ、と言われてもどうにかできる。
もちろん、後で返してもらう予定だが。
むだにクルクルしている螺旋階段を上ると、目の前に一つだけドアがあった。
途中に、居住区画や仕事部屋のような階も見えたから、おそらくこの最上階はギルドマスター専用の階なのであろう。
まったく、豪華な話だ。
「お入りください」
クラス委員は優等生なだけあって、本物の執事です、と言われても違和感がない。
さて、この部屋の中には誰がいるのか。
ガチャ
この世界にしては建て付けの良いドアが開いた。
失礼なことだが、ブランチ村のドアなんて、物によっては酷かった。トイレのドアが開かなかった時は、すごく焦った。
「!」
まさか、こいつだったとは。
「座れ」
異世界に来ただけで、こんなに変わるのか。
言葉を失って呆然と立っていたのを、俺が謙遜しているとでも受け取ったのだろう。
「遠慮するな、座れ」
誰がお前に遠慮するんだよ。
仲良く話していた記憶が一瞬、脳裏をよぎったが、首を振って忘却の彼方へと消し去った。
「拒否するのか?」
「いえ、この荘厳な空気に飲まれてしまい、正気に戻しただけです」
どうせ、オタクは褒めれば、簡単に態度を変えてくれる。
それに、ここは異世界だ。
自分が主人公とでも思っているのだから、主人公気分にさせてやれば、勝手に気持ち良くなって、俺を信頼してくれる。
騙しているのは分かるが、俺だって......。
いや、何でもない。
脳裏に浮かびかけた、あいつの笑顔を消し去った。
「どうした、窓でも開けるか?」
俺が二度も首を振ったのを見て、心配してくれたのだろう。
こいつは、言動は別として、中身は良いやつだ。
クラスの連中に従属の紋章を付けるとは思えない。
「話を始めましょう」
そう言いながら入ってきたのは、またクラスのやつだった。
こいつも俺とはある程度仲が良かった。
それでも分からないのだから、この変装の魔道具は相当高品質なのだろう。
さて、オタク、陰キャ、カードゲーマー、異世界に来たら覚醒しそうだが、何とも言えない地味な三人が話し合いを始めた。
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
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