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27、ルーミルの危機(5)

 村長のシリウスさんやレミール商会のレオパルトさんがいた、ブランチ村を出発してから、満天の星空を二回見た。


 そんな昼下がり、ルーミルの街が見えてきた。


 ここの別名は魔物の街で、近くにあるダンジョンや魔物が住む森などを探索する冒険者がよく来るのだ。だから、この街で有名になれば、冒険者の口伝えで、名前が飛ぶように売れていくのだ。


 と、レオパルトさんが言っていた。


 さすが商人、ここら辺の造詣が深いようだ。


 街に入る前から、この街が賑わっているということがよく分かった。


 なにせ、街道が渋滞しているのだ。


 街道上は馬車、街道の両脇はそれを避けた冒険者などが歩いている。


 ここで一つ言わせてもらう。俺は混んでいるのが苦手、いや大嫌いだ。今も泣きたくなるのを我慢している。


「誰か、飛べないか?」


「えっ、どうしてですか?」


「混んでるのは苦手なんだよね。いやぁ、誰か、飛べないのかなぁ」


 もちろん、俺が視線を送る先は、さっきまでふわふわと浮いていた楓である。


 精霊の力で、ふっと浮かしてもらいたいところだ。


「なあ楓、誰か、できないかなぁ?」


「......分かりましたよ、私なんですよね?今まで我慢してたんですけど、やりましょうか」


「うん、お願い」


 楓が何かを唱え始めた。


 そういえば、今まで我慢していたというのは、どういう意味なんだろう?


 結構すんなり引き受けてくれたし、俺たちを浮かせるのに大した実害は無さそうだが。


「では、失礼して」


「ん!」


 そこで、何があったかは言いたくない。


 今も色々と、そのことについて紅葉と椿から言われるのだ。そのことを美桜里が曲解して、誤解を解くのが大変だったのだ。


 少なくとも、女子との会話に慣れてない俺には苦業だった。


 俺だって、そんなことを許可したつもりはなかったのだが、「うん、お願い」なんて言った以上、完全に無実と言い切れないのが歯がゆい。


 いや、本当にそういう意図では無かったのだ。


 俺もまさかそうなるとは思いもしなかったのだ。


 うだうだ言っても仕方ないから、現実逃避は止めにしよう。


「ちょっと二人!何してるんですか!」


「ほんと、あり得ないわ!」


「いや、これは......」


 弁解しようと思っても、正直俺も混乱している。


 楓は呑気に、飛行魔法の詠唱を始めてしまった。


 椿は横をぷいと向き、紅葉は俺に詰め寄ってきた。


「どういうことですか」


 笑顔が怖い。


 というか、質問ではなく、脅しに聞こえる......。


「いや、ですから、紅葉さん」


「みなさん、飛行魔法の準備ができましたよ」


 ナイスだ、楓。この隙に、うやむやにしてしまおう。


 とはいかないわけで、紅葉の矛先が楓に向いただけだった。


 まあ、楓が悪いから、気にすることはないのだが。


「楓、どういうことかな?前決めましたよね、抜け駆けは無しだって」


 俺はそんな話、聞いてないんだが。


 そんなツッコミをしたかったが、紅葉の矛先が楓に向いている間は静かにしておこう。


 紅葉は怖い笑顔、楓はいつもの微笑で向かい合ってるから、余計にマズい状況に思える。


「あれは口づけではなくて、魔力の受け渡しですよ」


 おっ、うまく誤魔化してくれそうだ。


 空では、やっと太陽が出てきて、俺を明るく照らしている。


 暖かい太陽の光にホッと一息ついたとき、楓が第二声を発した。


「夫婦の(ちぎ)りを結ぶのに必要だったので」


「......」


「......」


 楓以外みんな、黙り込んでしまった。


「楓、説明してもらっても?」


「精霊が夫婦の契りを結ぶにはキス、つまりお互いの魔力を混ぜるのが習わしなんです。相性が良い(つがい)だと、お互いの魔力が共鳴して、数倍もの力が出せるようになるんです」


「いや、キスした理由について何だけど」


「相思相愛ですし、もう毎晩ベッドを共にしていますし、逆にこれで夫婦じゃないと説得する方が難しいですね」


 ドヤ顔で言っているし、もう楓はダメみたいだ。


 いつも通り、変なところのネジが抜けているようだ。


「ベッドを共にしているってどういうこと?」


 紅葉が首を突っ込み始めてしまった。


 もうイヤだ、俺は早く冒険者協会に行きたいのだ。


 なにより、こんな空気は結構息苦しい。


「私は精霊なので、霊体になってから冬哉様、いえ旦那様の布団に入り込みます。その時に実体に戻ると、ちょうど私の分だけ、布団の中に空間が生まれるんです」


 前に楓から聞いた。


 霊体とは物には干渉できないが、魔力や悪霊などの実体を持たないものに干渉できる状態。実体はその逆だ。


「これが一種の空間魔法でして、空間を歪ませられるんですよ」


 もしかしたら、楓は世界一、魔法を無駄に使っているやつなのかもしれない。


 俺の記憶によると、空間魔法は結構高位の魔法だった気がする。それを人の布団に潜り込むのに使うとは。


 ここに魔法学者がいたら、泣きながら怒りそうだ。


「楓」


 ほら、紅葉も怒ってしまった。


「私にも空間魔法を教えてくれない?」


 は?


 俺の聞き間違いだろうか。


 紅葉まで楓の魔の手に染まるのは勘弁して欲しい。椿もだいぶ怪しいから、これ以上感染が広がるのは困る。


「ええ、良いですよ。私に任してください」


「では、行きましょうか。冬哉、どうしたの?」


「いや、何でもないよ」


 楓の件は、楓のしょうもない空間魔法で手打ちになったようだ。


 もう三人で仲良く話しているし、さっきまで笑いながらキレていた人たちには思えない。


 本当に、女の子は分からない。


 少しの恐怖を噛みしめつつ、楓の飛行魔法で城壁の上から、ルーミルの街に入った四人であった。


 もちろん、門番の検査を通ってないので、れっきとした不法入国である。


 後から知ったことなので、一応言っておくが、不法入国するのは悪人だと決まっているため、騎士団に丸一週間しぼられるらしい。

まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。


もし面白いなと思っていただけたなら、ブックマーク登録、ポイント、リアクションもお願いします。


ぜひ他の作品も読んでみてください。

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